LHC承認のプレスリリース       1994年12月16日13時02分 CERN理事会が大型ハドロンコライダー(LHC)に前進を与えた  ハバート・キュリン教授の理事長のもとにあるCERN理事会は本日、14 TeV (TeV はテラ電子ボルトで、百万電子ボルトの百万倍)の大型ハドロンコライ ダー(LHC)の建設を承認することに総意で合意した。  所長のクリス・ルエリンスミスは、「今日の決定は高エネルギー物理学と CERN の将来のための大きな一歩である。理事会の決定は高エネルギー物理学 の研究のこれから20 年におよぶ遂行であり、また我々ヨーロッパの加盟国の 約20 億スイスフランに相当する投資であります。これは基礎科学研究に対す るユニークな企てであると私は信ずるものですし、基礎科学とCERN の科学研 究遂行能力における信頼がこの投票によって敬意評価されたものであります。 この長期にわたる計画の承認によって、我々はLHCを建設するというチャレン ジングな仕事を始めることができるし、CERN の優秀な職員の引き続く支持に より、物質の根源の理解においてさらに重要な前進をすることがこの研究所で 期待できる様になりました。LHC に他の国々から参加する友人たちからの、 単なる財政的な参加なのではなく、もっと重要な知的貢献を歓迎します。本日 の決定は世界の粒子物理学とCERN の偉大な未来を約束するものであります。」  LHC は、長さ14 m の高強力な超伝導電磁石の集合からなる粒子加速器で、 LEP 電子陽電子コライダーのために建設された周長 27 km のCERNにある現存 の円形トンネルに、設置される。これらの強力な電磁石は、陽子が加速器によっ て史上まだ到達したことがない殆ど光のスピードの高いエネルギーになるまで 超伝導加速空洞で陽子を加速している間、陽子ビームがリングの一定軌道に沿っ て互いに反対方向に回り続けるようにする。互いのビームが定められた交差点 で衝突するときは、運動の合わせたエネルギーが強いミクロの火の玉を作り出 し、そこから何百もの新しい粒子が放出される。これらのエネルギーの瞬時の 放射を研究することにより、衝突する陽子の奥深く隠れているごく小さなクォ ーク粒子の間に起こる相互作用を明らかにし、最も根本原理的なレベルで自然 がどのように動いているかを見ることができる。  CERN 理事会は、非加盟国からの財政的貢献が無くとも CERN の加盟国が 一定の予算内で LHC を建設できるように、加速器は二段階計画として建設さ れるべきと決定した。第一段階は、2004 年に実験が開始できるよう10 TeV の エネルギーをもつ粒子コライダーである。トップクォーク、荷電パリティー( CP)不変の破れ、重イオン物理の研究プログラムが直ちに大きな制限もなく 可能になる。この段階の加速器ですでにTeV エネルギー領域の探索が可能にな り、そこでは物質と相互作用の密接な関係に関する謎が答えられるだろう。 2008 年には、加速器は電磁石を追加して重心系のエネルギーが 14 TeV にアッ プされ、質量の起源の完全なる理解を可能にする史上初めての装置となる。  加盟国の代表はまた、1997年の終りまでにこの計画の進行状況を包括的にレ ビューすることを決定した。CERN は、科学の進歩を早め、全てに有益となる ような国際協力を歓迎する。いくつかの非加盟国ーアメリカ合衆国、日本、カ ナダ、ロシア連邦、インド、イスラエルーは LHC によって開かれる科学研究 に参加することに興味を持っていると表明した。もし1997 年までに十分な財 政的な約束がこの計画に期待されることが明らかになれば、その時は二段階計 画を再吟味し、14 TeV の加速器を直接建設するように計画を変更することが 可能になる。  米国のエネルギー省を代表してジョン・オファラン博士はCERN理事会の決 定に祝辞を述べ、「米国の高エネルギー物理学界はLHCに非常に興味を持って おり、所長と彼の交渉チームがワシントンに来て米国のLHC参加の詳細を作業 するよう招待する」と述べた。日本のジュネーブ国連代表部からの高橋氏もま た、LHC の承認決定に彼の喜びを表明し、「LHC 計画においてCERNに日本 が協力する可能性を調査し始めたい」との日本の意向を強調した。  加盟国はCERNの科学研究への長期にわたる支持をするという光の下で、理 事会は1995-1997年の間CERN の予算に対する加盟国の拠出額に、ゼロコスト 変動指数を適用することを決定した。またさらに理事会は、1998 年から先は、 加盟国からの財政支出は1% の指標のもとで将来計画が進められるべきだとい う決定をした。理事会は、バニアー方式(Bannier Process)、年次予算、コス ト変動指標(CVI)に関係する財政委員会の理事会に対する勧告には、新しく 「2重の多数決(Double Majority)」方式が採用されることに合意した。これ の意味することは、加盟国の多数が支持し、その支持する加盟国のCERN に対 する年額が合計して 70 % になることではじめて、勧告が理事会によって承認 される、ということである。  理事会は、フランスとスイスがLHC計画に自発的な貢献を表明してくれたこ とに感謝する。また1998年の12月31日までドイツは22.5 % のレベルの出資を 保持することが決定された。 * CERNは欧州粒子物理学研究所でジュネーブに本部を持つ。現在の加盟国は、オー ストリア、ベルギー、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、 ギリシャ、ハンガリー、イタリア、オランダ、ノルウエー、ポーランド、ポルトガル、 スロバク共和国、スペイン、スエーデン、スイス、イギリスである。イスラエル、ロ シア連邦、トルコ、ユーゴスラビア(1992年の国連の通商禁止により保留状態)、欧 州共同体(EC)、とユネスコはオブザーバーの地位にある。 =============================================================================