用語解説

【ア】

位相コントラストX線CT法

物質をX線が透過する際に生じる位相の変化(位相シフト)をコントラストとして三次元画像にする新しいイメージング技術。これに対し、従来の医療用、産業用などで普及している吸収コントラスト法によるX線CT技術では、X線が物質を透過する際の透過率(吸収率)の変化をコントラストとして三次元画像にする。位相コントラストX線CT法は、軽元素(水素、炭素、窒素、酸素等)で構成されている試料に対して、数mg/cm3という非常に高い密度分解能で、かつ非破壊で三次元可視化が可能である。

エアハイドレート

南・北極域では、降り積もった積雪層の重さによる圧密によって形成される氷の中に、降雪時の大気が気泡として取り込まれる。気泡中の空気がおよそ50気圧を越える深さに達すると、氷を形成している水分子と空気とが反応しエアハイドレート結晶へと徐々に変化する。この結晶は氷と同様に透明で氷との識別は容易ではないが、その結晶中には結晶の体積の200倍近い体積の空気を含んでいる。これは、以下の図に示すように、水分子によって形成された12面体、16面体のかご型の構造中にガス分子が高密度で取り込まれるためである。 image

SNS(Spallation  Neutron Source = 核破砕中性子源)

米国で建設が進められている大強度中性子源計画。2006年運転開始。

【カ】

核種

原子核の種類を表わす用語で、同じ元素内で質量の違う同位体を区別するため、元素記号(暗黙に陽子数を表わす)と質量数(陽子数と中性子数を足した数)を使って、次のように質量数を左肩に書く。 1H(普通の水素、陽子が1つ) 2H(重水素、陽子1つと中性子1つで出来た水素の同位体) 7Li(中性子4つと陽子3つを持つリチウムの同位体) 6Li(中性子3つと陽子3つを持つリチウムの同位体)

核破砕中性子源

核破砕中性子源(Spallation NeutronSource)は大電流陽子加速器と重金属の核破砕ターゲットで構成され、加速器からの高エネルギー粒子を原子核に衝突させて、大量の中性子を発生させる。
核破砕反応に基づく中性子源。米国のSNS計画はこの英語名称の頭文字から取っている。

核変換技術

原子力発電所などの使用済み核燃料を再処理した際に生じる高レベル放射性廃棄物等に含まれる放射性核種を、半減期が長寿命のものと短寿命のものとに分離した後、長寿命核種に中性子やガンマ線等の放射線を照射することにより、短寿命又は非放射性核種に変換する技術。
この技術が開発されると、放射性廃棄物の管理が格段に容易になり、放射能毒性として約200分の1程度のレベルにまで低下するものと考えられる。
将来的には、加速器駆動型の核変換プラントで変換時に得られるエネルギーで発電を行い、発電電力を利用して加速器を駆動する電力を自給するような構想、試算が行われている。

加速器

加速器(accelerator)は、電子や陽子のような粒子や、ヘリウムからウランに至るまでの様々な原子核を、電場の力を利用して高速に加速する装置。素粒子や原子核に運動エネルギーを与える。サイクロン、シンクロトロン、リニアックなどの種類がある。元来加速器は、原子核や素粒子の研究のために発明、開発されたものであるが、現在は理学、工学、医学など各方面に利用されている。

荷電ヒッグス粒子

真空から発生し、他の粒子の質量の起源となると考えられるヒッグス粒子は電気的に中性であるが、超対称性理論など標準理論を超えた素粒子理論では中性ヒッグス粒子と対を成す荷電ヒッグス粒子が存在することが予言されている。標準理論では荷電ヒッグス粒子は存在しないので、この存在が確かめられれば新しい物理法則の動かぬ証拠となる。

擬一次元物質

次元が低くなると、低い次元特有の現象も色々と予想され、また観測されている。しかし、実際に本当の一次元、本当の二次元の物質は、我々が住む三次元の世界に作り出すことができない。実際に作ることができる範囲で一次元に近づけた物を擬一次元物質と呼ぶ。理想的な一次元物質は通常は金属になることができないことが知られているが、擬一次元物質は金属になる場合があり、そういった物質中で何が伝導性を引き起こしているかは、多くの科学者が取り組んでいる問題のひとつである。

KEKB加速器(ケックビーカソクキ)

