ミュオン科学研究系活動報告2020(6月)

2020年 6月 10日

◤ ミュオン科学研究グループ活動報告

 豊田中研のグループは、KEK物構研ミュオングループ、大阪大学、国際基督教大学、CROSSと共同で、リチウムイオン電池に用いられる黒鉛負極表面に析出させた金属リチウムの非破壊検出に初めて成功した。あらかじめ金属リチウムの析出深さが分かっている2つの試料を比較することにより、金属リチウムと充電された電極中のリチウムイオンとで、負ミュオンの捕獲率が異なり、両者のリチウム1原子当たりの検出感度が大きく異なることを初めて明らかにしたものである(図1)。得られるミュオン特性X線の強度のうち、黒鉛負極中のリチウム量は電池の充電状態からわかるので、リチウム金属に由来する信号強度のみを捉えられる。このことにより、電極に析出する金属リチウムを、黒鉛電極中のリチウムイオンと区別して検出が可能となった。
 実用の電池は電解液や被膜などを含みますが、本研究では金属リチウムを析出させた電極を取り出し、ラミネートで包んで試料とした。100マイクロメートル厚以上の鉄等の金属容器に入ったものでは原理的に不可能だが、実用のリチウムイオン電池では、金属リチウム析出が検出可能であると考えられる。本研究により達成したリチウムイオン電池における金属リチウムの非破壊検出技術は、今後リチウムイオン電池の安全と容量劣化の問題解決に貢献する技術として期待される。この研究成果は、ACSの論文誌「Analytical Chemistry」に5月29日掲載されました。
 この研究にはKEK物構研のミュオングループによる、リチウムイオン電池内のリチウムのミュオン特性X線を検出するための高感度の検出器システムと試料用チャンバの整備、さらに、リチウムイオン電池のような数十マイクロメートル厚の電極が層状に重なる構造を持つ試料を測定するための、低運動量の大強度負ミュオンビームの開発が不可欠でだった。

 

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図1:充電された黒鉛負極に金属リチウムを析出させた試料の(A)SEM像と(B)模式図。金属リチウムは負極の銅集電箔と反対側に析出している。(C)リチウムに由来するミュオン特性X線の信号強度の充電容量依存性。黒鉛にリチウムイオンが挿入される(インターカレーション)領域に比べて、金属リチウム析出領域では急峻な傾きを示し、黒鉛中のリチウムよりも金属リチウムに感度が高いことがわかる。 [拡大図(221KB)

 

 

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