2020年12月の活動報告 : ATLASグループ
2020年12月24日
欧州合同原子核研究機関(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)でのATLAS実験に参加しているKEK素粒子原子核研究所のグループが、2020年12月の活動報告を行いました。
ATLAS実験とは、スイス・ジュネーブ近郊にあるCERNのLHCで行われている加速器実験の一つで、KEKを含めた国内外合わせて約180の研究機関からの約3000人の研究者が共同で行なっています。世界最高の衝突エネルギーで陽子と陽子を衝突させ、その反応を観測することで、素粒子に質量を与えるヒッグス粒子の物理や新粒子の探索を行っています。
LHCは4年かけて行われた重心系エネルギー13 TeVでの陽子・陽子衝突(Run2)を2018年12月に予定通り終了しました。現在、ATLAS実験グループはRun2で収集した全データの物理解析を進めています。前回の報告(2020年3月)からの進展のうち、特に注目すべき結果として、ヒッグス粒子のミューオン対崩壊への兆候を2 σの確度で測定した結果が報告されています(CERN experiments announce first indications of a rare Higgs boson process(CERN)、ヒッグス粒子のミュー粒子対崩壊反応の兆候を発見(名古屋大学))。
2021年から始まるRun3、さらに2027年に開始予定のLHCの性能を大幅に改善した高輝度LHC (HL-LHC)に向けた検出器改良も進んでいます。Run3に向けて、例えば初段ミューオントリガーの改良が続いています。これは、毎秒4000万回にも及ぶ陽子と陽子の衝突の中で特に興味ある粒子の反応から生成されるミューオンを、高速で検出し運動量判定まで行う装置です。初段ミューオントリガーのエレクトロニクスと光ファイバーなどは既にCERNに設置され、他の検出器システムとの統合試験は、KEKのリモートサイトでCERN のコントロールルームとオンラインで進めました。また、HL-LHCに向けた新しいエレクトロニクスの開発も進んでいます。
高度な事象判別を行うハイレベルトリガーでは、機械学習などを用いた高速化に向けた準備などが進んでおり、Run2まででは感度が低かった領域での新粒子探索において、感度が大幅に上昇することが期待されています。
高輝度LHCに向けてはピクセル検出器のモジュール製作が2021年から始まる予定で、 現在は量産体制に向け、KEKをはじめとする世界の約10か所の研究施設にて急ピッチで組み立て手法と検査システムの確立が行なわれています。高輝度LHCのミューオントリガーについても、様々なエレクトロニクスの開発をKEK主導のもと、東京大学ICEPP、名古屋大学などと共同で進めています。
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