KEKBは、高いエネルギーの電子(80億電子ボルト)と陽電子(35億電子ボルト)を二つのリングにそれぞれ蓄積し、その交差点(IR)で衝突させて素粒子物理の実験を行なう「衝突型加速器」です。リング一周は約3キロメートルもあり、地下約10メートルのトンネルの中に建設され、1998年暮れから運転を行なっています。下のイラストで赤いリングは陽電子のリング、青いリングは電子のリングです。このリングの中を逆方向に回る粒子同士は「Belle」のところで衝突をし、素粒子反応を起こします。 image

強的軌道秩序

結晶の中で各原子位置での電子分布が同じ形状をとり、結晶全体に規則的に並んだ状態。初めに強磁性という言葉が使われた。強磁性は結晶の中で電子スピンが同じ向きを持って並ぶ現象であり、それ以来電子の同じ秩序状態が結晶全体に並ぶ現象を強的秩序という言い方で表す場合が多い。結晶のなかの電気分極が同じ方位を持って並ぶ現象は強誘電性と呼ばれている。

共鳴X線散乱

元素には固有の吸収端エネルギーといわれるものがあり、吸収端に近いエネルギーのX線を入射すると、その元素からの散乱強度が、遠いエネルギーを入射した場合から大きく変化する。この変化は一種の共鳴作用であるために、この変化を積極的に使う実験法を共鳴X線散乱と呼んでいる。これを利用することで、特定の元素の状態を抽出して調べることが可能である。共鳴X線散乱によって電子の状態を調べる手法は、1998年にフォトンファクトリーで開発された。

共鳴X線散乱干渉法

この研究により開拓された方法で、軌道秩序のシグナルを結晶構造のシグナルと干渉させ強度を増強させることにより、結晶構造の信号と分離して、本来微弱な軌道秩序のシグナルを捉える観測手法。

金属間化合物

金属元素から構成される化合物で、LiGaのように元素間が金属結合だけはではなく、共有結合とイオン結合が混在している化合物のこと。この意味で金属とは呼ばれない。概して、機能性を持つ材料が多い。

原子空孔

結晶はさまざまな構造を持っており、通常その格子点には原子が配置されている。原子空孔とはその格子点にあるべき原子が空位となっているものを指す。

高周波シンクロトロン

円形加速器であるシンクロトロンのうち、(1)粒子の加速(2)進行方向の粒子の閉じ込め(加速粒子の塊がばらばらにならないようにすること)と言う二つの機能を共通の高周波電磁場が担うもの。通常シンクロトロンと言えば、この型のものを示すので、「高周波シンクロトロン」とはっきり書かないことが多い。1945年に発明され、以来、原子核、素粒子の実験研究に貢献してきた。加速器リングの一箇所または数箇所に電磁共振器である高周波加速空洞を設置し、この中に電磁振動が常に起きた状態にしておく。高周波電磁場で満たされた加速空洞内の電磁場は時々刻々変化するが、加速すべき粒子がこれを通過する時にタイミングをうまく合わせ、早く到着した粒子には低い電圧、遅く到達した粒子には高い電圧を与えるように調整する。このタイミング調整により、粒子の塊はその形を保つことができエネルギーのばらつきも一定以内に収めることができる。加速空洞の共振周波数には、粒子が加速器リングを周回する周波数の整数倍が使われるが、これによって上記のタイミング調整が可能になる。一方シンクロトロンの別なタイプとして、加速と粒子の閉じ込めを別々の誘導電場で行うタイプのものもある。このタイプのものを誘導加速シンクロトロンと呼ぶ。

小林益川行列

3世代6種類のクォークが電荷の変化を伴う弱い相互作用をする時、アップ、チャーム、トップがダウン、ストレンジ、ボトムと結合するが、この時、世代間の混合が起きる。この混合の様子を、それぞれのクォークが結合する3行3列の行列で表したものを小林益川行列という。

小林・益川理論

物質の基本となる素粒子を記述する理論の一つ。この理論において、CP対称性の破れはおよそ次のように説明される。ウィークボゾンを交換する弱い相互作用において、Q=2/3eのクォークとQ=-1/3eのクォークは互いに移り変わる。この移り変わりは異なる世代間でも可能なので、3世代では9種類の組み合わせが存在する。1973年に小林誠高エネルギー加速器研究機構名誉教授(当時:京都大学理学部助手)と益川敏英京都産業大学理学部教授(当時:京都大学理学部助手)は、CP対称性の破れが起きるためには、2世代ではこの組み合わせの数が不十分であり、3世代で初めてCP対称性が破れることを示し、6種類のクォークの存在を予言した。その後1974年にチャームクォーク、1977年にボトムクォーク、1995年にトップクォークが予言どおりに発見された。

