ミュオン科学研究系活動報告2019(12月)

2018年 12月 10日

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. ミュオンHライン屋外受変電ヤード工事

 現在建設中のミュオンH ラインは高統計を要する基礎物理実験や透過型ミュオン顕微鏡などの実験が計画されている大強度ミュオンビームラインである。ビームラインに必要とされる電力は約5MWに達し、MLF 既存の受電設備では賄えないため、MLF 第一実験ホール搬入口のそばに屋外受変電ヤードを建設中である。
 夏季シャットダウン期間中に敷設したケーブルラックが3NBT 下流コールド機械室のテルハ下を通るため、テルハ操作時の下方視界を確保するために張り出しステージを製作し、設置作業を進めている。


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  図1:テルハ操作用ステージ(左)およびその設置作業(右) [拡大図(1.4MB)

 

2. ミュオンDライン・ミュオニックX 線元素分析装置高度化

 ミュオニックX 線を用いた非破壊元素分析装置において、ビーム照射位置、及び分析試料の常時モニタを可能とするためのカメラを導入した。これにより、ビーム上流側から照射位置を確認できるようになり、試料マウント時のアライメント性が向上した。また、ビーム照射中も常時モニタが可能となり、文化財等の貴重な資料の分析における安全性も高まった。

 

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図2:ビーム照射位置に分析資料(文化財資料:経筒)を設置し、ビーム照射面上流側上方よりビーム照射位置を観測した様子。 [拡大図(406KB)

 

 低エネルギーX 線分析のために、シリコンドリフト検出器(SDD)を導入した。これにより通常Ge 半導体検出器では苦手とする20keV 以下の領域まで、観測エネルギー領域が拡張された。現在、ミュオニックX 線分析のための調整を実施中である。

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  図3:低エネルギー領域のX 線検出をカバーするために、新たに導入されたSDD(左)。ミュオニックX 線元素分析装置に試験的に取り付けられたSDD(右)。 [拡大図(668KB)

 

3. ミュオンS ライン:中性子・ミュオンスクール果

 Young MIRAI/AONSA 中性子・ミュオンスクールが開催され、昨年に引き続き、茨城大の中野准教授、飯沼准教授がチューターとなり、S1 エリアにおいて実習生4 名に対してμSR 実験の講義・実習がおこなわれた。実習の最後に行われるプレゼンテーションではS1 エリアの実習グループが1 位を獲得した。

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  図4:S1 エリアキャビンで実験試料のマウント方法について説明する中野准教授(左奥)と飯沼准教授(右奥)。 [拡大図(2.1MB)

 

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  図5:S1 エリアで実習生にμSR 分光器について説明する中野准教授(左)。 [拡大図(2.2MB)

 

4. ミュオン生成標的:利用運転開始

 12 月6 日に今夏に挿入されたミュオン回線標的2 号機の陽子ビーム照射試験を行った。図6 に示すように、温度や回転モーターのトルクについても異常は無く健全性が確認されたため、500 kW 連続運転へと移行した。 新規にM1 トンネルに設置された赤外線カメラによって初めて照射中のミュオン生成標的の温度分布観察が成功した(図6)。赤外線カメラは放射線によって停止する頻度が多いので、その対策が今後の定常監視のための課題である。

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  図6:標的各部の温度と回転モータトルクの推移。飽和値は一号機とほぼ同等であり、異常変動も観測されていない。 [拡大図(147KB)

 

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  図7:500kW 運転中のミュオン標的温度分布。黒鉛リングの分割部が温度変化に合わられている。 [拡大図(205KB)

 

 

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