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  プレス・リリース 〜 02-02 〜 For immediate release: 2002年6月12日  
 
 
発表の内容に対し一部訂正カ所があります。    
 
長基線ニュートリノ振動実験(K2K実験)の最近の結果 (概要)
 
2002年6月12日
東京大学宇宙線研究所
高エネルギー加速器研究機構
 
(概要)
  K2K実験は、高エネルギー加速器研究機構で人工的に発生させたミューニュートリノを250km離れたスーパーカミオカンデで観測し、事象数の減少やエネルギー分布の変化を観測することによりニュートリノ振動を検出する実験である。昨年7月までに得られた全データを解析した結果、スーパーカミオカンデにより56事象が観測された。ニュートリノ振動が起きないとした場合、予想される事象数は80.1(+6.2 -5.4)である。エネルギー分布の観測結果と総合して、ニュートリノ振動が起こっていない確率は1%以下となった。ニュートリノ振動とした場合、1998年にスーパーカミオカンデで発見された大気ニュートリノ振動の観測結果と非常に良く一致している。また、ニュートリノ振動といわれるゆえんの、観測事象数がエネルギーとともに振動的に振る舞う新しい現象が見え始めた。今後、スーパーカミオカンデの部分復旧を待ち、今年末を目途に実験を再開し、2〜3年で観測事象数を倍増する。これにより、ニュートリノ振動の振動的振る舞いを確実に観測すると共にニュートリノ振動のパラメータ(質量の2乗の差と混合角)を精度良く決定することを目指す。(詳しくはこちら

K2K実験グループ
     実験代表者:西川公一郎 (京都大学)

国内参加機関(8機関)
     高エネルギー加速器研究機構(KEK) 素粒子原子核研究所
     東京大学宇宙線研究所(ICRR)
     神戸大学
     京都大学
     新潟大学
     岡山大学
     東京理科大学
     東北大学

国外参加機関(12機関)
     Chonnam National University (Korea)
     Dongshin University (Korea)
     Korea University (Korea)
     Seoul National University (Korea)
     Boston University (USA)
     University of California, Irvine (USA)
     University of Hawaii (USA)
     Massachusetts Institute of Technology
     State University of New York, Stony Brook (USA)
     University of Washington (USA)
     Warsaw University (Poland)
     Soltan Institute for Nuclear Studies (Poland)

 
 
   
長基線ニュートリノ振動実験(K2K実験)の最近の結果
 
 
(実験目的)
1998年6月、5万トンの水チェレンコフ検出装置、スーパーカミオカンデによる大気ニュートリノ観測で、ニュートリノ振動が発見された。ニュートリノ振動は、3種類あるとされているニュートリノが質量を持つときに起こる現象で、生成されたニュートリノが飛行中に別種のニュートリノに変わるものである。 ニュートリノの質量は、現在の素粒子の標準理論ではゼロと考えられている。ニュートリノ振動の発見は、ニュートリノが微小ではあるが有限な質量を持つことを意味し、標準理論を超えた素粒子理論の構築の必要性を示している(図1)。また、ニュートリノの微小な質量は、背後に存在する巨大なエネルギースケールの世界、すなわち大統一理論の存在をも強く示唆している。K2K実験は、この大気ニュートリノ振動の観測結果を、加速器により発生させた人工ニュートリノを用いる実験で確認すると共に、振動パラメータ(質量の2乗の差と混合角)を良い精度で決定するものである。

(実験方法)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)の12 GeV陽子シンクロトロンによりニュートリノビームを発生させる。このニュートリノはミューニュートリノである(注1)。KEK敷地内には前置検出器が置かれている。その役割は、発生直後、ニュートリノ振動を起こす前のミューニュートリノの数とエネルギー分布を測定することである。ニュートリノビームは250km離れたスーパーカミオカンデに向けて発射される(図2)。この人工ニュートリノは大気ニュートリノと同程度のエネルギーを持っているため、飛行距離250kmの地球規模実験を行うことで、大気ニュートリノ振動を再現することが可能である。 K2Kは、世界で最初の地球規模長基線ニュートリノ振動実験である。
KEKからのビームは、約2秒に1回、約100万分の1秒のパルスとして神岡に向け発射される。この時間情報により、KEKからのビームに起因するニュートリノ事象であることが判別できる。大気ニュートリノなど自然ニュートリノの事象が入り込む確率は、1/1000程度以下である(図3)。

 
(データの解析と結果)
K2K実験では、ミューニュートリノビームの強度とエネルギー分布を前置検出器で測り、その変化を測ることで、ニュートリノ振動の研究をおこなう。ニュートリノ振動が起きれば、発生したミューニュートリノの強度は減少し、そのエネルギー分布は特徴的な歪みを示すはずである。今回の発表では、平成13年7月の発表に用いたデータに、同年5月−7月に取得したデータを加え、従って現在までに取得した全データを解析した。さらに、前回以降、系統誤差の理解が進み、解析の精度が上がった。また、生成されたニュートリノのエネルギー分布と、スーパーカミオカンデで観測されたエネルギー分布の比較を初めて定量的に行った。その結果、
1)ニュートリノ振動が起きないと仮定した場合、スーパーカミオカンデで予想される事象数は80.1(+6.2 -5.4)であるが、観測されたのは56事象であった。
2)観測されたニュートリノのエネルギー分布(注2)は、ニュートリノ振動が無い場合と比較して、特徴的な歪みを示した(図4)。
 