【サ】

散漫散乱

結晶は三次元的に原子が配列したものであり、その周期性によって、照射したX線がスポット状に散乱される。三次元的な周期性は低次元構造や、熱振動、不純物などによる微小な歪などによって完全には実現しないことが多く、その場合、平均的に見た三次元的な周期性からはスポット状の散乱が、そこから外れた構造が棒状や面状に広がった散乱を起こす。この広がった散乱を散漫散乱と呼ぶ。

CP対称性の破れ

粒子と反粒子の間に本質的なちがいがあるかどうかは、粒子と反粒子の入れかえ"C(チャージ)"と粒子の空間反転(鏡に写して見た状態)に対する性質"P(パリティー)"を組み合わせた"CP変換"に対する性質を調べることでわかる。粒子と反粒子のふるまいが同じならば「CP不変である」と言い、ちがいがあれば「CP不変性が破れている」と言う。たとえば、ニュートリノは左巻きのスピンをもち、反ニュートリノは右巻きのスピンをもつ。左巻きニュートリノに対して粒子・反粒子の入れかえを行うと、左巻きの反ニュートリノとなる。これに、空間反転を行うと正しく右巻きの反ニュートリノ状態が得られる。したがって、粒子と反粒子の間の本質的なちがいを調べるには、単なる粒子・反粒子の入れかえではなく"CP変換"を考える必要がある。

シンクロトロン

円形軌道上で粒子を加速すると、偏向電磁石の強さが一定であれば、エネルギーに従って軌道半径が大きくなっていく。高エネルギー加速器では、軌道半径に伴って大型になるのを避けるため、一定の円形軌道の上を通るように磁場を強くして行く方式の加速器がシンクロトロンである。

スーパーバンチ

粒子の衝突頻度を高めるために加速の際にリング上に形成される誘導加速シンクロトロンの最大の特徴である長大な粒子の群れ(バンチ)を言う。例えば、ヨーロッパ原子核研究所(CERN)で建設中の陽子・陽子衝突型加速器の高周波シンクロトロンにおいてはバンチの長さが10cm程度であるのに対し、誘導加速シンクロトロンにおいては約300mにも及ぶものとなる。

スポットスキャン照射法

ビームの大きさをがんの患部より小さく収束して、ビーム位置をスキャンして患部を照射する方法。ビーム密度が大きいので照射時間が短くでき、患部の部分部分で照射量を変化させたり、患部以外には照射をしないようにしたりする等の色々なメリットがある。この為にはビーム加速、取り出しの繰り返しを早くすることが必要である。

素粒子

物質を構成する最も基本的な粒子。歴史的には陽子や中性子も素粒子と呼ばれていたが、それらはさらに小さな粒子(クォーク)で構成されている複合粒子であることが解明され、厳密な意味での素粒子ではない。現在のところ、物質の素粒子は電子、ニュートリノなどと、陽子や中性子を構成しているクォークである。

【タ】

タウとニュートリノ

電子はもっともよく知られた素粒子であるが、これには性質のよく似た「兄弟」が存在する。「長兄」はタウ(τ)と呼ばれ、質量は電子の3600倍、「次兄」はミュー(μ)と呼ばれ、質量は電子の200倍である。この3種類の粒子はまとめて荷電レプトンと呼ばれ、それぞれに電荷をもたない相棒、ニュートリノが存在する。したがってニュートリノにも3種類ある。荷電レプトンとニュートリノをあわせてレプトンと呼ぶ。

短寿命核種

寿命の短い放射性核種で、ここでは秒以下から数時間の寿命の核種を指す。8Liはベータ(β-)崩壊した後、2個のアルファ粒子(ヘリウムの原子核)に核壊変する。

秩序-無秩序転移

原子、分子、スピンなどが規則的である相(秩序相)と不規則である相(無秩序相)との間で起こる物質構造の転移のこと。

中間子

クォークと反クォークが結合してできた粒子。現在知られてる6つのクォークとその反粒子の任意の組み合わせで作られる。歴史的には、湯川秀樹博士により原子核内の陽子と中性子を結合する粒子として導入され、原子核のサイズからその質量が予言された。後に湯川博士の理論通りの質量をもつ粒子が発見され、予言は実験的に確認された。現在では極めて多くの中間子が知られており、高エネルギー加速器研究機構のKEKB加速器で大量に作られているB中間子もその仲間である。

