ミュオン科学研究系活動報告2016(7月)

2016年 7月

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. Uライン

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 図1:U1A エリアに設置された Kalliope 検出器。 [拡大図(483KB)

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 図2:Kalliope で検出した崩壊陽電子の時間スペクトル。横軸はns。 [拡大図(115KB)

 ミュオン回転標的においては、1 MWにおいても放射線や熱による損傷は分散されて問題にならないと見込まれている一方、回転シャフトを支持するベアリングの損傷によって寿命が決定されている。
 現在、この回転系の監視のためにモータートルク値を測定しており、規定値に達するとビームを停止させるインターロックを設定している。我々 は、この回転系インターロックの多重化を目的として、マイクロフォンによるモーター音響の監視を計画している。
 現在、予備実験として回転モーター近傍にマイクロフォンを設置し、音響データの収集・解析を行っている。図1は、Run67における回転モーター 停止時と動作時の音響を比較したものである。回転モーターの動作に伴って8000 Hz付近に鋭いピークが観測されている。ビーム運転の有無に関わ らず同じトルク、同じ回転方向において、このピークの音圧レベルは、アンプ出力後でどちらも-70 dBであり再現性がみられており、インターロック設定のために重要な音源と考えられる。現在はトルクや回転速度、マイクロフォン位置を変化させた音響データの収集試験をヘンデル棟にて準備中であり、このオフライン試験と合わせてインターロック設定のための音圧レベル定量化を目指している。

 

 

2. Sライン

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 図3:Si の光照射μSR 実験の時間スペクトル。 [拡大図(315KB)

 低速ミュオンビームラインSラインでは、6月末のMLF運転終了までビームコミッショニング作業およびS型課題実験が進められた。とくにクライオスタット、液体ヘリウムを用いて実際の試料測定状況に限りなく近い状態で温度コントロール、RUNシーケンスなど、入念にパラメータ調整が行われた。6月初旬に、検出器Kalliopeのアナログフロントエンドを新たに開発されたASICに交換する作業が実施された。このASICは素核研E-SYSグループ、Open-ITと共同で開発された素子である。新しいフロントエンドの投入により、パイルアップによっておこるヒストグラムのひずみが劇的に改善され、さらに今後の大強度ビーム実験でも十分、能力を発揮できることが確認できた。パルスμSR法はパルス状の外場と組み合わせることで、とくに威力を発揮する。たとえば半導体Si中では、フラッシュランプによって励起されたキャリアにより、ミュオンスピンの緩和が生じることはよく知られている。このような測定を行うためには、フラッシュランプがON/OFFを繰り返しつつ、ビームが到達するタイミングでのフラッシュランプの状態によりデータヒストグラムを振り分けるようなデータ取得システムを構築する必要がある。図3に示すのは、今回のビームコミッショニングにおいてテスト実験として実施されたSiの光照射実験の時間スペクトルである。フラッシュランプがONの状態で緩和が観測され、パルス条件と組み合わせるデータ取得システムが正常に機能していることが確認できた。

 

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