 
(結論)
以上の結果から次のような結論が得られた。
A)ニュートリノ振動が起きない場合、統計的ふらつきで上記の結果1)、2)のような観測結果になる確率は1%以下である。
B)ニュートリノ振動とした場合、スーパーカミオカンデの大気ニュートリノの観測結果と非常に良く一致している(図5)。また、図4で、エネルギーとともに事象数が振動的に振る舞う新しい現象が見え始めている。
 
 
(今後)
昨年11月のスーパーカミオカンデの事故により、今年のK2K実験のデータ取得も延期されている。実験再開は、現在行われているスーパーカミオカンデの部分復旧作業が終了し、水槽の水が満水になる本年末頃を予定している。部分復旧では光電子増倍管の本数が5248本と当初の全数11146本の約半数になるが、K2K実験では検出するニュートリノのエネルギーが高いため、観測に支障はない。

昨年7月までに、K2K実験は当初予定のほぼ半分のニュートリノビーム量を使用した。今後2〜3年ほどかけて、当初の目標どおりのニュートリノビーム量を使用し、スーパーカミオカンデでの観測事象数を倍増する。これにより、ニュートリノ振動の振動的振る舞いを確実に観測すると共に、振動パラメータ(質量の2乗の差と混合角)を精度良く決定することが可能となる。

1987年の超新星ニュートリノ観測によって始まった我が国のニュートリノ研究は、15年後の現在、素粒子物理学および宇宙物理学の根幹にふれるまでに発展してきた。しかし、未発見の電子型―ミュー型間の振動の観測、宇宙の物質・反物質非対称性の謎を解明するのに必要なCP非保存現象の発見等々、さらに研究すべき課題が多く残されている。我々は引き続きこれらの謎に挑戦していく所存である。

(注1)
ニュートリノには、電子型、ミュー型、タウ型の3種類ある。大気ニュートリノ振動はミューニュートリノがタウニュートリノに変化したものである。K2K実験では発生したタウニュートリノは検出できないため、ミューニュートリノを検出して、その減少を確認する。
(注2)
スーパーカミオカンデによる測定でミューニュートリノのエネルギーを決められるのは、ミューニュートリノが中性子と反応してミュー粒子と陽子に変わる2体反応の場合である。K2Kの実験条件ではミュー粒子だけがチェレンコフ光を放射する。観測した56事象のうち、これに該当する29事象を用いてミューニュートリノのエネルギー分布を得た。
 
(K2Kつくば−神岡間 長基線ニュートリノ振動実験 公式HP)
http://neutrino.kek.jp/index-j.html
 

 
   
 
修正内容

(結論)B)の「同図」を「図4」に修正  (6月13日)
(データの解析と結果)2)のエネルギー分布の後に「(注2)」を、(注1)の下に注釈(注2)を追加  (6月14日)
 
 
図1
図1 ニュートリノの質量は、クォークや電荷を持ったレプトン(電子の仲間)に比べて、10桁以上小さい。この微小なニュートリノの質量は、その背後に巨大なエネルギースケールの存在を意味する。ニュートリノの質量は大統一理論への突破口である。
 
 
図2
図2 高エネルギー加速器研究機構の陽子加速器により人工的に作られたミューニュートリノビームを、250km離れたスーパーカミオカンデで検出する。地球が丸いため、ニュートリノは地球内部を直進する。
 
図3
図3 人工ニュートリノビームは約2秒に1回、およそ100万分の1秒のパルスとして発射される。この図は、スーパーカミオカンデで観測された、ビームに起因するニュートリノ事象の時間分布を示す。横軸の0の位置は、ビームの先端がスーパーカミオカンデに到着した時刻を示す。ビーム事象の周りには何もない。これは、ビーム事象が大気ニュートリノなど、他の事象とはっきり区別でき、バックグラウンドが無いことを示している。
 
 
図4 図5
図4 スーパーカミオカンデで検出された人工ニュートリノ起因の事象のエネルギー分布。青い線は、ニュートリノ振動が無い時に期待される分布。赤い線は、ニュートリノ振動を仮定して、データに最も良く合うようにニュートリノ振動のパラメータを決めたときのエネルギー分布。このパラメータは大気ニュートリノ振動のパラメータと良く一致している。赤線は低エネルギーで明らかに振動的に変化している。データもこの振動的振る舞いが見え始めているが、それを確証するにはさらにデータが必要である。 図5 K2K実験で得られたニュートリノ振動のパラメータ(質量の2乗の差と混合角)領域。横軸が混合を縦軸が質量差を表す。90%信頼度の領域を示す。スーパーカミオカンデの結果も示してある。K2K実験の結果の範囲はまだ広いけれども、スーパーカミオカンデを良く再現していることが分かる。今後の実験で、さらにこの許される領域を狭くしてゆく。
 
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proffice@kek.jp
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