PhotonFactory

KEK

S型課題の概要

S型課題は放射光科学研究施設として重点的に推進すべき課題として放射光共同利用実験審査委員会で採択された課題です。このページではS型課題の概要を紹介します(詳しくは各課題からリンクされているページをご覧ください)。


2018年度前期現在有効な課題

課題番号 実験責任者 所属 実験課題名 ステーション 期  間
2018S2-001 佐藤 宇史 東北大院理 高分解能角度分解光電子分光による新奇量子物質におけるエキゾチック準粒子の探索 28A/B 2018/4〜2021/3
2018S2-002 佐藤 文菜 自治医科大医 ソフトクリスタル群の微小外場誘起構造相転移におけるX線・UV-VIS同時in-situ測定 8A, 9A, 12C, NW10A, NW12A, NW14A, 15A1 2018/4〜2021/3
2018S2-003 足立 純一 KEK物構研 PF 2.5 GeVリングハイブリッドモード運転を活用した軟X線時間分解計測の展開 11A, 16A, 28A/B, 2B, 13A/B 2018/4〜2021/3
2017S2-001 熊井 玲児 KEK物構研 外場および次元性による分子性固体の構造と物性の制御 8A, 8B, 7C, 4C, 3A, NE1A 2017/4〜2020/3
 本課題申請グループは、これまでに有機物を含む強相関電子系物質の新規物性の開拓のために、種々の物質を用いた構造解析、回折実験を行ってきた。これらの物質における物性発現機構の解明のためには、精密構造解析や外場下構造解析が必須であり、物性測定とあわせて、構造的な知見を物質開発にフィードバックすることで、迅速な物質開発環境をつくってきた。今回申請するS2型課題では、上記で培った構造解析、回折実験の経験や技術的な蓄積を活かし、特に外場と次元性による構造と物性の制御という観点から、分子性固体(単結晶、薄膜)の構造的知見を得ることを目的とする。これらを通じて、種々の物資における物性発現機構を明らかにするとともに、新物質開発のための設計指針の構築を目指す。
 
2016S2-005 藤森 淳 東大院理 新規スピントロニクス材料の薄膜・界面が示す特異な物性の多自由度軟X線分光 16A, 7A, 12C, 4C 2016/10〜2019/9
 本課題は、スピントロニクス材料としての応用が期待される新規磁性薄膜・多層膜について、軟X線XMCDを中心とした複数の相補的な実験手法を組み合わせることによって、磁気モーメントの異方性や空間分布といったミクロな磁気状態を多面的に明らかにすること、さらにそれを手掛かりに磁気特性の発現メカニズムの解明や磁気特性の制御につなげていくことを目的とする。試料作製グループと緊密に連携し、単に分光測定を行うのみならず、そこから得られた情報を基に狙った磁気特性を示す新たな試料の作製へとつなげていくことを重視して研究を行う。特に、外的要因を変化させた場合のミクロ磁気状態の変化を詳細に調べることにより、磁性薄膜・多層膜の物性の制御方法に関して重要な手掛かりが得ることを狙っている。
本研究は以下の特色を持つ。
(1) 深さ分解XMCD・ベクトル磁場XMCDなど、申請者らが開発した独自性の高い実験手法を駆使し、従来のXMCD実験やその他の分光手法では得られなかった磁性に関する情 報を明らかにする。
(2) S課題の長いビームタイムを活用し、1つの試料系に対しなるべく多くのプローブを相補的に用いて、磁性薄膜の磁気状態、電子状態、結晶構造を総合的に明らかにする。その情報を用いて、磁気特性の発現機構をも明らかにする。
(3) 単に測定・解析を行うだけでなく、その情報をもとに新規物質を設計してフィードバックする。特に申請者の一部は物質作製に精通しており、かつ実験グループがPF内や筑波大学にあるため、S課題の柔軟性と相まって高速なフィードバックが期待できる。
(4) In situ実験を行う金属薄膜・多層膜に関しては、測定した結果をもとに翌日の試料を作製することができるため、さらに高速のフィードバックが可能になる。
 
