2016年 12月
1. 装置整備・開発等
11 月14 日から第1 実験ホールS ラインにおいて負ミュオンのコミッショニングを開始した。負ミュオンは第2 実験ホールD ラインにおいて主に崩壊ミュオンを用いたユーザー実験がこれまで精力的に展開されている。一方で崩壊ミュオンとは取り出し方法の異なるクラウドミュオンの場合、その偏極度や収量、コンタミとなる電子の割合など、ビームラインの特性についての系統的な評価がいまだなされていなかった。そこでS ラインにおいて負のクラウドミュオンのコミッショニングを実施し、負ミュオンによるミュオンスピン回転実験のスタディーを行うこととした。下図に示すのはグラファイトに止まった負ミュオンスピンの横磁場20 ガウスでの回転をS1 分光器ARTEMIS で測定した時間スペクトルである。約2%のミュオン崩壊非対称度が観測されている。収量は取り出す運動量により大きく変化するが、典型的には1 時間あたり9M イベントの測定が可能であることを検証できた。さらにクライオスタット中など、実際の物性測定に近い試料環境でのS/N 比改善などを目指してコミッショニングが継続中である。
次に、最適化されたビームオプティックスを用いて、可能な限り低運動量の負ミュオンを取り出すべく、コミッショニングを行った。ワームボア方式では、ミュオンビーム軸方向にこれまであった、2 枚のAl (25 μm)製のビーム窓、トータルAl 50 μm厚がなくなったために、負ミュオンビームの窓での散乱や、損失がなくなり、特に低運動量のミュオンの引き出しが期待された。
今回のコミショニングでは、図2に、運動量に対する負ミュオン強度を示したように、3.3MeV/c(~51.5keV)までの低エネルギー負ミュオンの取り出しに成功することができた。Li 電池などの多層膜から構成される試料の元素分析に負ミュオンが展開できる目処がたったといえる。
2. Dライン
ワームボア方式の超伝導ソレノイドに改良したこともあり、D2 エリアで、ビームコミッショニングを11月 3日より継続的に実施している。超伝導ソレノイドは順調に稼働してり、表面ミュオン・崩壊ミュオンともに良好な輸送状態を確認できた。そこで、D2エリアにおいて、より先鋭化された良質なビームを取り出すことを目指して、新たに開発したビームモニタと自動チューニングプログラムForTUNE を駆使してビームラインの再調整を行った。
図1左図にフルビームのD1 エリアにおけるミュオンビームプロファイルを示す。図1右図は、標的位置でのビーム幅を可能な限り幅狭にする最適化したプロファイルである。この調整により標的位置でのS/N を著しく減少させるオプティックスが得られた。
次に、最適化されたビームオプティックスを用いて、可能な限り低運動量の負ミュオンを取り出すべく、コミッショニングを行った。ワームボア方式では、ミュオンビーム軸方向にこれまであった、2枚の Al(25 μm)製のビーム窓、トータル Al 50 μm厚がなくなったために、負ミュオンビームの窓での散乱や、損失がなくなり、特に低運動量のミュオンの引き出しが期待された。
今回のコミショニングでは、図2に、運動量に対する負ミュオン強度を示したように、3.3MeV/c(~51.5keV)までの低エネルギー負ミュオンの取り出しに成功することができた。Li 電池などの多層膜から構成される試料の元素分析に負ミュオンが展開できる目処がたったといえる。
>