ミュオン科学研究系活動報告2020(4-5月)

2020年 5月 14日

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

1. ミュオンDライン・ミュオニックX線元素分析装置高度化

 DラインD2エリアで展開されているミュオニックX 線非破壊元素分析装置においては、被研試料への入射ビームエネルギー(運動量)の安定性を高めるために、ヘリウム純度モニタを導入した(図1)。
 当該分析法においては、低速負ミュオンビームを被検試料に照射し、試料内のある深さにおいて停止した負ミュオンが原子核に束縛され、軌道間遷移を行う過程で放出される特性X 線を計測する。この強度比から試料の元素比が得られる。入射負ミュオンのエネルギーを調整することにより、負ミュオンの停止深さ、すなわちプローブ深さを制御することができる。
 使用する負ミュオンビームは通常数MeV/c 程度であるため、精密な深さ分解測定を行う上で空気によるビームの減速、散乱の影響が無視できない。このため、被検試料をヘリウムで満たされたガスバッグ中に設置することにより、空気の影響を排除した環境を実現している。これまで、このヘリウムガスの濃度が不安定であったが、当該機器を導入したことにより、遠隔での濃度のモニタ、記録が行えるようになり、より信頼性の高い測定が可能となった。

 

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図1:装置に導入されたヘリウム純度モニタHPM-02(ツジ電子株式会社WEB サイトより) [拡大図(406KB)

 

2. ミュオンSライン・S1エリア

 来るMLF 陽子ビーム1MW 運転の時代では、測定に要する時間はより短くなる。試料環境などの外部パラメーターを従来のようにある値に固定してひとつひとつRUN を走らせると、測定の開始・終了、外部パラメーターの設定変更など、オーバーヘッドに要する時間が大強度ビーム時代では気になりつつある。そこで、外部パラメーターを連続変化させつつ、その間はデータを取得し続けて随時、ヒストグラム化するという全く新しい測定手法を開発している。外部パラメーターのうち、とりわけ温度は試料全体が熱平衡状態に達するのに有限時間が必要であり、連続変化に対して慎重な見極めが必要なパラメーターである。4月以降、外部ユーザーが来られなくなったビーム期間を利用して、装置調整の実験をおこなった。

 

3. ミュオンSライン・ミュオニウム精密分光実験へ向けたS2エリアの建設

 現在、MLFのSラインでは、岡山大学の植竹氏の率いるグループによりミュオニウムの精密分光実験へ向けて、新たな実験エリアとしてS2の建設準備が進められている。この実験は、純レプトン系であるミュオニウムの2つのエネルギー順位1s と2s の間の遷移エネルギーをレーザー分光により精密に測定することで、電弱相互作用の高精度検証を行うものである。その為には、大量のミュオニウムを生成する必要があり、新たにS2エリアを建設して実験に使用する計画である。
 現在、実験へ向け、レーザーの開発、ビームシミュレーションなどと並行して、S2エリアおよびレーザーハットの詰めの設計作業が進んでいる。

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図2:S2エリアの予想図(緑色の部分) [拡大図(881KB)

 

4. ミュオンHライン・屋外受変電ヤード工事

 現在建設中のミュオンHラインは高統計を要する基礎物理実験や透過型ミュオン顕微鏡などの実験が計画されている大強度ミュオンビームラインである。ビームラインに必要とされる電力は約5MWに達し、MLF 既存の受電設備では賄えないため、2017 年度からMLF 第一実験ホール搬入口のそばに屋外受変電ヤードの建設を進めてきた。
 2020 年1 月に高圧トランスを設置し、上位受変電設備~Hライン用受変電ヤード~MLF 内実験盤までのケーブリングがすべて完了した(図3)。2020 年3 月には耐圧試験等を行い健全性を確認し、Hライン第一分岐(H1エリア)までのビームライン機器に最低限必要となる1期工事が完了した。

 

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図3:ミュオンH ライン屋外受変電ヤード(左)および耐圧試験の様子(右) [拡大図(713KB)

 

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