2016S2-006 兵頭 俊夫 KEK-PF 低速陽電子回折法による表面構造解析 低速陽電子 2016/10〜2019/9
 
2016S2-001 木村 正雄 KEK-PF 多次元マルチスケール計測による航空機用構造材料の耐熱性・耐環境性向上のための材料へテロ構造因子の解明 7A, 8A, 9A, 10C, 11B, 12C, 14B, 16A, NW2A, NW10A, 低速陽電子, 14C, 13A/B, 15A1, 15A2 2016/4〜2019/3
 次世代航空機用材料の中で特に高機能と信頼性を必要とする機体構造材やジェットエンジン用ガスタービン部材では高温長時間使用時の環境下において物理的、化学的な要因が組合わさり劣化が進行する。部材としての供用時間を推定するためには、材料の劣化、亀裂や破壊にいたるメカニズムの考察とその発生にいたる時間の考察が重要となる。
そこで、ボイド生成→亀裂発生・進展→破壊にいたる現象の解明と制御に必要な計測技術を航空機材料に適用する技術開発を行い、従来の分析技術では得られなかった材料へテロ構造の新視点からのプロセス指針を提示する、ことを目標として研究を行う。
具体的な実施内容は下記の通り。
(1)全視野型X線顕微鏡(XAFS-CT)の導入・立ち上げと微細組織と化学状態の5次元構造観察
全視野型X線顕微鏡(XAFS-CT)をPF-ARのNW2Aに導入・設置し、複合材料の結合を支配する化学状態の観察を5次元(= 空間 + in situ + dynamic)での構造解析法の実現を目標とする。目標分解能は50nm@10 keV。
(2)マルチスケール&相補的な放射光技術の活用による亀裂進展メカニズム解明
機体構造材としての繊維強化複合材料(FRP)、および耐環境性コーティング(EBC)で保護した軽量セラミックス部材(SiC/SiC)を対象として、新設するXAFS-CTを初めとした放射光技術を総括的に活用して研究を行い、その亀裂進展メカニズムを解明することを目標とする。単に個々の手法の足し合わせではなく、本提案では、相補的かつスケールの異なる観察法を複合活用した研究を行う。
目標とする現象解明は、(1) 原子レベルでの格子欠陥の生成、(2) それが凝集し異相界面での結合弱化(数10nmレベル)、(3) 初期のミクロクラック生成(μmレベル)、(4) ミクロクラックが亀裂へと進展(数100μmレベル)、(5) 亀裂のnetworkがマクロレベルで合体(数100μm~mm)し部品の破壊につながるメカニズム、である。得られた結果は、(a)マテリアルズインテグレーションでの基礎データとして供与し、総合プロセス設計推進に資するだけでなく、(b)構造材料の基礎学理の面での大きな寄与が期待できる。
 
2016S2-002 高橋 嘉夫 東大院理 STXM炭素学:局所化学種解析による有機物の進化と機能の解明 13A/B, 15A1 2016/4〜2019/3
 STXMは、50 nm以下の空間分解能で炭素の局所状態分析(官能基マッピング)が可能な手法である。我々は、炭素の科学が包含する重要な課題にたいして、最も有効な手法であるSTXM法を適用し、「人類に夢を与える科学」と「将来の安全安心を構築するための科学」を発展させることを目指す。その目的のために、STXMを用いた局所化学状態分析に基づいて有機物の進化と機能を追求する科学を「STXM炭素学」と呼び、関連のある第一線の研究者の参画を得て、学際的な本S2型課題を提案するに至った。これらの研究は、以下の3つに分けられる。 【研究1】地球惑星環境における有機物の起源と進化: 宇宙空間には初期的に多くの有機物が存在し、それらは様々な化学変化を受けて多様化している。一方、地球上の有機物は、生命の進化とも関連するだけでなく、その生成物の一つである化石燃料は人間にとって重要なエネルギー源となっている。これらの有機物の進化に関わる課題として、「太陽系に初期的に存在する有機物の特徴とその役割の解明」と「地層中での有機物の変化と化石燃料の生成過程の考察」にポイントを絞って、STXM研究を展開する。 【研究2】有機物と現在の地球環境:天然有機物は、現在の地球環境においても非常に重要な意味を持つ。まず、土壌や堆積物中の有機物は地球全体の中で最大の炭素貯蔵庫であり、その増減は大気中の二酸化炭素濃度と直結する。一方、こうした有機物は、環境中に存在する様々な物質の挙動にも大きな影響を与える。以上から研究2では、地球表層の有機物の循環、固定化、溶解性、他の物質との相互作用の理解を進めるために、STXM研究を展開する。 【研究3】炭素物質を用いたサステナブル科学: 人工的に合成した炭素物質も、サステナブル社会を構築する上で無くてはならない。また、このような高機能な炭素物質は、微生物や植物も生産しており、これらの物質の活用も、サステナブル社会の構築において重要である。ここでは、有機薄膜太陽電池の開発や燃料電池の炭素系負極活物質の最適な物質の探索」や「鉱物資源の開発において有用な微生物による鉱物溶解の機構解明」を扱う。 【研究4】上記研究の進展を支えるために、「多様なニーズに対応したcSTXM分析の高度化」として、BL-13AのcSTXMの高度化とBL-15AでのcSTXM(2号機)の運用・活用を図る。
 