中性子

中性子は電荷を持たない粒子で、陽子とともに原子核を構成している。原子核から離れた中性子は、電荷を持たないので物質を透過する能力に優れ、原子の周りにある電子の雲を通り抜けて原子核と直接衝突するので、様々な影響を与えたり、原子核の情報をもたらしてくれる。

中性子科学研究施設(KENS)

物質科学や生命科学の分野では、中性子の性質を利用して、X線などでは得られない情報を取得して、様々な研究が進められる。
この施設は1980年に世界に先駆けて陽子加速器を用いた核破砕パルス中性子源として実用化した大学共同利用施設であり、以来、物性科学、高分子化学、生物科学、基礎物理学にわたる分野の共同利用に供してきた。

中性子小角散乱装置(WINK)

試料により散乱された中性子を観測し、0.1ナノメートルから100ナノメートルという広い長さスケールの構造を明らかにできる装置。

中性子散乱法

タンパク質を重水素(水素の原子核より中性子が1個多い原子核を有する水素)と酸素からなる重水に溶解させ、これに、冷中性子(衝突しても原子核が壊れないような低エネルギーの中性子粒子)を照射し、タンパク質から散乱してくる中性子粒子を観測し、水中で非破壊によりタンパク質の構造を観察する方法。

超イオン伝導体

固体では通常、イオンや原子が骨格を形成し、電気伝導は通常、電子や正孔が担っている。固体中のイオンが骨格の原子などに比べて高速に動く(水溶液中のイオンに匹敵する様な速さ。例えば1ミクロン/秒)物質を超イオン伝導体と呼ぶ。燃料電池やセンサー、光デバイスなどに利用されている。

超対称性

自然界にある粒子は、粒子のスピン(自転)によってボゾンとフェルミオンの2種に大別される。ボゾンはスピンが0または整数で、フェルミオンは半整数である。元来、ボゾンとフェルミオンは全く別種の粒子と考えられていたが、ボゾンとフェルミオンの間に対称性があり、ボゾンとフェルミオンが同数種だけ存在し、それぞれ一対一に対応するということを超対称性と言う。

超対称性理論など

統一理論においては、電磁気力と弱い力が破れるエネルギースケールに対応するヒッグス粒子が予言されるが、これを単純な素粒子と考えると,その質量の大きさに別の観点から問題が生じる。それを解決する方法として、「超対称性理論(SUSY)」や複合粒子模型が提唱されている。前者は、新しい対称性(超対称性)を仮定するもので、これは、SUSY粒子と呼ばれる大量の未発見の粒子の存在を要求する。後者は、ヒッグス粒子などが、単純な素粒子ではなく、いくつかの素粒子が集合してできたものとする考えである。双方とも、一応もっともらしい理論であるので、実験的に実証しようという努力が多くなされているが、今のところ、決定的な手がかりは得られていない。

超伝導

金属を超低温に冷却すると、電気抵抗がゼロになったり、金属中の磁場がゼロになる(マイスナー効果)などの超伝導という性質が現れる。このような性質を持つ物質を超伝導体という。

超伝導加速空洞

加速空洞とは高周波をその中に供給し、それが作る電場で荷電粒子を加速する装置(加速管ともいう)である。超伝導加速空洞は超伝導状態で加速をおこなうため、超伝導材料でできた加速管を液体ヘリウムで冷却する必要がある。超伝導特性から空洞内の高周波損失を著しく低減でき、省エネルギー性が向上する。

テラバイト

情報量の単位。TBと表記する。テラ(tera)は1兆倍(1012)倍を表わす接頭語。1TB=1,000GB(ギガバイト)。

電子の軌道秩序

各原子に局在した電子の異方的な分布が、結晶全体に規則を持って配列する状態。電子の異方的な分布はそのまま電子軌道の形(対称性)を意味している。

東海研タンデム加速器

原研東海研にある世界最大級の静電加速器。イオン源から一価の負イオンを正に帯電した高電圧ターミナルに向けて加速し、高電圧ターミナルに設置した荷電変換装置でイオンの電子をはぎ取り、多価の正イオンにする。高電圧ターミナル内に設置した電磁石でイオンの方向を180度変えて、もと来た方向に再加速することで高エネルギー加速を可能にしている。多種類の加速イオンが得られること、加速イオンのエネルギー精度が高いことなどが特徴である。

