2019年 10月 10日
【 MLF MUSE Dライン:負ミュオンビームバックグラウンド低減化調整 】
Dラインでは、負ミュオンスピン緩和(μ−SR)測定を実施することができる。通常、負ミュオンビームの強度を高めるため、高運動量(40~50 MeV/c)にて、広め(10 cm程度)のビームを用いている。ただ、このようなビームを用いるとμ−SR の時間スペクトル(図1)において、7 μs 程度以降にスペクトル歪が現れていた。このスペクトル歪を低減化するためのコミッショニングを行った。
μ−SR の時間スペクトルとμ-e 崩壊曲線との比較から、時間スペクトルの歪はミュオンよりも長い寿命(~20 μs)を持つ成分に起因すると考えられる(図1、及び2)。よって、長寿命バックグラウンド成分を低減化をめざしてのコミッショニングを行った。ビームラインチューニングを行い、各種測定を行った結果、長寿命バックグラウンド成分は、ビーム取り出し口のビームコリメータ(鉛製)、および外付けコリメータ―(W, Ni 合金)に由来することが明らかとなった(図2)。外付けコリメータを外し、さらにスリットによりビームサイズを小さくするビームラインチューニングを行い、ビームがコリメータにあたりにくい条件を実現することにより、バックグラウンド成分を2桁程度低減することができた(図2)。その結果、μ−SR 時間スペクトルで見られていたスペクトル歪を解消することに成功した(図1)。
【 ミュオン生成標的:標的二号機への交換完了,赤外カメラ設置完了 】
■ 強度不足の回転カップリングが使用されているミュオン標的一号機を取り出し、適正品が用いられている二号機をビームラインに挿入した。真空系・冷却水配管・制御系の復帰が完了し、現在は標的の回転試験を行っている。回転モーターのトルク及び回転速度は安定に推移している。
使用済みミュオン標的一号機は、MLF三階大型機器取り扱い室の一時保管庫に設置された真空容器内に保管されている。
■ 回転停止による温度上昇を迅速(1秒以内)に検知するため、ミュオン標的を監視する赤外カメラを上流12mのビームラインに設置した。赤外カメラ・赤外真空窓は照射試験実績(高崎研・放医研・JRR4等)があり、赤外カメラは1 MW運転で1年以上(5 Gy以上)、真空窓は長期間(50 MGy)の耐放性が期待されている。カメラ設置場所の既存陽子ビームラインダクトを赤外真空窓用ポート付きダクトへ交換した。このダクト内部には金蒸着されたミラーが設置されており、標的からの反射光をカメラで測定する。陽子ビーム軌道確保のため、ミラーは交換前ダクト径より外側に位置している。
今後、数か月の試験的測定を行い、MPSに接続予定である。