2016S2-003 早稲田 篤 産総研 キログラムの実現に向けたシリコンの格子定数均一性評価とその応用 3C 2016/4〜2019/3
 
2016S2-004 山浦 淳一 東工大 元素戦略,ACCELプロジェクトにおける放射光利用研究:新電子材料,新触媒の機能性発現機構の解明 4C, 8A, 8B, 9A, 9C, 11A, 11B, 12C, NE1A, NW2A, 3A, NW10A, 2A/B 2016/4〜2019/3
 産業のビタミンとして知られる希少元素は、最先端製品の機能や性能を決定付けている。近年の日本の産業競争力の真の強みは、最終組み立て品ではなく、産業の上流に位置する部材産業にあるが、そこでは大量の希少元素を使用している。この希少元素は、資源国が非常に偏っているという問題があり、近未来に予想される元素危機に対応するための方策を早急に進める必要がある。2012年度 より発足した国家プロジェクト「元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>」で は、機能性物質の構成要素としての希少元素を、ありふれた元素によって代換することで、日本の産業競争力を維持しようという試みである。元素戦略プロジェクト、電子材料領域では、東京工業大学が本拠点となり、KEK-CMRC(構造物性研究センター)が材料評価の副拠点となっている。
電子材料領域は、材料創製グループによって機能性物質の元素フロンティアを開拓し、豊富で無害な元素を用いて実用に耐える材料を作り出すことを目的としている。KEK副拠点では、「放射光・中性子・ミュオンを用いた材料評価・解析」を請け負っており、材料創製グループが作製した材料を対象として、水 素、酸素、窒素などの軽元素を含めた物質における結晶構造、局所構造、電子構造の決定を高い信頼性で行なっている。
また、東京工業大学細野グループによる基礎研究の成果として生まれた新材料であるエレクトライドC12A7の応用展開を行なうため、 ACCELプロジェクトが2013年度に発足している。ここでは、エレクトライドの高い還元力を生かして、アンモニア合成触媒、炭酸ガス分解、有機EL用素子開発などを目標としている。このプロジェクトにおける材料評価をKEKが受け持っている。
本申請課題、「元素戦略、ACCELプロジェクトにおける放射光利用研究:新電子材料、新触媒の機能性発現機構の解明」は、これらのプロジェクト研究において、革新的な機能性材料のフロンティア開拓の 一翼を担うため、放射光ならではの手段を用いて、材料機能発現機構を解明し、新しい材料設計のための指針を導き出すことを目的としている。
具体的には、
1. 固体エレクトライドにおける 触媒反応機構と特異な電子状態の解明、
2. 新規誘電体における構造と極性発生機構の解明、
3. 透明半導体、電極材料における電子状態の解明、
4. 鉄系超伝導体における構造と物性の相関の解明、
を中心にその材料評価を通して、新材料の創製に寄与していくことを目標にしている。
 