ドリフトチューブ型リニアック(Drift Tube Linac,  DTL)

タンクと呼ばれる円筒形の空洞の中に、ドリフトチューブと呼ばれる電極を配置し、タンクに大出力の高周波電力を供給すると、中に時間的に変化する交番電場が発生する。陽子ビームはドリフトチューブの中心を通る。ビームがちょうどドリフトチューブの間に来たときに、加速方向の電場がかるようにすると陽子は加速を受け、反対方向の減速電場のときにはドリフトチューブの中に隠れて電場の力を受けないようにすると、加速のみの力を受けることができる。この原理を利用したリニアックがドリフトチューブリニアックである。
ビームは自分自身での電荷の力で反発し、そのままでは発散してロスしてしまうため、これを防ぐ目的で、ドリフトチューブの中にはビームの収束のための収束磁石(Q磁石)を配置する必要がある。 image

【ナ】

ニオブ

超伝導臨界温度絶対温度9.25度の単一金属。加工性に優れ空洞製作に適する。

ニュートリノ

中性微子ともいう。電気的に中性で微小な素粒子。電子、ミュー粒子、タウ粒子に対応して、電子型ニュートリノ、ミュー型ニュートリノ、タウ型ニュートリノの3種類が存在する。宇宙からは毎秒600億個/cm2もの太陽ニュートリノが飛んできているが、他の粒子との相互作用が非常に弱く、私たちの体はもとより地球も通り抜けてしまう。そのため性質を調査・研究することが困難である。東京大学名誉教授小柴昌俊氏は、画期的なニュートリノ検出器を開発、カミオカンデと名付け岐阜県神岡町の神岡鉱山に設置し、同検出器を用いて1987年2月に起こった超新星からのニュートリノを検出し、ニュートリノ天文学という新たな研究分野を開拓した。この業績が高く評価され、2002年のノーベル物理学賞を受賞した。
素粒子の標準理論では質量はゼロとされてきたが、神岡に新たに設置されたスーパーカミオカンデによる観測でニュートリノに質量があるために起こる現象が1998年に初めて確認され、詳しい研究が続けられている。

【ハ】

ハドロン

クォークによって構成される複合粒子の総称。6種類のクォークおよびそれらの反粒子、あるいはエネルギーの共鳴状態の組み合わせによって、非常に多くのハドロンが存在する。その大部分は天然には存在せず、主に加速器によって人工的に作り出されている。3個のクォークからなる陽子や中性子、2個のクォークからなるパイ中間子やK中間子などがある。

ハロゲン架橋金属錯体

MX鎖とMMX鎖の2種類に大別され、遷移金属イオン(M)とハロゲンイオン(X)が交互に並んだ一次元骨格を持つ。MX鎖では、電子格子相互作用(S)が支配的なときは金属の原子価は2価と4価の混合原子化状態[-M2+-X--M4+-]が生じ、電荷密度波(CDW)相と呼ばれている。

反強的軌道秩序

結晶の中の電子の秩序が、交互に反対向きになりながら、結晶全体に配列する状態を反強的秩序と呼ぶ。磁性体ではスピンが交互に反対向きに並んだ状態を、反強磁性と呼ぶ。模式的に言えば白黒の市松模様の様な配列も反強的秩序の例となる。

ヒッグス機構

物理法則を記述する「標準理論」では、あらゆる粒子の「本来の」質量はゼロでなければならない。現実の粒子の多くが質量を持つことを説明するため、真空中は「ヒッグス場」によって満たされていると考え、ヒッグス場と相互作用する粒子は真空中を進む際に抵抗を受けるため、質量を持つことになる。この仕組をヒッグス機構と呼ぶ。

ビームライン

加速器で加速された電子や陽子や標的にあてて発生させた中間子、中性子、ニュートリノなどの粒子、あるいは電子の軌道が磁場の中で曲げられる時に発生する放射光を実験装置まで導く真空のパイプをビームラインという。実験装置の種類に応じて様々な構成のビームラインが存在する。

