K2K実験の現状
新聞発表 2001年 7月10日



K2K実験グループ

高エネルギー加速器研究機構(KEK) 素粒子原子核研究所
東京大学宇宙線研究所(ICRR)
神戸大学
京都大学
新潟大学
大阪大学
岡山大学
東京理科大学
東北大学

Chonnam National University
Dongshin University
Soul National University

Boston University
State University of New York, Stony Brook
University of California, Irvine
University of Hawaii
University of Washington

http://neutrino.kek.jp

   本年4月までのデータでは、スーパーカミオカンデ(50,000トンの水チェレンコフ測定器)の中心部 22,500トン内で、ニュートリノ振動が起きていない(ニュートリノが変化していない)とした場合に期待されるニュートリノ事象の数は64(+6.1-6.6)である。これに対し実際に検出されたニュートリノ反応の数は44事象であった。(昨年の時点では、それぞれ38(+3.5-3.8)事象及び28事象であった。) 現在測定感度を向上するためニュートリノのエネルギー領域で分けた解析を進めている。これを図に示す
   このデータは当初予定の約1/3に相当する。ニュートリノ振動を確立する(エネルギー分布によるニュートリノ振動の特定)には、今後数年のデータ収集が必要である。ニュートリノ振動の存否の最終的な決着には、まだ数年を要するが、単に時間の問題であると思われる。


ニュートリノ質量と「標準理論」の次に目指すもの

   「ニュートリノ振動」は、ニュートリノが質量を持っているときにのみ起こる現象であり、微小な質量を探索する、唯一つの方法である。
   「標準理論」は、現在多くの物理現象を記述することに成功しているが、この模型では、ニュートリノの質量を零と仮定している。しかしながら、「標準理論」では、素粒子の質量と混合は、パラメーターとして与えられており、より高次の理論で説明されるべきものである。一旦このような理論を考えると、殆どの場合ニュートリノは質量を持つという予言を得る。他の素粒子に比べて極端に小さなニュートリノ質量とその混合を決定することは、将来の素粒子物理学を決定する可能性がある。


大気ニュートリノを使ったスーパーカミオカンデの結果

   ニュートリノ振動は、1998年東京大学宇宙線研究所のスーパーカミオカンデが大気ニュートリノの観測によって、その存在を報告した。この測定では、地球の大気中で作られるニュートリノ(電子ニュートリノ、ミューニュートリノ)の内、ミューニュートリノは、地球規模の距離を飛ぶと、約半数しか反応しなくなるという結果を得た。これは飛行中に別のニュートリノ(タウニュートリノと考えられる)に変化した(振動した)と考えないと説明がつかない。これまで理論によっては、ニュートリノ振動がどのような質量領域で起こるか全く予言できなかった。しかし、スーパーカミオカンデによる大気ニュートリノの結果は、1GeV程度のエネルギーを持つニュートリノを数100kmの距離飛行させればニュートリノ振動を測定できる事を示した。


K2K実験の意義

   K2Kは、加速器で生成されたミューニュートリノの減少をより詳細に測定することにより、ニュートリノ振動の存在(ニュートリノ質量の存在)を確立することを目的とする。本実験では、KEKの陽子シンクロトロンでニュートリノビーム(99%はミューニュートリノである)を作り、神岡のスーパーカミオカンデ装置に向けて発射する。ニュートリノは地中を250km飛行して、同装置でごく一部が反応して検出される。ビームは、2.2秒に1回発射され、100万分の1秒間続く。(ちなみに一回の発射でスーパーカミオカンデに約100万個のニュートリノが入射される。スーパーカミオカンデの中心部22,5000トンでは約1000億個の入射ニュートリノのうち1個の割合で反応して、検出される。)

主な特長は、
(1) 一番もとになる陽子のエネルギーが一定で良く分かっている。
(2) 生成直後のニュートリノビームを KEK敷地内に置かれた「前置測定器」で精 度良く測定することができる。
(1)、(2)によって、源でのニュートリノを精度良く知る事が出来る。こ れと遠方に到達したときのニュートリノ事象を比較することにより、ニュート リノの変化を探索する。
(3) ニュートリノが生成されスーパーカミオカンデで測定されるまでの距離が分かっ ている。距離:L、ニュートリノエネルギー:E とすると、単なる減少では なく sin2 (Λm2 x L/E) というニュートリノ振動に特徴的な変化を示す。 この方式で、ニュートリノが変化していることを示すことが出来れば、ニュー トリノ振動の存在が確立する。

K2K 実験の現状

   K2K実験は、1999年2月に種々の装置の設置を終了し、3月から調整を開始した。加速器からの新しい陽子ビーム取り出し方法、ホーン電磁石、合計2000トンの前置測定器の調整後、6月からデータ収集を開始した。以来2000年6月まで実時間にして約100日、順調に実験を行った。この間に取得したデータについては既に昨年の国際会議で報告した。
   本年は、1月より現在までデータ収集を行っている。今回は、そのうち1月から4月までのデータについて解析を終了したので、昨年のデータに加えて報告する。
KEK内に設置された前置測定器において測定されたニュートリノ事象の解析からスーパーカミオカンデ(50,000トンの水チェレンコフ測定器)の中心部 22,500トン内で、ニュートリノ振動が起きていない(ニュートリノが変化していない)とした場合に期待されるニュートリノ事象の数が算出される。これは本年4月までのデータでは 64.0 (+6.1-6.6)である。これに対し実際に検出されたニュートリノ反応の数は44 事象であった。(昨年の時点では、それぞれ38(+3.5-3.8)事象と28事象であった。)いずれの事象の起こった時刻も、ニュートリノがつくばを出発し、光速で神岡に到着した予想時刻と100万分の1秒以内の精度で一致した。この事実は全ての事象が、つくば起源のニュートリノに因るものであることを示す。
   ニュートリノ振動が起きていないとした場合に64事象が期待されるにもかかわらず、統計的なふらつきや系統誤差によって44以下の事象数を観測する確率は3%以下である。従って、現在のところデータは約97%の確率でニュートリノ振動が起きていることを示唆している。
   特定の質量差は特定のエネルギー領域の減少を起こすため、現在測定感度を向上するためニュートリノのエネルギー領域で分けた解析を進めている。ニュートリノのエネルギーを特定できるのは、準弾性散乱と呼ばれる反応で、スーパーカミオカンデでミュー粒子と考えられる1個のチェレンコフリングだけが検出される場合であり、全部で24事象検出された。これを図に示す。図中実線は、ニュートリノ振動が無いとしたとき、それぞれのニュートリノエネルギーに対して期待される事象数である。検出された事象をニュートリノエネルギー毎に分けると、現在は未だ統計的に不十分である。このデータは当初予定の約1/3に相当する。ニュートリノ振動を確立する(エネルギー分布によるニュートリノ振動の特定)には、あと数年のデータ収集が必要であるが、ニュートリノ振動の存否の最終的な決着は、3年後には可能であると思われる。


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