ミュオン科学研究系活動報告2021(9月)

2021年 9月 7日

◤ J-PARC MUSE施設整備状況

S2エリア初ビーム

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図1:ダクト接続作業 [拡大図(160KB)

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図2:ミュオンと陽電子の信号を捉えたオシロスコープの画像。ミュオンは、二枚のシンチレータの内、上流側(黄色)で止まり、そこで大きな信号を出す。陽電子は、上流側を通過し下流側(青色)のシンチレータに達する。陽電子の信号は小さいので下流側のPMTのGainは高く設定している。拡大図(70KB)

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図3:観測された陽電子の時間分布。2つのミュオンパルスを反映して階段状に立ち上がり、2.2 µsの寿命で減衰している。拡大図(127KB)

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図4:ミュオンビームのプロファイル [拡大図(61KB)

 MLF第1実験ホールにあるミュオンビームライン「Sライン」では、昨夏より、岡山大学の植竹氏の率いるグループによりミュオニウムの精密分光実験へ向けて、新たな「S2実験エリア」の設置準備が進められてきた。この実験は、純レプトン系であるミュオニウムの2つのエネルギー順位1s と2s の間の遷移エネルギーをレーザー分光により精密に測定することで、電弱相互作用の高精度検証を行うものである。その為には、大量のミュオニウムを生成する必要があり、新たにS2エリアを建設して実験に使用することとなったのである。

 

 先ごろ、ビームダクトの接続やインターロック装置の試験など、最後の作業が行われS2エリアの工事が完了した。図1は、ビームをS2エリアへと輸送するビームダクトの接続作業の様子である。 そして、ついにS2の試運転が開始され、ビームがS2エリアへと取り出された。

 

 まず、2つのシンチレータと光電子増倍管(PMT)を用いたビームの直接観測を行い、陽子ビームの時間構造を反映したミュオンビームの到来と、それに先立って飛来する陽電子を確認した。図2は、ミュオンと陽電子による信号をオシロスコープで捉えたものである。

 

 次に、ミュオンが崩壊した際に出る陽電子の時間分布を測定し、その減衰がミュオンの寿命と一致するか否かを確認した。図3に、測定された減衰曲線を示すが、ミュオンの寿命2.2 μs とおおよそ一致する結果となっている。また、陽電子の検出レートと、検出器がカバーする範囲から、ミュオンのレートを見積もることができ、毎秒3.6×106個程度のミュオンが取り出されていると見積もられた。

 

 さらに、図4に示すように、プロファイルカメラを用いてビームサイズなどを確認した。 測定の結果は、期待通りのものであり、S2エリアでの実験に向けての大きな前進である。

 

 今後は、S2エリア内の実験装置の準備を進め、次のビーム運転でのさらなるビーム調整の後、ミュオニウム分光実験を開始する予定である。

 

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