2015S2-005 組頭 広志 KEK-PF 酸化物量子井戸構造に誘起される新奇2次元電子状態とその機能探索 2A/B, 16A, 4C, 7C 2015/10〜2018/9
 強相関酸化物と呼ばれる遷移金属酸化物は、電荷・スピン・軌道の自由度が複雑に絡み合うことで高温超伝導に代表される類い希な物性を示す。近年、物質設計の自由度が高い「超構造」を用いて、これらの強相関酸化物の示す異常な物性を制御しようという研究が物性物理学の一つの大きな潮流となっている。その中でも、酸化物量子井戸構造を用いた強相関電子の量子閉じ込めは、次元性の低下に伴った強相関電子の振る舞いを調べるうえで非常に有効な手法として注目されている。強相関酸化物超構造の作製が可能になったことで、1.量子井戸構造による強相関電子の2次元閉じ込め、2.バンド絶縁体同士の界面における高移動度2次元電子ガスの形成、3.量子常誘電体における表面2次元電子ガスの形成とラシュバ効果、等の注目すべき「超構造における2次元電子状態」が報告されている。
本研究の目的は、酸化物量子井戸構造を用いて新奇な2次元電子状態を創成することにある。そのために、放射光解析に基づく量子物質開発「Materials by design」というスキームを提案・実行する。具体的には、電子論的パラメータを制御した強相関量子井戸構造を設計・製作し、その量子化状態をその場放射光電子分光により直接決定する。この放射光解析に基づく原子レベルでの構造、電子・磁気・軌道状態、等の理解を通して、低次元強相関量子状態の設計・制御のための指針を導き出すことを大きな目標としている。さらには、「設計指針の確立」にとどまらず、本S2課題メンバー内の薄膜作製グループとの密接な連携を通して実際の超構造・デバイスの製作、およびその量子物性評価を行う。
本S2課題では、主に放射光電子分光による酸化物超構造の表面・界面研究を遂行することになる。これを、VUVとSXモードを切り替えることで、広エネルギー範囲にわたって高分解能かつ高強度の放射光を供給できる新BL2Aを駆使して行う。この「酸化物表面・界面解析ビームライン」に「in-situ光電子分光+酸化物MBE複合装置」を設置し、実験ステーションの高度化・最適化を行う。これにより、酸化物のみならず機能性材料科学における「放射光解析プラットホーム」を構築・運営することで、放射光解析に基づく物質開発を推進する。
 
2015S2-006 一柳 光平 KEK-PF 高強度レーザー誘起衝撃圧縮下における構造・反応ダイナミクス AR-NW14A 2015/10〜2018/9
 本課題は、ARのシングルバンチのX線パルスと高強度ガラスレーザーを用いたシングルショット型の時間分解X線回折・散乱測定の計測基盤技術を確立し、衝撃圧縮下のような歪み速度が速い領域で起こる弾性限界(Hugoniot Elastic Limit; HEL)での1軸-等方圧縮への転移過程から始め、10-30 GPa以上の高圧構造ダイナミクスや高圧反応ダイナミクスの時間スケールを明らかにする。
ビームライン内に16 J/pulse、パルス幅11 ns、波長1064 nmの高強度ガラスレーザーをビームラインハッチ内に整備し、最大到達圧力30 GPaでのレーザー衝撃圧縮下における高圧構造ダイナミクスのシングルショット型のサブナノ秒時間分解X線回折・散乱実験の測定基盤を整備する。
SiやAl2O3単結晶ではHELの面依存性があり衝撃圧縮で約9 GPaである。衝撃圧縮下における弾性限界でのナノ秒応力緩和現象の観測は、これまで速度干渉計を用いた音速測定だけであり、精密な圧縮性などを議論し静的圧縮実験と比較検討した例はない。本課題でレーザーを用いた衝撃圧縮による高圧物性研究の発展のためにはサブピコ秒からナノ秒領域における圧縮性と応力緩和の検証から、偏差応力や静水圧性を3次元の動的構造について議論をする。衝撃圧縮下における圧縮性を明らかにした後、高圧の衝撃波が2波構造になる構造相転移ダイナミクスや、30 GPa程度で起こる炭酸カルシウムなどの衝撃誘起分解反応ダイナミクスと脱ガス機構を明らかにしたい。
世界中の放射光施設で次期計画のメインストリームの一つに時間分解測定が位置づけられている。申請者らのグループは、先駆けてシングルショット型時間分解X線回折の実験を行てきた。本研究課題では、高強度レーザーとシングルバンチの放射光X線パルスの研究基盤を整備し、レーザー衝撃圧縮下における3次元の高圧構造ダイナミクスを明らかにし、衝撃誘起相転移・反応ダイナミクスを研究を立ち上げ静的圧縮実験と比較・検討し高圧科学における時間スケール研究へと展開する。
 
