ミュオン科学研究系活動報告2021(6月)

2021年 6月 9日

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

ミュオニックヘリウムの超微細構造測定

 ミュオニックヘリウムは、2つの電子のうちの1つが負ミュオンに置き換えられたヘリウム原子である。ヘリウム原子核の電荷は2荷であるので、捕獲された負ミュオンのボーア半径は水素原子の半径の400倍ほど小さい。したがって、外側に軌道を持つ電子から見た場合、基底状態の「(4Heµ-)+」は、1荷の実効電荷を持ち、負ミュオンと同等の磁気モーメントを持つ「疑似核」とみなすことができる。ミュオニックヘリウムの基底状態超微細構造(HFS)は、電子と負ミュオンの磁気モーメントの相互作用から生じる。これは正のミュオンと電子の結合状態からなるレプトニック系であるミュオニウムとほぼ同じである。Patrick Strasser等はその超微細構造をDラインにおいて世界最高精度で測定することに成功した。今後はHラインにおいて精密高磁場下でミュオニックヘリウム原子の超微細構造を精密に測定することで、負ミュオンの磁気モーメントと質量を50 ppbの高精度で決定し、ミュオンにおけるCPT不変性をこれまでの約100倍高い精度で検証する。併せて先行実験の約1000倍高精度の4 ppbで超微細構を測定することで、量子3体系の最新理論計算との突き合わせをおこなう。J-PARCにおける世界最高強度のパルス負ミュオンビームを利用し、我々がミュオニウム超微細構造測定で開発してきた系統誤差を小さくする新解析手法(ラビ振動法)と光ポンピングによる高偏極ミュオニックヘリウム原子を生成する方法を組合せることで精度を上げこれを達成する。

 

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