2018年12月の活動報告 : 短寿命核グループ
2018年12月10日
KEK短寿命核グループが2018年12月の活動報告を行いました。短寿命核グループは、埼玉県和光市の理化学研究所内にKEKが設置した和光原子核科学センターで、金や白金といった重元素が天体の中で合成される過程を調べて起源天体を探る研究をしています。
重元素は星の一生の中で出来たと考えられていますが、まだ詳しい環境や背景などは分かっていません。そこで、重元素を構成する原子核の性質などを正確に理論予測し、天体観測などとの結果と比較することで、重元素が誕生するような天体の環境やシナリオなどを調べることが重要となります。ですが、特に中性子数126のような不安定な重元素原子核の性質はまだ分かっていないことも多いため、未知な不安定重元素同位体を原子核反応で生成し、その寿命や質量、崩壊の仕方を実験的に求めようとしています。
活動報告書では、年末に予定されている元素選択型質量分離装置(KISS)や多重反射型飛行時間測定式質量分光器(MRTOF-MS)による実験に向けたシステム開発などについて報告されています。
KISS実験においては、ガスセル-レーザーシステムの開発などが行われてきました。実験では白金などの人工的に生成された短寿命同位元素をアルゴンガス中で中性原子化し、さらにレーザーを照射することでイオン化します。このときのイオン化できるレーザー波長の分布(これを超微細構造といいます)から、同位元素を構成する原子核の構造が調べられてきました。ところが、従来の手法ではレーザー照射を圧力の高いアルゴンガス中で行なっていたため、レーザー波長分布に広がりが生まれてしまい、原子核構造を測定するための精度が下がっていました。「In-gas-jetレーザーイオン化法」という新手法では、低圧力環境のガスセル外側に噴射された均一速度の短寿命同位元素にレーザーを照射します。この手法ですとレーザーに対する原子の速度がほぼ均一となり、波長のずれがなくなります。その結果、超微細構造を従来の手法に比べて1/20程度精度良く観測できるので、原子核の荷電半径変化率などの原子核構造を詳細に調べられるようになりました。
また、MRTOF-MS実験においては、独自に開発した「concomitant法」という校正手法を用いることで、10msという短寿命で不安定な放射性同位体も質量決定ができるようになりました。図4の赤丸で囲まれている領域がそのデータを表しています。世界に先駆けて、従来の質量測定手法で近づくことの出来なかった短寿命領域での高精度質量決定が可能となったのです。
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