2025年 2月 12日
ミュオンUラインの最近の進展
ミュオンUラインでは、超低速ミュオンを用いた薄膜試料のµSR測定およびミュオン顕微鏡に向けたサイクロトロン加速実験が進められています。本研究では、およそ600 keVの運動量幅を持つ表面ミュオンをミュオニウム生成標的中に停止させ、0.2 eVまで減速した後、レーザーによって電子を解離させることで超低速ミュオンを発生させます。大面積で真空中に蒸散するミュオニウムの解離効率は、122.09 nmのMuライマンα光と355 nm光の強度に比例します。しかし、ライマンα光の発生および低損失伝搬の制御は困難であり、解離に寄与する実効強度は約5 µJに制限されていました。過去2年間で、レーザー光源の新規増幅器の稼働と、CIQuSで整備した真空紫外光測定装置を用いた光学窓の損傷評価および・材料の最適化を実施した結果、ライマンα光の実効強度を5倍以上に向上させることに成功しました。
さらに、光学窓材料の変更は、ライマンα光の発生に利用するKr-Ar混合気や、超高真空中の光学素子の劣化速度を低下させるといった、予想外の良い効果をもたらしました。これにより、従来は数日おきに光学系のメンテナンスや調整を行ってもライマンα光の強度を維持することが困難だった問題が解消され、安定した高強度のライマンα光を維持できるようになりました。その結果、超低速ミュオンビームの強度が安定し共同利用実験(ユーザーによるµSR実験、ミュオン顕微鏡開発)の開始が期待されます。