menubar Top Page KEKとは KEKツアー よくある質問 News@KEK キッズサイエンティスト 関連サイト
トップ >> プレスの方へ >> この記事
  プレス・リリース 〜 03-02 〜 For immediate release:2003年5月14日  
 
加速器科学で世界一を達成
〜KEKB加速器〜
2003年5月14日
高エネルギー加速器研究機構
ルミノシティで新記録
 
  つくば市にある高エネルギー加速器研究機構(KEK)で稼働中のKEKB加速器が前人未到の性能を達成した。KEKB加速器は、高エネルギーに加速したたくさんの電子と陽電子をそれぞれ1284個の小さなかたまり(バンチ)にして周長約3000mの2つのリングの中を反対方向に走らせる。そして、測定器の中心でこれらのバンチを正確に衝突させる。KEKB加速器は、このような衝突でB中間子とその反粒子(「反B中間子」と呼ばれる)を大量に作り出す機械である。
  KEKBのような衝突型加速器の性能は、ルミノシティという量で表される。ルミノシティとは「明るさ」を表す量で、KEKBの場合は毎秒どれだけの電子と陽電子が衝突するかという頻度を意味する。今回、KEKBが達成した値は、毎平方cm毎秒あたり10の34乗である。競合する米国スタンフォード線形加速器センターのPEP−II加速器はKEKBの60%を達成したに過ぎない。実は、今回達成したこの値はKEKBの設計値でもある。この設計値は、かつて国際的に有名な科学誌nature(Vol403.10 February 2000)でも取り上げられ、このような野心的な設計値を実現することの難しさが議論された。
 
ルミノシティを上げた条件
 
  ルミノシティを上げるには、まずバンチあたりの電子と陽電子の数を増やさなければならない。さらに衝突する際に双方のバンチの縦、横の大きさを出来るだけ小さくしなければならない。つまり出来る限り多くの電子と陽電子を狭い領域にぎゅうぎゅうづめにするわけである。今回の記録達成時にKEKBのビームが持っていた種々の数値を紹介しよう。
 
周長あたりのバンチ数は電子と陽電子は同じ数の1284個である。
電子と陽電子のバンチの大きさは、縦2.3ミクロン(髪の毛の約30分の1)、横110ミクロン(髪の毛の1.5本分)という小ささである。
そして、電子のバンチの中には電子が5×10の10乗個(500億個)、陽電子のバンチの中には7×10の10乗個(700億個)の陽電子が詰め込まれている。
バンチは光速で3000mのリングを走っているから、1つのバンチは10万分の1秒後に同じ位置に帰ってくる。このようにして、電子と陽電子の各バンチは毎秒10万回もぶつかり合っている。
この小さなバンチを正確にぶつけるわけであるが、電子と陽電子のバンチは、0.5ミクロン以下の精度でぶつかるように制御している。
さらに、バンチは平均5時間(電子)ないし2時間(陽電子)の間、安定してリングの中をぐるぐる回るように常に制御されている。
たくさんの電子や陽電子がビーム状に走れば、電線がなくてもそれらは電流となる。KEKBのリングの中では、電子が1.1アンペア、陽電子が1.5アンペアの電流となって流れているのである。これは世界最大級の蓄積電流である。
KEKB加速器は地下約10メートルに掘られた周長3キロメートルのトンネル内にあり、数千個の電磁石をはじめ多くのコンポーネントからなる巨大装置である半面、真空パイプ内を回る電子ビームと陽電子ビームの軌道が常時数ミクロン以内にコントロールされなければならない超精密機器でもある。たとえば大型台風が通過する際気圧の低下によって地表が極わずかに浮き上がり、それによって周長3キロメートルの軌道長は200ミクロン程度増える(1000万分の1以下)。このような小さな変動でも随時正確に測定して、その分だけ軌道が補正されるようになっている。まさに土木から超精密コンピューター制御まですべての工業と科学技術を駆使した装置といえる。今回の記録達成は我が国の加速器科学のレベルの高さを示すだけでなく、総合的な工業力の高さを反映しているともいえる。