標準理論

電弱統一理論、量子色力学、小林・益川理論などを含んだ標準理論は現在知られている素粒子に関する実験事実をよく説明しているが、理論的には不完全な点が指摘されており、これを超えた新しい物理法則が存在して、現在の標準理論はこの理論の低エネルギーでの近似法則であると考えられている。新しい物理法則にはさまざまな仮説があるが、超対称性理論と呼ばれる理論がもっとも注目されている。これによると1000GeVくらいのエネルギーに現在知られている粒子の超対称パートナーが存在すると考えられ、これを探す、あるいは兆候を見つけることが現在の素粒子実験のもっとも重要な課題であると考えられている。

ファイ中間子

ファイ中間子は、ストレンジクォークと反ストレンジクォークという2つのクォークが結びついて出来た複合粒子。真空中での質量は約1019 MeV/c2であり、生成されてから約1.5x10-22秒の寿命ののちに崩壊する。大部分はK中間子・反K中間子対に崩壊するが、約0.03%のファイ中間子は、電子・陽電子対に崩壊する。この電子・陽電子対を検出してファイ中間子の質量を測定する。

負水素イオン

原子・分子に電子が余分に付着し、全体として負に帯電したものを一般的に負イオンと言い、特に水素原子の負イオンのことを負水素イオンと呼ぶ。負水素イオンは特殊な条件下でしか生まれない上に消滅しやすいため、正イオンと比較して大量に生成するのは難しい。 image

分子性伝導体

氷砂糖やナフタレンが電気を通さないように、ほとんどの分子性物質は電気を通さない。このように通常は絶縁体である分子性物質の中にも電気を良く通すものがあり、これを分子性伝導体と呼ぶ。化学的に合成することができる物質で電気が通りやすいものが作成できることから、多くの科学者がこういった物質について研究している。

分子性物質

例えば食塩は、ナトリウム原子と塩素原子からできているし、鉄は鉄原子の塊である。こういった物とは異なり、分子が固まってできた物質を分子性物質と呼ぶ。例えば、ナフタレンや、ブドウ糖の結晶は分子性の物質である。

Belle実験グループ

世界14の国と地域の59研究機関から参加する約360人の研究者からなる国際研究チームであり、KEKB加速器の中に設置されたBelle検出器を用いて実験をしている。電子と陽電子を衝突させることにより、B 中間子と反B 中間子の対を大量に発生させ、その粒子崩壊過程を詳しく調べることによって物質と反物質の僅かな性質の違いを究明する。

崩壊分岐比

ほとんどの素粒子はきわめて短い時間のうちに別の粒子群に崩壊する。このときに特定のパターンにどのような確率で壊れるかを崩壊分岐比と呼ぶ。たとえばB中間子は1.6ピコ秒の寿命で崩壊するが、崩壊でできた粒子の組み合わせは知られているだけでも100通り以上のパターンがある。B0中間子がDとπに壊れる崩壊分岐比は0.3%程度であることが測定されている。

放射光共鳴X線散乱

放射光X線による回折実験の手法の一つ。原子が持つ固有の共鳴状態に一致するエネルギーを持つX線を入射し、原子を励起状態に保ちながら結晶方位に対する回折信号の強度分布を調べ、励起状態にある原子の対称性と電子軌道に関する情報を得ることができる。

【マ】

ミュー(ミュオン)

電子と同じレプトン(軽粒子)の仲間に属し、電子と似た性質を持つ素粒子。質量は、電子に比べ約200倍重く、1/2のスピンを持ち、正と負の電荷を持つ2種類のミュー粒子がある。2.2マイクロ秒で電子とニュートリノに崩壊する。ミュオンとも呼ばれる。

MeV/c2(メブ,メブオーバーシースクェア)

質量の単位。1MeV/c2はおよそ1.8x10-30kg。

単量体(モノマー)/二量体(ダイマー)

タンパク質は単体(単量体)で機能を発現するものもあるが、多くのタンパク質はお互いの構造を認識し合い、同一のタンパク質分子間や、異なる分子と自動的に会合し多量体を形成するものが多い。UCH-L1というタンパク質の場合は、同じ分子間で認識し、2つの分子が会合する。このように2つの分子から形成された多量体を二量体と呼ぶ。