2015S2-007 山崎 裕一 東大工 共鳴X線散乱による磁気テクスチャとそのダイナミクスの観測 3A, 4C, 8A, 8B, 11B, 13A/B, 16A, 2A/B, AR-NW14A 2015/10〜2018/9
 近年、ナノメートルスケールのトポロジカルなスピン渦構造であるスキルミオンが注目されている。スキルミオンは電場や電流、温度勾配に対して巨大な応答を示すことから、次世代のスピントロニクスデバイスにおける新たな情報媒体への応用が期待されている。このようなナノスケールの磁気テクスチャは、電子自由度の秩序構造とも強く相関しており多彩な物性を創発している。その電子状態やダイナミクス、外場応答を直接的に観測することは、基礎物性の理解と共に、応用研究においても非常に重要となる。このような観点から、磁気テクスチャの秩序構造と電子状態を、高感度・高速・高い位置分解能で観測できる実験手法の必要性がますます高まっている。
本S2型課題研究では、共鳴軟X線小角散乱を中心手法としてナノスケールの磁気テクスチャ、および、それと相関のある電子秩序構造の観測を行う。特に、共鳴X線散乱の特性を最大限に活かした、コヒーレントX線回折によるホログラフィー測定や位相回復アルゴリズムによる磁気テクスチャの実空間イメージング、パルス放射光を使った時分割測定による磁気テクスチャの高速ダイナミクス観測、電流・電場・磁場・応力など多彩な外場に対する磁気テクスチャの応答観測を行っていく。これらの研究により、磁気テクスチャの基礎物性を構造物性・電子物性の観点から解明し、強相関電子系やスピントロニクス物質で観測される顕著な創発物性の発現機構解明を目指していく。
 
2015S2-008 近藤 寛 慶應大理工 先端軟X線分光の融合による活性触媒の電子状態と反応活性に関する研究 13A/B 2015/10〜2018/9
 これまで我々は、BL-13で進めてきた先行S2課題において、軟X線を使った光電子分光(PES)、高分解能X線光電子分光(HR-XPS)および吸収端近傍X線吸収微細構造(NEXAFS)などの放射光分光を触媒表面の観測に適用することによって、触媒表面や吸着分子の構造や電子状態を解明する上で極めて有用な情報が得られることを明らかにしてきた。最近では、これらの手法に準大気圧X線光電子分光(NAP-XPS)が加わり、触媒反応が進行する表面を実作動条件に近い条件で直接観測することも可能になった。これによって、反応活性が高いときに触媒表面がどのような化学状態になっているかについても情報が得られるようになってきた。その一方で、新たな課題も浮上している。一つは、これまで主に単一成分のシンプルな単結晶をモデル触媒としてきたので、実際の触媒との間に大きな隔たりがある点であり、もう一つは、触媒の電子状態と反応活性との間の相関がほとんどの場合に不明なままになっている点である。そこで本研究では、実用触媒を意識したモデル触媒を導入または作製し、これまで我々が立ち上げてきたBL-13Bの三つのエンドステーション(PES、HR-XPS、NAP-XPS)を一つの触媒系に対して多面的・相補的に用いることによって、実在系により近い触媒の電子状態と反応活性の相関を明らかにすることができる新しい方法論を開拓することを目的とする。上記の三つのエンドステーションを融合して一つの解析ステーションとして有機的に用いるとともに、BL-13のアンジュレーター更新に伴って可能になった可変偏光性を活かし、準大気圧下で偏光NEXAFSを測定できるシステムを立ち上げることによって活性表面の解析能力を強化する。このように高度化された軟X線分光法を用い、具体的な触媒系として、代表的な不均一触媒であるCO2活性化触媒、光触媒、排ガス浄化触媒の電子状態、吸着特性、反応活性を調べる。その際に、実在触媒の反応活性に影響を与えるものとしてこれまで長く指摘されてきた微粒子効果、合金化効果、担体効果、構造敏感性が触媒の電子状態とどのように関係しているかについて特に注意を払い、それが反応活性とどのように相関するかを明らかにする。このような研究を通して、触媒能発現の起源を明らかにするのに有用な軟X線分光によるアプローチを提案することを目指す。
 