ルミノシティを上げた新技術
 
  KEKB加速器の設計には数々の斬新で挑戦的なアイディアが生かされている。例えば加速空洞としては通常の10倍以上の電磁エネルギーを蓄積し、大電流の負荷に対してビクともしない「ARES空洞」、超伝導としては世界最高電流を蓄積した「超伝導空洞」、ビーム衝突点付近の構造を簡素化した「有限交差角」、最大限の柔軟性と最小限の非線形性を合わせ持つ「2.5パイセル構造ビーム光学系」、入射線形加速器の「2バンチ同時入射」等々である。これらはいずれもKEKB以外で実用化された例はない。
  加速器は単に設計が優秀なだけではその性能を発揮することはない。KEKBは衝突実験開始以来4年で「毎平方cm毎秒あたり10の34乗」のルミノシティに到達したが、その道のりは決して平坦ではなかった。KEKBのような前人未到の性能を目指す加速器には数々の予想外の事態が起こり、行く手を阻もうとする。KEKBの場合最大の困難は陽電子リングにおける「光電子雲不安定性」と呼ばれる新しい現象であった。この現象はそれ以前の世界の加速器では知られていない、KEKBが最初に直面(注1)した難敵であった。KEKB加速器チームは全長2300mによる「ソレノイドコイル」を追加することにより、この現象の発生を大幅に抑制しルミノシティの回復に成功した。また、大電流の蓄積は常に加速器コンポーネントの発熱、放電、破壊、真空漏れと背中合わせである。そのような事故は真空チェンバーの内部で発生し、一旦タネができると急速に成長するのできわめて予測がむずかしい。KEKBチームはそのような事故のたびに昼夜休日を問わず復旧と改良に努めて来た。目標達成までの4年間という時間は世界のコライダーの歴史をみても異例の早さといえる。
  KEKBで達成した技術は、現・次世代の様々な加速器に応用されつつある。例えばKEKBの競争相手であるPEP-II(前述)では、KEKBが実証した「ベータトロン振動数の半整数共鳴への接近」という手法を使ってルミノシティの改善を図りつつある。今後、KEKBの成果が生かされていくであろう加速器としてはニュートリノ実験を含むJ-PARC計画 / BEPC(北京)/ LHC(CERN)/ ERL(エネルギー回収型放射光源)/ Super-Bファクトリー / リニアコライダーなどがあげられる。
また、加速器以外の分野でも超伝導、超高真空、高電界、高周波、精密電源等の諸分野で工業的応用がおこなわれつつある。(別紙「技術的波及効果の例」参照)
 
世界最高のルミノシティが拓く未知の世界
 
  KEKB加速器の衝突点には、電子と陽電子の衝突反応で作られる素粒子反応を検出するBelleと呼ばれる測定装置が設置されている。装置から得られたデータの解析に取り組んでいる13の国と地域のおよそ300名からなる国際共同チームからはすでに58編の学術論文が発表されている。特に注目されているのが物質世界と反物質世界の間に存在する微妙な違いの解明につながる一連の結果である。2001年に発表された「B中間子系のCP対称性の破れの発見」はその代表例である。
  KEKB加速器の性能がさらに向上すると、素粒子研究上も今後新たな展開が期待される。量子力学が支配する素粒子の世界では、「不確定性原理」と呼ばれる原理によって、エネルギー保存則上起こり得ない仮想的な現象が瞬間的に起こることが許され、それが現実の現象として観察されるケースがある。現在、もっとも注目されているのがヒッグズ粒子や超対称性粒子など、存在が予言されながらいまだに見つかっていない重い粒子がこの方法で精密観察にかかってくる可能性である。B中間子とともに大量に発生するチャーム粒子や電子の3000倍以上重いが性質の似通ったタウレプトンにはいまだによく理解されていない部分がある。これらの精密観測も大切である。特に、標準理論では禁止されているタウレプトンがミューオンとガンマ線に崩壊する現象が存在するかどうかを調べることは重要である。KEKBのさらなる性能アップによってこのまれな反応が検出できるかどうかに期待が集まっている。また、多くの素粒子研究者が「究極の理論」と考えている「ひもの理論」の証拠につながるような全く予想されなかったような現象の発見にも期待がかかる。
 
 
※注1: 多バンチにおける「光電子雲不安定性」は、KEKのフォトンファクトリーですでに発見されていたが、ここでいう不安定性は、単バンチでのビームの安定性に関するもの
(2003.7.24 追記)

 
 
(図1)
図1
(図2)
図2
(図3)
図3
(図4)
図4
(図5)
図5
(図6)
図6
(図7)
図7
(図8)
図8
(図9)
図9
(図10)
図10
 
 
図10枚をまとめたPDF(1.8MB)
 
image
proffice@kek.jp
image