2023年 2月 15日
Dライン:ミュオニックヘリウムのSEOP法による再偏極に成功
2022年6月と2023年2月に、ミュオンDラインD1エリアにおいて、ミュオニックヘリウムのSEOP法による再偏極実験が実施された。
ミュオニックヘリウム原子は、2つの電子のうちの1つが負ミュオンに置き換えられたヘリウム原子である。ミュオニックヘリウム原子の生成の過程で、負ミュオンの偏極は大部分が失われてしまう。Patrick Strasser講師等が取り組んでいるミュオニックヘリウム原子の基底状態超微細構造測定においては負ミュオンの減偏極によって測定感度は低下する。
この問題の解決を目指し、2023年2月に光ポンピングを利用した高偏極ミュオニックヘリウム原子の生成実験を行った。今回の実験では光ポンピングによりRb原子の最外殻電子を偏極し、電子が偏極したRb原子とミュオニックヘリウム原子のスピン交換、及びRb原子とミュオニックヘリウムイオンの荷電交換により電子が偏極したミュオニックヘリウム原子を生成する。ミュオニックヘリウム原子の場合、電子の偏極は超微細相互作用により負ミュオンに共有され、最終的に負ミュオンが偏極したミュオニックヘリウムを生成する。この手法は中性子スピンフィルター作成に用いられる技術SEOP (Spin Exchange Optical Pumping) と同様のものであり、今回の実験はKEKの猪野隆講師やJAEAの奥隆之研究主幹、名古屋大学の奥平琢也助教といった中性子スピンフィルターグループの協力のもと行われた。
本実験では同様のビーム条件であっても照射するレーザーの偏光状態により崩壊電子の放出方向の非対称度が変化する結果が得られた。これはRb原子とのスピン交換により高偏極ミュオニックヘリウム原子原子が生成していることを示唆するものである。更に、中性子スピンフィルターグループの知見から、Rb原子同士の衝突による偏極緩和の影響を低減するためにRb原子の偏極をK原子に移行させるHybrid-SEOPについてもテストし、高温のもとでより高い効率で高偏極ミュオニックヘリウム原子を生成する可能性を確認した。