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last update:04/09/03  
  プレス・リリース 〜 04-07 〜 For immediate release:2004年8月20日
 
 
Belle実験の最新の結果について
− 着々と進む「CP対称性の破れ」の解明 −

 
高エネルギー加速器研究機構 
 
 
高エネルギー加速器研究機構(KEK)のKEKB加速器を用いて実験を行っている国際共同研究グループBelle(ベル)が、「CP対称性の破れ」に関する最近の研究結果を今月の16日から北京で開催されている「第32回高エネルギー物理学国際会議」で20日(日本時間)発表した。
 
KEKB加速器は電子と陽電子を光速近くまで加速し、正面衝突させることにより、B中間子とその反粒子(反B中間子と呼ばれる)を大量につくり出す装置だ。B中間子はボトムクォーク(bクォーク)を含む中間子で、ヘリウム原子と同程度の重さを持つが、寿命が1兆分の1秒程度と非常に短く、生成と殆んど同時に他の安定した粒子の組合せに崩壊してしまう。この崩壊過程が素粒子物理学の研究で重要な役割を果たす。Belle測定器はB中間子の崩壊過程を精密に観測する装置だ。特に注目されているのがB中間子と反B中間子(物質と反物質)の間に存在する微妙な違い(CP対称性の破れ)を解明することだ。
 
KEKB加速器の性能は1999年の運転開始以来、毎年着実に性能をあげている。特にこの一年間の向上はめざましく、これまで生成された2億7400万個のB中間子・反B中間子対のうち1億2200万個がこの一年で生成されたものだ。「Bファクトリー」とも呼ばれるKEKB加速器だが、チャームクォークを含む粒子やタウと呼ばれる粒子の研究でも威力を発揮しつつある。
 
CP対称性の破れが実際にB中間子の崩壊で起きていることはBelleグループと、米国のスタンフォード線形加速器センターにあるPEP-II加速器を用いて実験中のBaBarグループが2001年に同時に発見した。両グループはB中間子がJ/Ψ(ジェイ/プサイ)中間子、K(ケイゼロ)中間子とそれぞれ呼ばれるふたつの粒子に崩壊する場合と反B中間子が同じ崩壊をする場合に違いがあることを見つけた。この崩壊のCP対称性の破れの大きさは、sin2φと呼ばれる量で表される。(CP対称性の破れがおきていない場合はこの量はゼロになるはず。CP対称性の破れがおきている場合は最大で+1あるいは−1の値を取りうる)
 
この3年間繰り返し測定された結果、sin2φは0.049の精度で0.736と決められ(0.736±0.049と表される)、もはや素粒子物理学の標準理論の基本パラメターのひとつとして確立されている。CP対称性の起源を標準理論の中でエレガントに説明する小林益川理論の正しさを裏付けるが、この理論を完全に検証するには「直接的CP対称性の破れ」と呼ばれる現象も存在することを確立しなければならない。
 
1 新たな直接的CP対称性の破れの発見
 
今年1月、BelleグループはB中間子がふたつのパイ中間子(ππ)に崩壊する過程で直接的CP対称性の破れが起きていることを突き止めた。1億5200万のB中間子・反B中間子対の中から、B中間子がふたつのパイ中間子に崩壊するケースを219個、反B中間子が同じ崩壊をするケースを264個観測したもので、もし直接的CP対称性の破れがない場合は同じになるはずだ。この数の差から99.8%以上の確率で直接的CPが破れていることを証明したものだ。
 
