ミュオン科学研究系活動報告2015(9~10月)

2015年10月

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. セプタム電源復旧作業報告

 セプタム電源火災(2015.1.16)以後、「複数の目で、危機意識を持って」を合言葉にセプタム電源の復旧に向けて専門家(加速器RCS 電源担当者、MLF 共通技術S 電気担当者)を含めたセプタム電源安全審査会を立ち上げた。第1 回目のレビュー(3月20日)以来、工場立会いも含め、計20回のレビューが行われ、あらゆる危険要素を想定した回路の安全性(主に発熱部への対応)および電源制御体制(状態遷移の見直し)が業者と共に複数の目によって確認・検討された(図1)。低電流モードにおいて保護協調および低電流制御を明確にするため、小型電源は本体に組み込まず別筐体とした。本体および小型電源の入力を同じ3φ420V から供給した事故の反省から、小型電源の電力は3φ200V の漏電ブレーカを追加し、本体側の電力とは排他的に切り替わるロジックに変更した。

 

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 図1:セプタム電源レビュー [拡大図(401KB)

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図2:改善された主回路ブロック図 [拡大図(188KB)

 

 図2に示すように、小型電源に電力を供給するときは、3φ420V の主ブレーカは遮断され、万が一、開閉器が故障しても速断ヒューズによって電力は遮断される。さらに、制御用ブレーカ未投入時に標準/低電流の主ブレーカがON しないように、ハードワイヤーによって元から電力を遮断(主ブレーカをトリップ)する安全対策が施されている。
 その他の改善として、出力導体に異なる二枚の異形断面のブスバーが使われていたが、規格を整えた、同形断面のブスバーに変更された。また、小型電源の出力ブスバー同士を連結するタップネジ止め固定をボルト+ナットによる固定に変更し、水冷DCCT 導体およびラジエータ用ファンに温度センサーを追加するなどの温度対策を行った。
 一方、性能面では標準/低電流モード両方において、電流リップルおよび電流安定度共に仕様値(10-4)を満足した。
 セプタム電源は工場検査の後、現地試験のための安全審査(MLF 安全審査会)を経て、10月中旬にMLF において現地試験が予定されている。

 

2. ミュオンスクレーパ交換設置

 ミュオンセクションでは今年度の夏期作業として、標的直下流のスクレーパの交換を実施している。スクレーパは高度に放射化しているため、MLF ディビジョン内、放射線セクションでの安全審査を経て、作業を実施している。9月3日に使用済みスクレーパはビームラインから一時保管庫に遠隔操作交換輸送容器キャスクを用いて無事に輸送された。使用済みスクレーパの残留放射能はスクレーパ表面より70 mm 離れた位置で毎時1.5 Sv であった。9月8日には新たに製作したスクレーパもキャスクを用いて、ビームラインに設置された。冷却水配管、ビームラインの復旧も行われ、ビーム再開の準備を進めている。

 

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図3:左上;スクレーパにはビーム経路に沿って精密な機械加工が施されている。右上;一時保管庫内の保管容器に遠隔操作で吊り下ろされる使用済みスクレーパ。下;使用済みスクレーパをビームラインから抜き出す直前の写真(キャスク架台上にて)。 [左上:拡大図(319KB) / 右上:拡大図(295KB)/ 下:拡大図(819KB)

 

3. Uライン

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 図4:収束ソレノイドの銅端子部分。はがれたメッキスズ [拡大図(188KB)

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 図5:SOAレンズ [拡大図(369KB)

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 図6:新規導入したNd-YAG レーザー [拡大図(340KB)

 収束ソレノイド5号機の地絡に係わる調査・修理が完了し、納入後即日ビームラインに設置した。その後の冷却試験にて全く問題なく冷却が完了している。地絡の原因は高温超伝導体リードの銅端子にメッキしてあるスズが低温脆性の一種であるスズペストと呼ばれる相転移により剥落し、絶縁物を覆ったためと判明している(図4)。湾曲ソレノイドは、He 圧縮機用冷却水の運転再開とともに冷却を開始し、現在順調に冷却中である。
 超低速ミュオンビームラインでは、高温のタングステンフォイルから飛来すると思われる金属粒子による絶縁の劣化を防ぐため、SOA レンズの碍子交換を行った。またビーム検出用のMCPが長時間の使用で劣化が進んだと考えられるため新品との交換を行った(図5)。今後Li イオン、水素によるビームコミッショニングを経て、超低速ミュオンビーム生成実験を行う。
 超低速ミュオン生成用レーザーシステムでは、大強度のイオン化レーザーを新規に導入し(図6)、立ち上げ試験を開始している。ライマンα生成用レーザーシステムも夏のメンテナンス期間を終え、再立ち上げを行い、問題なく稼働している。今後ライマンα生成試験、水素原子のイオン化試験を経て、超低速ミュオン生成実験を実施する。

 

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