2021年12月の活動報告 : 短寿命核グループ
2021年12月20日
短寿命核グループが2021年12月の活動報告を行いました。短寿命核グループは、埼玉県和光市の理化学研究所(理研)内にKEKが設置した和光原子核科学センターで、金や白金、ウランといった重元素が宇宙における爆発的合成過程で生成されることを、それに関与する未知の原子核の特性を調べることで解明する研究をしています。
実験にはKEKの元素選択型質量分離装置(KISS)と、理研と共同開発中の低速RIビーム生成装置(SLOWRI)および気体充填型反跳核分離器(GARIS)を使用しています。KISSは短寿命核(自然界に存在する原子核より多くの中性子を持ち、短時間で自然に崩壊し別の原子核に変わる原子核)を生成し、レーザーを用いて分離する装置で、末端部の検出器では選出された短寿命核の寿命や崩壊の様子を測定します。SLOWRIは理研RIビームファクトリー(RIBF)の機関施設の一つで、高速ビームを減速・冷却して精密分光研究に適した高純度の低エネルギービームやイオントラップ中に静止した短寿命核を提供します。GARISは新元素ニホニウムの生成で知られる超重元素の生成に適した装置です。各装置には、10ミリ秒程度の短時間で質量を1000万分の一以上の高精度で測定できる多重反射型飛行時間測定式質量分光器(MRTOF)を整備して網羅的質量測定を進めています。
今回の活動報告では、KISSとMRTOFの改良作業について報告しています。特にMRTOFに関しては、これまでガスセル内のガスに含まれる不純物が大量にイオン化され、測定したい元素のスペクトルを覆ってしまう問題がありました。そこで、その不純物イオンを排除するためのIn-MRTOF 偏向器(IMD)を開発しました。その結果、これまで背景事象に埋もれてしまい、α線測定と合わせて確認する必要があった非常に稀な事象でも飛行時間のみで測定できるようになり、しかも一度に複数の質量数グループの原子核の質量測定が可能となりました。
また、世界で初めて超重元素同位体(257Db、ドブニウム)の質量を測定した成果も紹介しています。本成果の詳細はプレスリリース「超重元素の初めての精密質量測定に成功 〜新元素の新しい原子番号決定法の証明〜」もご覧下さい。本測定は、2020年の時点では1⽇に2イベントしか観測できなかったものの、その後ビーム強度を3倍以上に上げられるよう標的を改良し、かつIMDフィルターを用いたところ、2時間に1イベント観測できるほど効率が向上されました。
ウランの起原解明のため、KISSを10,000倍改良したKISS-IIの開発も検討しています。KISS- IIでは多核子移行反応という独自の生成法を発展させて、非常に困難とされるウラン原子核(自然に存在するもの)より中性子過剰な原子核の生成に挑戦します。2022年1月にデザインレポート評価委員会を開催し、KISS-II計画を早期に実現できるよう目指しています。
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