今回、Belleグループは、この夏までに収集した全データ2億7400万個のB中間子・反B中間子対から、B中間子がK(ケイ)中間子とパイ中間子に崩壊する反応においても、直接的CP対称性の破れが起きていることを確認した。(K中間子はK中間子と同じ仲間だが、K中間子が電気的に中性なのに対して電荷を持つ)1166個のB中間子がK中間子とパイ中間子に崩壊していたのに対し、同じ崩壊をする反B中間子は974個しかないことを観測し、99.99%以上の確率で直接的CPが破れていることを示した。これは今年1月のふたつのパイ中間子への崩壊する過程での直接的CP対称性の破れに続く発見である。今回、直接的CP対称性の破れが起きている崩壊様式を新たに発見したことによって、小林・益川理論の予言の新たな証拠を確認し、この理論の正しさを一層堅固なものにしたと言える。
 
sin2φに起因するCP対称性の破れはB中間子と反B中間子それぞれの崩壊の時間分布だけに現れる。したがって、崩壊の数だけを比べるだけだとCP対称性の破れはないように見える。これに対して直接的CP対称性の破れは崩壊の数そのものに違いが現れる現象だ。間接的、直接的という呼び方はこのためだ。
 
2 新しい物理の探索
 
もし標準理論が正しければ、J/ΨとKへの崩壊以外のいくつかのケースでもsin2φで決まるCP対称性の破れが起きているはずだ。このうち特に注目されているのがφ(ファイ)と呼ばれる中間子とK中間子に崩壊するケースだ。この崩壊は「量子的ゆらぎ」と呼ばれる現象によって起きることはすでに知られている。B中間子を構成するbクォークが一瞬だけトップクォーク(bクォークの35倍の重さを持つ)とWボゾンと呼ばれる粒子(bクォークの16倍の重さを持つ)に分かれる、きわめて量子力学的な現象だ。このようなプロセスはトップクォークとWボゾンがループを作るのでループダイヤグラムと呼ばれる。標準理論を構成するトップクォークやWボゾンだけが寄与した場合は理論の予想と実験結果が一致するはずだが、もし未知の重い粒子が存在し、その粒子も同様のループを構成する場合、sin2φの値がJ/ΨとKへの崩壊で測定された値から微妙にずれている可能性がある。
 
Belleグループは2003年、1億5200万個のB中間子・反B中間子対から得られた68個の事象の解析からφとK中間子への崩壊でのsin2φが標準理論の値0.736±0.049から大きくずれた値をとるという結果を得、標準理論では説明出来ない新現象を示唆している可能性を示した。
 
これを解明するためにはさらに多くのデータが必要であり、現在その蓄積の途中であるが、今回、Belleグループは、2億7400万個のB中間子・反B中間子対から、175個のφとK中間子への崩壊を観測し、さらにφK崩壊と同じ振る舞いをすると考えられている他の5つの崩壊についても測定に成功して、測定精度を向上した。その結果、標準理論からずれている確率は、全てのモードを足すと99%になることが明らかになった。このずれは、新しい物理の存在を示唆する、現在最も興味深い結果の一つであり、その解明がBファクトリーの中心課題であることが一層はっきりした。さらなるデータ量の増加を目指して加速器の改良に取り組んでいる。
 
3 新粒子の発見
 
昨年、Belleグループが発見した新粒子X(3872)は、国外の他の実験グループによる追試によっても確認され、存在が確定した。この粒子に関してこれまでにわかっている性質を現在の理論で説明するのが極めて難しいため、新しいデータを使った解析が進んでいる。X(3872)の発見は、Bファクトリーの新粒子探索マシーンとしての役割をきわだたせたものであるが、今年も、昨年のほぼ倍のデータを解析した結果、新粒子の候補X(3940)が見つかった。データの中でJ/Ψ粒子を含む反応を精査した結果、148個のeJ/ΨX(3940)という反応が見つかったものである。このX(3940)がどのような性質を持っているかについては、未だはっきりせず今後の解析を待つ必要がある。
 
 
 【資   料】発表資料(PDF 560KB)
【関連サイト】Belleグループwebページ
【本件問合わせ先】 高エネルギー加速器研究機構
  素粒子原子核研究所 教授
   山 内 正 則(Belle実験共同代表)
    TEL:029-864-5352
  東京大学大学院理学系研究科 教授
   相 原 博 昭(Belle実験共同代表)
    TEL:03-5841-4125
 

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