2015S2-009 若林 裕助 阪大基礎工 高い時間・空間分解能を活用した表面構造物性研究 3A, 4C, AR-NE7A, AR-NW2A 2015/10〜2018/9
 表面は触媒反応や電気化学反応の場であり,界面はトランジスタに代表される電子デバイスの機能を生じる場である。白金を使わない触媒や,シリコンに変わる電子デバイス材料等,新しい素材の応用を目指す試みが盛んになっている今日,多様な物質の表面や界面に対する原子レベルでの構造理解,及びそれに基づく物性の微視的理解の重要性と需要は過去になく高まっている。本課題では,このような重要性を持つ表面・界面を構造物性の立場で理解する事を目的とする。
表面X線回折の一つであるCTR散乱法は,非破壊で表面から深さ10nm程度の範囲を見る表面構造を観測する手法である。この手法は試料環境を比較的自由に変えることができる上に,相対変位であれば1pmの原子変位も検出できる高感度な手法である。さらに2013S2-001などで開発してきた波長角度同時分散型反射率計・回折計を利用することで,時間分解能1秒程度での広い逆空間領域の測定が可能になっている。ここに挙げた外場依存性の測定,高空間分解能,時間分解能は,表面研究に大きな自由度を与える。
具体的な測定対象としては,触媒,電気二重層,有機半導体,遷移金属酸化物超薄膜等,多岐にわたる物質群を計画している。特に触媒,電気二重層については秒の桁での時間発展が期待される測定対象である。後の2つについては詳細な構造観測,及び外場依存性が興味の中心となる。

