2020年 1月 7日
第2回 文理融合シンポジウム「量子ビームで歴史を探る」
第2回 文理融合シンポジウム「量子ビームで歴史を探る」−加速器が紡ぐ文理融合の地平−が、2019年12月25日(水) 〜 12月26日(木)、大阪大学中之島センターにおいて開催されました。(主催;高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所、高エネルギー大阪大学核物理研究センター。共催;人間文化研究機構・国立歴史民俗博物館、国立科学博物館。協催は、日本中間子科学会、J-PARCセンター、新学術領域「宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋。」、異分野融合「新学術・産業応用を目指した次世代ミューオン分析拠点の形成」 。)
文化財をはじめとする人文科学資料研究への活用が期待される「負ミュオンを用いた新たな非破壊研究手法」の実用化を、日本の研究グループが精力的に推進しております。高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所のJ-PARC MLFミュオン施設(MUSE)では、世界最高強度のパルス負ミュオンビームを用いた分析を進めておりますが、近年では、大阪大学核物理研究センター(RCNP)でも、連続負ミューオンビームによる非破壊分析が活発に実施されております。そこで、第2回文理融合シンポジウムは、関西方面の方々の研究者にも広く参加して頂くべく、大阪で開催することとしました。会場は、大阪大学の佐藤朗氏にご尽力いただき、大阪市の中心部、中之島に位置する大阪大学中之島センターを利用させて頂きました。
シンポジウムには、量子ビーム供給するミュオン施設、中性子施設、放射光施設の研究者に加え、非破壊分析に興味を持つ大学や博物館などから考古学・文化財研究者が集結しました。参加総数は71 名を上回り、口頭発表18 編、ポスター発表16 編の計34 編の発表を持ちました。これらの講演や懇親会、休憩時間を通して、文系・理系の垣根を越えた、活発な議論を行う貴重な機会を持つことができました。
第一日目は、まず、ミュオン非破壊分析の現状を把握するために、3つのミュオン施設の各代表者に分析の現状と展望について講演していただきました。最初にKEK 物構研の三宅が、ミュオンとは何か、特に、J-PARC に於けるミュオン非破壊分析法の現状に関しての講演しました。続いて、理研の石田氏が、英国ラザフォードアップルトン研究所にある、理研RAL パルスミュオン施設における考古学研究の現状を、阪大の佐藤(朗)氏が、連続状ミューオンを用いた阪大MUSIC に於けるミュオン非破壊分析の現状を報告しました。次のセッションは、元興寺文化財研究所・植田氏による金属製文化財の保存処理と非破壊分析の講演、歴博の齋藤氏による鎌倉時代の経筒、銅鏡、宋銭における非破壊元素分析の講演で開始され、文化財研究者側から文化財・歴史資料に対する非破壊分析の重要性、ミューオン分析の意義が説明されました。続いて、古代青銅器内部の非破壊元素分析と非破壊同位体分析の実例が阪大の二宮氏により紹介されました。さらに、中性子及び光量子を用いた放射化分析法の先端技術の紹介として、首都大学の白井氏によるはやぶさ2 回収資料放射化分析の講演へと続きました。
初日のセッション終了後には、中之島センター交流サロンにおいて懇親会が行われ、和やかな雰囲気の中で異分野研究者間での意見交換が進みました。
第二日目は、ミュオンを用いた分析法に関して、より具体的な測定方法の紹介と最新検出器技術、新たな分析方法の提案がありました。また、複数の考古学者・文化財研究者から、ミューオンや他の量子ビームを用いた分析の実例や将来の非破壊分析への要求が講演されました。KEK 反保氏によるミュオン分析法原理の講演後に、岡山大学の考古学研究者である清家氏による定東塚古墳出土の馬具のミュオン分析並びに、岡山の造山古墳に対してのミュオンラジオグラフィに関する実験計画についての講演、同大学の南氏による、青銅鏡、特に、三角縁神獣鏡における非破壊分析と鉛同位体研究に関する講演、阪大の上田氏による京都府篠窯跡群における考古学的フィールド調査の具体的例が紹介されました。また、国際基督教大学の久保氏からは負ミュオン寿命測定法による新たな非破壊分析法の提案、KEK の竹下氏からは正ミュオンを用いた新たな非破壊分析法の紹介がなされました。
文化財非破壊分析の実例としては、昭和女子大の田中氏による自在置物等の鉄鋼分解財の放射光・中性子・ミュオンによる分析の講演、科博の沓名氏による甲府金などの小判に関するミュオン分析の講演、阪大の高橋氏による緒方洪庵ゆかりの薬瓶のミュオン分析、近世医療文化財の調査、保存技術の確立に向けた取り組み関する講演がありました。最後のセッションでは、岡山大学の松本氏によるミュオンを利用した考古学研究のReview 講演並びに新しい新学術領域「出ユーラシアの統合的人類史学」のご紹介があり、最新技術による分析の展望として、理研の東氏によるTES 超伝導X 検出器が切り開く超高分解同位体分析に関する講演が行われました。
今回のシンポジウムでは、第二日目の午前中に学生や若手研究者の発表を中心としたポスターセッションを設けました。ミューオンを用いた最先端研究、測定・検出器技術の紹介や、青銅器の新しい年代測定法の検討など発表に加え、阪大考古学研究室の若手からは考古学研究の発展に向けたミューオン分析導入の展望についてのシリーズ発表があり、分析側の研究者と有益な意見交換が行われていたのが印象的でした。
最後に第3 回目の文理融合シンポジウムを2020 年9 月に国立科学博物館で開催することを案内し、シンポジウムを閉幕しました。