重陽子-金原子核衝突からのエキサイティングな研究成果 〜物質の新しい形態の探求へ〜
米国エネルギー省ブルックヘブン国立研究所(以下、BNL:付属資料1)は、相対論的重イオン衝突型加速器(以下、RHIC:付属資料2)を用いた実験成果(付属資料4)に関して、2003年6月11日(米国東部時間)、「BNLでの重陽子-金原子核衝突からのエキサイティングな最初の結果 -- 物質の新しい形態の探求に弾みをつける発見--」と題して記者発表を行なった。
(http://www.bnl.gov/bnlweb/pubaf/pr/2003/bnlpr061103.htm)
前年までの金原子核同士の衝突において発見された「反対方向に出るジェット対の一方が消滅する」、及び「高い運動量を持つパイ中間子の収量が異常に少ない」という二つの現象が、本年3月にデータ収集を完了した重陽子と金原子核の衝突実験では観測されなかった。このことは、金原子核同士の衝突により、通常存在しない未知の状態が創られていることを強く示唆している。そして、その形態は、おそらくはクォーク-グルーオンプラズマと呼ばれる新しい物質の存在形態であろうと推察される。標準的な宇宙論によれば、クォーク-グルーオンプラズマはビッグバンと呼ぶ宇宙誕生の直後に短時間存在したと仮定されている。
この成果により、人類が全く知ることのなかったクォーク物質を探り、この宇宙を構成する物質構造の理解が、一歩前進したことになる。RHICにおける高エネルギー重イオン衝突研究の一里塚となる重要な成果であり、今後の研究の発展を強く示唆するものである。
現在の段階で、新しい物質形態の生成を宣言するのは早計であろう。今後、RHICにおいて、透過型の新たなプローブを使った検証実験の実施、および異なる種類の原子核ビームを異なる条件で衝突させる等、総合的な検討を行なうことが不可欠である。クォーク物質生成を確立したとき、それはこの研究の到達点ではなく、人類にとってこれまで全く手にすることのできなかった、未知のクォーク物質としての性質を調べることが重要である。超高温プラズマ物質中で、重さの殆ど無いクォークとグルーオンの自由な振る舞いを精査することから、私たちの世界でクォークが作る物質が如何にして質量を獲得するのか解明できると期待している。
高エネルギー加速器研究機構を中心機関として実施している日米科学技術協力事業(高エネルギー物理学分野)(付属資料5)では、RHICを用いた高エネルギー重イオン実験の一つであるPHENIX(付属資料3)に1994年から参加している。PHENIX実験は、RHICにおける四つの実験のうちの一つで、世界12カ国、53研究機関、400名あまりが参加する大型実験である。日米科学技術協力事業(高エネルギー物理学分野)の枠組みでの日本側参加機関は、筑波大学物理学系、東京大学大学院理学系研究科、広島大学大学院理学研究科を中心に、高エネルギー加速器研究機構、筑波技術短期大学、早稲田大学理工総合研究センター、長崎総合科学大学工学部である。
<問合せ先>
日米科学技術協力事業「RHICにおける重イオン衝突実験」日本側研究代表者
東京大学・大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター・助教授 浜垣秀樹
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TEL:048-464-4048 FAX:048-464-4554
E-MAIL:hamagaki@cns.s.u-tokyo.ac.jp
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