ミュオン科学研究系活動報告2026(6月)

2026年 6月 9日

◤ 出版論文

超低速ミュオンによる多層薄膜試料μSRのデモンストレーション論文が出版

背景 J-PARC MLF MUSEにおける超低速ミュオンビームライン(Uライン)では、レーザー乖離技術を用いて生成された低エネルギーの超低速ミュオン(USM)を利用した物性測定の準備を進めてきた。物質科学研究で広く用いられている約4 MeVのエネルギーを持つ表面ミュオンはバルク試料に適したプローブであるが、USMは高電圧ステージの昇圧により試料への入射エネルギーをサブkeVから30 keVの範囲で制御可能であり、薄膜試料や物質内部の界面の測定に極めて適している。多層膜試料を用いたUSMによる深さ分解μSR(ミュオンスピン回転・緩和・共鳴)測定の実証と、その成果をまとめた最新の出版論文について報告する 。
 

実証実験の概要  深さ分解能を実証するため、合成石英基板上にアモルファス二酸化ケイ素(SiO₂)と白金(Pt)を交互に積層した多層膜試料を用意し、U1A実験エリアの分光器にて室温で測定を実施した。Pt中では注入されたミュオンは反磁性状態となり十分な非対称度を示すが、SiO₂中ではミュオンのかなりの割合がミュオニウムを形成し、反磁性シグナルが低下する。このコントラストを利用し、入射エネルギーを変化させながら反磁性成分の非対称度を測定した。
 

測定結果と今後の展望 入射エネルギーをスキャンして得られた反磁性成分の非対称性を評価した結果、ミュオンがPt層とSiO₂層のどちらに主に停止するかに応じて非対称性が変動することが確認された 。得られたエネルギー依存性の傾向はモンテカルロシミュレーションに基づく予測モデルと定性的に一致する挙動を示した。中間エネルギー領域等で定量的な差異も見られるが、これは蒸着されたSiO₂層の不純物や欠陥密度がバルクの石英基板と異なることが要因と考えられ、今後の評価とモデルの精密化が進められる予定である。

 

本実証実験を通じて、UラインにおけるUSM-μSR装置が、広範な薄膜試料における実用的な深さ分解物性測定への道を確立したことが示された。

 

出版論文: S. Kanda et al., "Depth-Resolved μSR Using Ultra-Slow Muons at the JPARC MUSE Facility", Journal of Physics: Conference Series 3222 (2026) 012016.
DOI: 10.1088/1742-6596/3222/1/012016 (オープンアクセス)

 

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