2015年04月06日
1. Dライン
火災事故が発生したセプタム電磁石電源については、J-PARCセンター加速器ディビジョン・物質生命ディビジョンの専門家からの協力の下、安全を確保した回路設計・修理工程の検討が進んでいる。
一方、震災復旧補正予算を用いたDライン超伝導ソレノイド電磁石はほぼ製作を終了し(図1)、2015年度夏季ビーム停止期の交換作業を念頭に、低温セクションの協力のもと、作業工程の策定等の作業が進められている。
2. Uライン
Uラインでは、安全性を高める為の様々な取り組みを実施した。ミュオングループ内では都合3回にわたり安全査察を実施して細かなリスクを洗い出し、改善のための作業を実施した。具体的には、可燃物除去の徹底、整理整頓、養生の改善、機器の固定などを実施し、また、電気機器について、埃の除去や配線の固定状態確認などの点検を行った。特に、電磁石に使用している電源については、メーカーによる点検と通電中の温度上昇の測定などを実施し、安全性を確認した。
新たな装置としては、スピンローテーターの電磁石励磁用電源の設置を行った。これについても、通電試験を実施してその安全性を確認した。また、静電レンズの電極間に発生する漏れ電流に対処するためのシャント抵抗ボックスを製作し、電圧印加試験等を慎重に行ってその安全性を確認した。レーザーについても、安全性を高める為の検討を重ね、光路を覆うカバーなどの設計を進めている。
なお、3月9日には超低速ミュオン生成用レーザー光源の開発についての国際諮問委員会「International Advisory Committee for Lyman Alpha Laser」が開催され(図2)、現行計画の妥当性や今後の見通し等について熱心な議論が行われた。
3. Sライン
Dラインセプタム電磁石電源の火災事象を受け、Sラインの電磁石電源に関しても安全の観点からの見直しを検討している。これら新規の電源は工場試験で問題ないことが確認されているが、MLFに搬入・据付されたのち、実負荷に接続しての通電はいわゆる3H(はじめて・変更・久しぶり)のうちで「はじめて」に該当する。そこで、実負荷試験については電磁石側のインターロックとの連係動作確認や、さらに上位制御系への伝達など、点検すべき項目をまとめ、セクション内で議論した上でMLFディビジョン機器安全検討チームに諮る予定である。
ミュオン2次ビームライン電磁石等の冷却水である30系冷却水配管は、昨年秋のSライン配管新設工事の際のトラブルにより、配管内に空気が大量に侵入した。10月の運転再開時にはエアベントから排気スタックに排出する作業を行ったが、運転を継続するうちに徐々にまた空気だまりが生じていると見られ、ポンプ始動・停止時にサージタンク液位が大きく変動することが問題となってきた。そこで、中性子源のセクションの協力の下、MLFの利用運転停止毎に、2度ほど空気の排出作業を試みた。その結果、液位変動については改善する傾向がみられている。
Sラインのコミッショニングに備えて、ビームラインチューニング用のソフトウェアの準備を行った。これは、もともとUラインのコミッショニングの際に作成されたソフトウェアをもとに、汎用性、拡張性を加えたものである。これにより今後Sライン以外のビームラインでもコミッショニング作業効率を格段に向上させるものと期待されている。
4. ミュオン源
MLFでの火災事故については2月19日にJ-PARCセンターより関係各方面への最終報告書が提出され、これを受けて3月初頭にハドロンを除く施設全体の運転が再開されたが、MLFでは火災の影響でミュオン標的はビームラインより抜いた状態で陽子ビーム運転を行っているが、3月19日にはミュオン標的からの寄与を含めた施設全体の放射線量測定を実施するために、一時的に回転標的を陽子ビームラインに挿入して運転を行った。
回転標的2号機、および使用済み標的ロッドのうち中放射下部と低放射下部を格納する中放射下部用長期保管容器については、3月9日~12日の工場試験を経て(図2)、3月18日に施設に搬入された。後者については、2015年度以降遠隔コミッショニングを計画している。(標的ロッドの高放射下部用の長期保管容器については既に製作され、2014年夏期シャットダウン中に放射化機器取扱室における遠隔コミッショニングを完了している。)
なお、標的真空容器の上部周辺のメンテナンスを行うM2トンネルでは、年々線量が高くなっている。作業員の被ばく量を低減するための追加遮蔽体が搬入された。
・ミュオン国際諮問委員会(MAC)
J-PARCセンターの下でのミュオン諮問委員会(Muon Advisory Committee, MAC)が2月11日,12日と2日間にわたりKEK東海キャンパスで開催された。MACでは、J-PARCセンター長からの諮問を受けてミュオンセクションによるMUSE施設の運転・維持管理などについて毎年評価するとともに、今後これらが目指すべき方向についての助言・勧告が行われる。本委員会は物構研所長の下にあるミュオン科学諮問委員会(MuSAC)と同一メンバーであり、例年これを合同開催してきたが、今回は物構研所長の意向によりMACとしてのみの開催となった。(図3)。
初日には、池田J-PARCセンター長から今回の諮問内容が提示されるとともに、J-PARC全体についてレビューが行われ、特に一昨年5月に発生したハドロン事故後の対応について説明が行われた。さらに瀬戸副ディビジョン長から物質・生命科学実験施設(MLF)の現状報告が行われた後、三宅セクションリーダーからMUSE施設の現状および直前に発生したセプタム電源の火災事象について、また研究主幹からは大学共同利用研究についての状況が報告された。続いて、ミュオン生成標的開発、Dラインおよび付設μSR分光器の高度化、Uラインとその下流にある超低速ミュオンビーム発生装置の建設を中心に、この1年間の進展についての報告がなされた。また、昨年度補正予算で一部の建設が始まったSラインの進捗状況、およびHラインの検討状況が報告された。 2日目はMUSE施設執行部へのインタビューが行われ、その後施設の実況を見学する時間が設けられた。
当日最後にはMuSAC/MAC委員長から答申の要約が提示されるとともに、その内容2が月16日〜17日に開催されたJ-PARC国際諮問委員会(IAC)の席で新井ディビジョン長から報告された。なお、最終報告書はMorenzoni委員長より5月中にJ-PARCセンター長宛に提出される予定である。