過去の課題

課題番号実験責任者所属実験課題名ステーション期  間
2015S2-003 高橋 隆 東北大理 高分解能角度分解光電子分光による 高機能物質における新たな量子物質相の探索 28A 2015/4〜2018/3
2014S2-004 深谷 有喜 日本原子力研究開発機構 全反射高速陽電子回折を用いた最表面構造決定 低速陽電子 2014/10〜2017/9
2014S2-006 野澤 俊介 KEK-PF 高効率時間分解X線吸収分光法を用いた光機能性材料におけるダイナミクス研究 AR-NW14A, AR-NW10A, 12C, 9A 2014/10〜2017/9
2014S2-001 熊井 玲児 KEK・PF 有機分子集合体の物性発現機構の解明とその最適化のための構造物性研究 BL-8A, 8B, 3A, 4C, AR-NE1A, 7C 2014/4〜2017/3
2014S2-003 澤 博 名古屋大学 結晶場解析による新しい量子格子液体系物質の研究 BL-8A, 3A, 4C, 8B 2014/4〜2017/3
2013S2-004 雨宮 健太 KEK・PF 外的要因による磁性薄膜の特性制御を目指した 軟X線XMCDを中心とする相補的研究 16A, 7A, 12C 2013/10〜2016/9
2013S2-005 長嶋 泰之 東京理科大学 ポジトロニウム負イオン光脱離実験の新展開とエネルギー可変ポジトロニウムビームの応用 低速陽電子 2013/10〜2016/9
2015S2-002 木村 正雄 KEK-PF 航空機用構造材料の耐熱性・耐環境性向上のための材料へテロ構造因子解明 15A1, 9A, 9C, 12C, AR-NW2A, 14B, 14C, 8A, 8B, 11A, 11B, 13A/B, 16A, 低速陽電子 2015/4〜2018/3→2016/3迄に短縮されました。
2013S2-001 松下 正 KEK・PF X線反射率曲線の時分割測定法の開発と応用 NE7A, NW2A 2013/4〜2016/3
2013S2-002 村上 洋一 KEK・PF 元素戦略プロジェクト・電子材料領域における放射光利用研究:軽元素アニオン系における機能発現機構の解明 2A/B, 3A, 4C, 8A/B, 16A, 28A/B, NE5C, NW10A, NW2A 2013/4〜2016/3
2013S2-003 高橋 嘉夫 広島大院理
→東大院理
走査型透過X線顕微鏡(STXM)を用いたサステナブル科学の推進 13A、15A、16A 2013/4〜2016/3
2012S2-004 早稲田 篤 産総研 アボガドロ定数決定のための単結晶シリコンの結晶評価 3C 2012/10〜2015/9
2012S2-005 中尾 裕則 KEK・PF 外場下共鳴軟X線散乱による構造物性研究 4C, 8A, 11B, 13A, 16A, 3A 2012/10〜2015/9
2012S2-006 吉信 淳 東大物性研 エネルギー変換材料の表面界面物性:VUV/SX放射光分光による研究 13A 2012/10〜2015/9
2012S2-001 高橋 隆 東北大理 高分解能角度分解光電子分光によるディラック電子系の量子現象の解明 28A 2012/4〜2015/3
2011S2-003 尾嶋 正治 東大 高分解能電子分光法を用いたグリーンナノデバイス構造の動作環境operando解析 2C, 28A/B 2011/10〜2014/9
2010S2-003 長嶋 泰之 東京理科大学 ポジトロニウム負イオンのレーザー分光とその応用 低速陽電子 2010/10〜2013/9
2010S2-004 中尾 朗子 KEK・PF 分子性結晶における構造物性研究 -外場下における物性と構造- BL-4C, 8A, 8B, 4A, NE1A, NW14A 2010/10〜2013/9
2010S2-001 雨宮 健太 KEK/PF 軟X線偏光スイッチングを用いたスピントロニクス材料の探求 16A,7A 2010/4〜2013/3
2009S2-007 吉信 淳 東京大学 有機分子−電極系の構造・電子状態と電荷移動ダイナミクス 13A 2009/10〜2012/9
2009S2-008 中尾 裕則 KEK・PF 共鳴軟・硬X線散乱を相補的に用いた構造物性研究 2A,3A,4C,8A,8B,16A 2009/10〜2012/9
2011S2-005 月原 冨武 兵庫県立大 ターゲットタンパク研究プログラム 5A,6A,17A,NW12A 2011/10〜2012/3
2009S2-001 足立 伸一 KEK/PF 物質・生命科学における実時間構造ダイナミクス研究 NW14A 2009/4〜2012/3
2009S2-003 熊井 玲児 産総研 精密構造解析を中心とした強相関電子物質の物性発現機構の解明 4C,8A 2009/4〜2012/3
2009S2-005 藤森 淳 東京大学 新規高温超伝導体および関連化合物の高分解能角度分光電子分光 28A 2009/4〜2012/3
2009S2-006 武田 徹 筑波大学 分離型X線干渉計を用いた生体及び材料イメージングに関する研究 14C1 2009/4〜2012/3
2008S2-003 尾嶋 正治 東京大学 高分解能ナノ分光法を用いた新機能物質の電子状態解析 2C,16A 2008/10〜2011/9
2008S2-004 若林 裕助 KEK・PF 磁場を用いた構造物性研究-磁場誘起相転移現象を中心に- 3A,4C,新8B 2008/10〜2011/9
2008S2-002 安藤 正海 東京理科大学総合研究機構 臨床応用・病理診断利用を目指す高性能X線屈折イメージングの基礎研究 14C 2009/3/16〜2011/9
2006S1-001 藤浪 眞紀 千葉大 陽電子顕微鏡の開発 低速陽電子 2006/4〜2011/3
2008S2-001 月原 冨武 大阪大学 ターゲットタンパク研究プロジェクト 5A,6A,17A,NW12A 2008/4〜2011/3
2007S2-002 大谷 栄治 東北大理 X線イメージング法による融体の研究とその地球・惑星内部への適用 14C2 2007/4〜2010/3