【ヤ】

誘導加速シンクロトロン

誘導加速シンクロトロンは、高周波シンクロトロンに比べ粒子をより安定に且つより高い強度が得られる加速方法として、2000年にその概念が発表され、ビーム軌道上に置かれた加速セルにステップ状の誘導電圧を任意に発生させることにより粒子の閉じ込めや加速を分離して行える誘導加速装置の開発により実現された。

UCH-L1(ubiqutin carboxy-terminal hydrolase L1)

ユビキチン・プロテアゾームシステムで、ユビキチンが結合した不要なタンパク質はアミノ酸へとリサイクルされるが、ユビキチンが結合した状態ではユビキチンも分解されてしまい、細胞内でユビキチンが減少してしまう。そこでタンパク質が分解される前に、細胞内にユビキチンを回収する酵素がubiqutin carboxy-terminal hydrolaseである。生体にはUCH-L3が広く分布しているが、脳ではアミノ酸配列が類似のUCH-L1が発現している。家族性のパーキンソン病患者の脳でI93M変異体が見つかり、パーキンソン病の発症とユビキチン・プロテアゾームシステムとの関係が注目されている。

ユビキチン・プロテアゾームシステム

細胞内で不要となったタンパク質に印を付け、これをアミノ酸へとリサイクルする細胞内のタンパク質分解システム。ユビキチンはその"印"の役割をするタンパク質で、"ユビキタス"、即ち生体のどこにでもある、と言う語源を持つ。このシステムの発見でアーロン チカノヴァー(イスラエル)、アブラムハーシュコ(イスラエル)、アーウィン ローズ(アメリカ)の3氏が2004年のノーベル化学賞を受賞した。

陽子

陽子(proton)は正(+;プラス)の電荷を持つ粒子で、中性子とともに原子核を構成している。水素の原子核は陽子である。陽子が安定して存在することが、物質の安定性の基礎である。

【ラ】

ラマン散乱

物質に単色光を入射させると、入射光と振動数が少しずれた散乱光を観測することができる。これをラマン散乱と言う。どれだけ光の振動数が変化するかは、分子の部分的な構造に依存するので、ラマン散乱の測定で分子の特定の部位の形状を議論することができる。

リチウムイオン電池電極材

リチウム電池では充電時には正極からリチウムイオンが抜かれ、負極ではリチウムイオンが吸蔵される。放電時には逆に負極から正極へリチウムイオンが移動する反応が起こる。電極材料はリチウムイオンを吸蔵、放出する機能を有する必要があり、この吸蔵、放出機能の速度が充放電特性等の電池特性に大きな影響を与える。

リニアック

加速空洞を直線状に並べ、高周波電場を使って電子や陽子等の電荷を持つ粒子(荷電粒子)を直線的に加速する加速器の総称で、線形加速器とも呼ばれる。荷電粒子の入射及び取り出しとも加速方向に一直線となる。
この方式では、定常的にビームを取り出すことができ、多くの粒子(大電流)を加速することに適している。しかし粒子はそれぞれの加速空洞を1回しか通らないため、高エネルギーまで加速するには数多くの空洞が必要となる。
電子を加速するリニアックの小型のものは医療現場で放射線治療用として使用されている。

量子計算

複数の可能性をもつ量子状態を何個か相互作用させることによって、それぞれの可能性について相互作用を時間発展させることができる。人間が観測した瞬間に、それぞれの可能性のいずれか1つが実現されるが、時間発展は同時並行的に行われるので、原理的には超並列計算を行うことが可能とされる。この原理を量子計算または量子コンピューティングと呼ぶ。

量子もつれ(量子エンタングルメント)

量子力学では、粒子などの物理状態は複数の可能な状態が同時に重ね合わさっているものとして取り扱われる。観測を行った瞬間に、このうちの1つの可能性が実現され、その状態に対応する物理量が観測されることになる。
2つ以上の粒子の量子状態の場合には、この重ね合わせ状態は、個々の粒子の状態が「もつれ合っている」と理解され、1つの粒子の物理量を観測しただけで、残りの粒子の物理量が判明する場合がある。
この相関現象は粒子の間の距離に依らず、また相関の性質を観測者が規定できるなど、古典物理学の下での相関と本質的に異なるもので、「量子もつれ」(量子エンタングルメント)と呼ばれている。