ミュオン科学研究系活動報告2020(10月)

2020年 10月 2日

◤ イベント・会議

第3回 文理融合シンポジウム「量子ビームで歴史を探る」-加速器が紡ぐ文理融合の地平

物構研ミュオン科学研究施設
三宅 康博、下村浩一郎

 

 KEK物構研では、ユニークな特徴を有するJ-PARC MLF(MUSE)の世界最高強度の負ミュオンビームの優位性を生かし、文化財をはじめとする人文科学資料の研究にも活用できる可能性を秘めた、新たな非破壊研究手法を開発してきた。 一方、これまでも放射光や中性子などを用いて、様々な文化財科学の研究が行われている。そこで、放射光・中性子・ミュオンなどの量子ビームを利用する文化財研究の第一人者が一堂に会して、これまでの考古学研究、並びに関連研究、更に分析技術を紹介し、文理融合研究の可能性を探る本シンポジウムを開催するに至った。2019年度に、第1回シンポジウムが、国立科学博物館で開催され、第2回シンポジウムが、大阪大学中之島センターにおいて開催された。本年2020年は、9月25〜26日に第3回文理融合シンポジウムがオンライン開催となった。

 

第3回文理融合シンポジウム

 第3回 文理融合シンポジウム「量子ビームで歴史を探る」-加速器が紡ぐ文理融合の地平-が、2020年9月25日(金)〜9月26日(土)、オンライン開催された。(主催;高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所。 共催;人間文化研究機構・国立歴史民俗博物館、国立科学博物館。 協催;日本中間子科学会、J-PARCセンター、大阪大学核物理研究センター、新学術領域「宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋。」、異分野融合(大阪大学)「新学術・産業応用を目指した次世代ミューオン分析拠点の形成」 。)第3回シンポジウム開催にあたっては新型コロナウイルスCOVID-19感染拡大の状況を踏まえ、参加者の健康や安全面を第一とするため、オンライン方式とした。
 本第3回シンポジウムでは、量子ビームを供給するミュオン施設、中性子施設、放射光施設の研究者に加え、非破壊分析に興味を持つ大学や博物館などから考古学・文化財研究者が集結した。参加登録総数は83名を上回り、口頭発表20編の発表を持った。これらの講演を通して、文系・理系の垣根を越えた活発な議論を行う貴重な機会を持つことができた。

 第1日目は、まず、KEKの岡田理事、ミュオン系の下村主幹に挨拶を皮切りに、ミュオン非破壊分析の現状を把握していただくために、3つのミュオン施設の各代表者に分析の現状と展望について講演から始まった。最初にKEK物構研の三宅氏が、ミュオンとは何か、特に、J-PARCに於けるミュオン非破壊分析法の現状に関しての講演を行った。続いて、理研の石田氏が、英国ラザフォードアップルトン研究所にある理研RALパルスミュオン施設における考古学研究の現状を、阪大の佐藤(朗)氏が、連続状ミューオンを用いた阪大MUSICに於けるミュオン非破壊分析の現状を講演した。
 第2セッションでは、歴史民俗博物館の齋藤氏が、経筒や、銅鏡の青銅品における元素分析ならびに、丁銀の時代推移とともに進化した“色づけ”文化の変遷をミュオンで調べた研究成果を、国立科学博物館の沓名氏は、甲府金(蛭藻金)の表面処理のミュオン分析の研究を、岡山大学の南氏は、青銅鏡、特に、三角縁神獣鏡における非破壊分析と鉛同位体研究に関する講演を行った。
 第3セッションでは、国際基督教大学の久保氏が、負ミュオン寿命測定法を用いた新たな非破壊分析法により、日本刀を例に、鉄中の炭素濃度をppmで測定できることを紹介した。引き続き、名古屋大学の鬼柳氏が、様々な時代に於ける日本刀のビーカー硬度を中性子ブラッグエッジ透過法による硬さで測定に関する講演を行った。引き続き、Spring8の新田氏から最近の放射光のイメージングの進展と、放射光を用いた考古学関連研究の講演が行なわれ、第1日目を終了した。

 2日目は、KEK物構研の反保氏によるミュオン非破壊分析法の基礎、原理についての分かりやすい解説から始まり、KEK物構研の竹下氏が、MUSEにおいて、新しく導入しようとしているマルチ素子(100素子)Ge検出器の紹介を行った。 次に、新学術領域研究で進めている最新分析技術の展望として、JAXAの渡辺氏がCdTe半導体による高感度硬X線撮像分光検出器とミュオン非破壊分析への展開、理研の東氏がTES超伝導X検出器が切り開く超高分解同位体分析に関する講演を行った。このセッションの最後に、阪大の二宮氏がミュオン分析法の新展開として、ミュオン化学状態分析を紹介した。
 第2セッションでは、J-PARCに近接する、ひたちなか市埋蔵文化財調査センターの稲田氏から、ひたちなか市埋蔵文化財調査センターにおける考古学研究の現状と課題の講演、続いて、阪大の高橋氏が、緒方洪庵ゆかりの薬瓶のミュオン分析、近世医療文化財の調査、保存技術の確立に向けた取り組み関する講演をおこなった。特に、J-PARC MUSEでの実験で薬瓶の中身が、見事に解明されたいうインパクトのある報告であった。
 最後のセッションでは、2020年度科研費基盤Sで採択された、“ミュオンを利用した巨大古墳の文理融合型総合研究”プロジェクトに関するセッションが持たれた。最初に、研究代表である岡山大学清家氏が、ミュオンラジオグラフィを中心とした巨大古墳の文理融合型総合研究の全体計画を講演し、引き続き、岡山大学の光本氏が、造山古墳のLiDAR測量、続いて、国立文化財機構奈良文化財研究所の木村氏が、埴輪研究における理化学分析の実践とその意義と考古資料にみられる文理融合の事例を紹介し、セッション最後に、岡山大学の野坂氏が、電子線マイクロアナライザーによる土器の分析に関わる講演を行った。
 シンポジウムの閉めとして、最後に、KEK小杉物構研所長からの結びの挨拶をいただいた。

 

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