長基線ニュートリノ振動実験の現状
2000, 7, 17           
 K2K(KEK・神岡間)長基線ニュートリノ振動実験は、つくばのKEK(高エネルギー加速器研究機構)の陽子加速器を用いて発生させた人工ミューニュートリノを、250km離れた岐阜県神岡に設置されている東京大学宇宙線研究所の5万トン水チェレンコフ検出器、スーパーカミオカンデに向けて発射し、これを検出することによりニュートリノ振動を確認することを目的とします。ニュートリノ振動は、ニュートリノが0でない有限の質量を持つことを意味し、スーパーカミオカンデ共同実験グループが1998年6月に大気ニュートリノの観測においてミューニュートリノからタウニュートリノへの振動の証拠を見いだし、報告しました。もしKEKから神岡に至るまでにミューニュートリノがタウニュートリノに振動すれば、スーパーカミオカンデによって検出されるミューニュートリノの数は、振動が起きない場合に予測される数に比べ、かなり減少します。
 
 K2K実験は、昨年6月19日にスーパーカミオカンデにおいて最初のニュートリノ事象を検出し、6月、11月、及び本年1月、2月、3月、5月、6月と順調に実験を行いました。本年3月までに5万トンの水チェレンコフ検出器の中心部22,500トン内(*)で検出されたニュートリノ数は、17事象でした。いずれの事象の起こった時刻も、ニュートリノがつくばを出発し、光速で神岡に到着した予想時刻と100万分の1秒以内の精度で一致しました。この事実は、全ての事象が、つくば起源のニュートリノがスーパーカミオカンデ内で発した信号であることを示します。一方、KEK内に設置された前置検出器において検出されたニュートリノ事象の数から推定される検出数は、ニュートリノ振動が起きないと仮定した場合、29.2+3.5-3.3事象です。実際に検出された事象数が、ニュートリノ振動が起きないとした推定値より少ないこの結果は、統計誤差及び系統誤差を考慮すれば、ニュートリノ振動が起きている確率が約95%であることを意味するもので、本年6月17日にカナダのサドベリーで行われたニュートリノ2000国際会議において初めて報告されました。ニュートリノ振動を科学的に結論するためには、この確率が99%以上であることが必要であり、今後数年間実験を継続することにより目標達成を目指します。


(*)中心部22,500トンに限ることにより、系統誤差の最も少ない確実な測定が保証されます。スーパーカミオカンデの大気ニュートリノ観測及び太陽ニュートリノ観測は、全て中心部の22,500トンを用いています。

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図1. スーパーカミオカンデで検出されたKEKからのニュートリノ事象の一例。

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図2. スーパーカミオカンデでニュートリノの検出された時間とKEKでビームを発射する時間とは、共にGPSを用いて測定されます。この時間差から更にKEKからスーパーカミオカンデまでのニュートリノの飛行時間を差し引くと、-0.2〜+1.3マイクロ秒の間に分布します。これは、KEKからのビームのパルス幅が1.1マイクロ秒ですので、これに時間分解能を考慮したものです。22,500トン内には17事象が検出されましたが、22,500トンから32,000トンの間でも9事象が検出されました。これに対して、ニュートリノ振動が起きないと仮定した場合の事象数は、12.4+-2.5と推定されます。

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