ミュオン科学研究系活動報告2015(11~12月)

2015年12月

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

 J-PARC MLF 第1 実験ホールの低速ミュオンビームラインS ラインは、物質材料科学や生命科学研究で主に利用されているミュオンスピン緩和法(μSR 法)の実験を主目標として最適化されているビームラインである。陽子ビームライン上のミュオン生成標的(グラファイト)に高エネルギー陽子が衝突することで生成するパイオンのうち、生成標的表面近傍で静止したパイオンが崩壊することで生成標的から飛び出してくる低速(表面)ミュオン(運動量は約28 MeV/c)は正のミュオンビームを大強度に得る手法としてよく確立されたものである。とくに正のミュオンを利用するμSR 実験において、大強度の低速(表面)ミュオンビームは高統計測定、微小試料測定、時分割測定など様々な先端的測定に利用できると期待されている。Sラインでは最終的に4 か所の実験エリアを設け、それぞれにシングルパルスビームを効率よく配ることにより先端的な研究の同時多角的な展開・推進を目指すものである。平成25 年度より最初の実験エリアとなるS1エリアまでのミュオンビームライン建設がスタートし、昨年11 月の施設検査の合格判定によりビームラインとして完成をみた。
 今般、10月29日からのビームタイムにおいてコミッショニング作業を本格的に開始した結果、S1実験エリアにおいて取り出されたビームの崩壊陽電子の時間スペクトルはミュオンの平均寿命2.2 マイクロ秒となることを示しており(図1)、このことから取り出されたビームは確かにミュオンビームであることが確認できた。さらに時間スペクトルでは、μSR測定においてノイズ信号を与えることとなるミュオン生成標的から飛来するプロンプト陽電子(図1において1700 ナノ秒あたりに見られるピーク)がミュオンの信号に比べて2ケタ近く小さく観測されており、μSR 実験に適した良質なビームが得られていることをうかがわせる。また、このプロンプト陽電子とミュオンのそれぞれの信号の時間差(TOF 測定)から、ミュオンの運動量測定を試みたところ、約28 MeV/c であることがわかった。以上の結果より、S1実験エリアでは低速(表面)ミュオンの取り出しに成功したことが確認された。現状、毎秒106 個を超えるミュオンビームがS1 実験エリアに引き出されているが、さらにビーム強度をあげるべくスタディを継続している。

 

image

 図1:取り出されたビームの崩壊陽電子時間スペクトル [拡大図(143KB)

 

image

 図2:取り出されたビームのTOF 測定の様子 [拡大図(635KB)

 

 

≪このページのTOPへ