2021年3月の活動報告 : 短寿命核グループ
2021年4月6日
短寿命グループが2021年3月の活動報告を行いました。短寿命核グループは、埼玉県和光市の理化学研究所(理研)内にKEKが設置した和光原子核科学センターで、金や白金、ウランといった重元素が宇宙における爆発的合成過程で生成されることを、それに関与する未知の原子核の特性を調べることで解明する研究をしています。
実験にはKEKの装置である元素選択型質量分離装置(KISS)と理研と共同で開発している低速RIビーム生成装置(SLOWRI)および気体充填型反跳核分離器(GARIS)を使用しています。KISSは自然界に存在する安定な原子核より多くの中性子を持つ短寿命核(短時間で自然に崩壊し別の原子核に変わる原子核)を生成し、レーザーを用いて分離する装置で、末端部の検出器では選出された短寿命核の寿命や崩壊の様子を測定します。SLOWRIは、RIビームファクトリー(RIBF)の機関施設の一つで、高速ビームを減速・冷却して精密分光研究に適した高純度の低エネルギービームやイオントラップ中に静止した短寿命核を提供します。GARISは新元素ニホニウムの生成で知られる超重元素の生成に適した装置です。それぞれの装置には、10ミリ秒程度の短い時間で質量を1000万分の一以上の高精度で測定できる多重反射型飛行時間測定式質量分光器(MRTOF)という装置を整備して網羅的質量測定を進めています。
2020年6月以降の主な研究・装置開発の成果として、KISSの特徴を生かした物理論文を複数出版しました。中でも1)の論文では、通常の短寿命核ビーム施設では困難であった高融点元素で、安定なタンタル原子核より6個中性子が多いタンタルの中性子過剰同位体187Taとその準安定準位状態である核異性体 (187mTa)の生成・分離・観測に成功したことを報告しており、この研究成果はプレスリリースされました。
SLOWRI装置のMRTOF質量分光器は、現在RIBFの入射核破砕片分離器(BigRIPS)のビームダンプ(実験で生成されても不要となる粒子を回収する装置)位置にあり、別の実験使用後の粒子を有効活用して様々な原子核の質量測定実験も行なっています。2020年11-12 ⽉に実施した最初の試験実験では、70 余の原⼦核の質量測定に成功し、中でも一部の原子核は初の質量測定となりました。
ウランの起原解明のため、KISSを改良したKISS-2の開発も検討しており、そのための実験装置の試験も進んでいます。自然に存在するウラン原子核より中性子過剰な原子核の生成は非常に困難です。KISS-2では、KISS研究で培ってきた多核子移行反応という独自の生成法を発展させてそれに挑戦します。大強度の一次ビームを使えるようにする超電導ソレノイド磁石と、生成した原子核をあえて分けずに同時に測定を可能にするMRTOFを有効利用して、既存の装置の1万倍の性能を目指します。MRTOFで質量測定すると同時に、それで標識付した原子核の崩壊を測定するという従来にない検出方法でそれが可能になります。
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