2004S1-001 腰原 伸也 東工大理工 非均衡強相関材料開拓に向けたサブナノ秒分解X線回折ビームラインの建設と利用 NW14,NW2,1A 2004/4〜2009/3
2006S2-001 藤森 淳 東大新領域創成科学 強相関遷移金属酸化物の高分解能角度分解光電子分光による研究 28A 2006/4〜2009/3
2006S2-002 間瀬 一彦 物構研 コインシデンス分光による内殻励起、オージェ緩和、イオン脱離の研究 8A,12A,11B 2006/4〜2009/3
2006S2-004 澤 博 物構研 放射光X線を用いた単結晶MEM解析による分子性物質系の分子軌道の直接観測 1A,4C 2006/4〜2009/3
2006S2-005 熊井 玲児 産総研強相関電子技術研究セ 軌道放射光を用いた強相関電子材料の構造解析による物性発現機構の研究 1A,4C 2006/4〜2009/3
2005S2-002 尾嶋 正治 東大工 コンビナトリアル高分解能光電子分光による半導体・磁性体ナノ構造のin-situ解析 2C,1C,28A 2005/10〜2008/9
2005S2-003 有馬 孝尚 東北大多元研 放射光X線回折による磁場誘起相転移の研究 16A1,4C 2005/10〜2008/9
2005S2-001 武田 徹 筑波大人間総合科学 分離型X線干渉計を用いた位相コントラスト法による生体in vivo観察-part III- 14C1 2005/4〜2008/3
2006S2-003 秋本 晃一 名大工 表面X線回折法による半導体表面構造の解析と界面構造の制御 15B2 2006/4〜2008/3
2006S2-006 若槻 壮市 物質構造科学研究所 タンパク3000プロジェクト タンパク質の個別的解析プロジェクト 5A,6A,17A 2006/4〜2007/3
2003S1-001 澤 博 物質構造科学研究所 強相関電子系物質の新物質探索と物性発現機構解明のためのBL建設 1A 2003/4〜2006/3
2003S2-001 秋本 晃一 名古屋大学大学院工学研究科 量子工学専攻 表面X線回折法による半導体表面構造の解析と界面構造の制御 15B2 2003/4〜2006/3
2003S2-002 若槻 壮市 物質構造科学研究所 タンパク3000プロジェクト タンパク質の個別的解析プログラム 18B,6A,NW12 2003/4〜2006/3
2002S2-001 武田 徹 筑波大学臨床医学系 分離型X線干渉計を用いた位相コントラスト法による生体in vivo 観察 14B,14C1 2002/4〜2005/3
2002S2-002 尾嶋 正治 東京大学大学院工学系研究科 半導体・磁性ナノ構造の高分解能電子分光 11A,2C,1C 2002/4〜2005/3
2002S2-003 桜井 健次 (独)物質・材料研究機構物性解析研究グループ 非走査型蛍光X線イメージング法によるアクティブ計測技術の開発 4A,16A1 2002/4〜2005/3
2001S2-002 村上 洋一 東北大学大学院理学研究科 強相関電子系における電荷・スピン・軌道・格子秩序の研究 4C,9C,16A,1B 2001/10〜2004/9
2001S2-003 太田 俊明 東京大学大学院理学研究科 軟X線エネルギー分散表面XAFSの開発とその表面化学への応用 7A 2001/10〜2004/9
2000S2-002 伊藤 正久 姫路工業大学理学部 X線磁気回折による強磁性体のスピンおよび軌道磁気モーメントの密度分布に関する研究 3C3 2000/4〜2003/3
2000S2-003 高橋 敏男 東京大学物性研究所 表面X線回折法による半導体と金属および絶縁体の界面構造と物性 15B2 2000/4〜2003/3
99S2-002 板井 悠二 筑波大学臨床医学系 分離型X線干渉計を用いた位相コントラスト法によるin vivo 生体観察 14B,14C 1999/10〜2002/9
99S2-003 雨宮 慶幸 東京大学大学院新領域創成科学研究科 X線エリプソメトリーの開発と応用 4A,15B1,15C 1999/10〜2002/9
97S1-002 尾嶋 正治 東京大学大学院 工学系研究科 量子ナノ構造形成過程・新物性解析の研究 3B,1C 1997/4〜2002/3
99S2-001 八木 健彦 東京大学物性研究所 超高圧高温X線その場観察実験の精密化と下部マントル物質の物性研究 13B 1999/4〜2002/3
98S2-003 小出 常晴 物質構造科学研究所 内殻吸収磁気円二色性によるナノスケール磁性体の電子状態・磁気状態の研究 28A,AR-NE1B,11A 1998/10〜2001/9
98S1-001 虎谷 秀穂 名古屋工業大学 セラミックス研究施設 高分解能放射光粉末回折による結晶構造解析法の開発研究 4B2 1998/4〜2001/3
98S2-001 村上 洋一 物質構造科学研究所 強相関電子系における電荷と軌道秩序状態の直接的観測 4C,16A2 1998/4〜2001/3
98S2-002 辛 埴 東京大学物性研究所 直線偏光を利用した軟X線ラマン散乱および光電子分光の研究 2C,16 1998/4〜2001/3
97S2-001 伊藤 健二 物質構造科学研究所 空間に配向した分子からの光電子の角度分布に関する研究 2C,16B,28A 1997/10〜2000/9
97S1-001 伊藤 正久 姫路工業大学理学部 X線磁気回折による強磁性体の軌道およびスピン磁気モーメントの研究 3C2 1997/4〜2000/3
97S1-003 高橋 敏男 東京大学物性研究所 表面X線回折法による結晶成長素過程の研究 15B 1997/4〜2000/3
96S-001 菊田 惺志 東京大学工学部 核共鳴散乱の基礎と応用 NE3,15C,14B 1996/4〜1999/3
96S-002 八木 健彦 東京大学物性研究所 超高圧高温X線その場観察実験に基づく下部マントル構造の解明 13B 1996/4〜1999/3
94S-001 菅 滋正 大阪大学基礎工学部 相転移に伴う電子状態の高分解能測定 3B,2B 1994/4〜1997/3