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last update:04/06/30  
  プレス・リリース 〜 04-04 〜 For immediate release:2004年6月30日
 
 
放射光を利用した新しい整形外科的画像診断法の開発
− X線暗視野法の開発と放射光を用いた各種関節軟骨の可視化に成功 −

 
高エネルギー加速器研究機構 
岡山大学
 
(概 要)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)と岡山大学整形外科とは共同研究により、世界で初めて開発された「X線暗視野法」を用いて、KEK-PFおよびSPring-8施設の放射光により、世界で初めて臨床に近い条件で、各種関節軟骨の撮影に成功した。この成果により、関節軟骨の詳しい診断法の道が拓かれた。
 
(目 的)
関節軟骨損傷の程度を知ることは、変形性関節症だけでなく様々な関節疾患における治療法の決定に重要である。しかし、軟骨の状態を正確に評価することは、現在の診断法では限界がある。軟骨を評価できる画像診断法として関節造影が歴史的に用いられてきたが、侵襲的であり診断にも限りがある。現在最も優れた軟骨描出能をもった画像診断は、MRIであろう。しかし、一般的に用いられているMRIではある程度の軟骨評価しかできないのが現状である。診断にはある程度有用であるが、完全に診断することは不可能である。研究グループは、放射光を用いて「X線暗視野法」による軟骨の評価を試みている。
 
(経 緯)
つくば市にあるKEK放射光科学研究施設フォトンファクトリー(Photon Factory、略称PF)および兵庫県播磨科学公園都市にある大型放射光施設SPring-8を用いて、屈折原理を用いる世界初「X線暗視野法」を開発してきた。PFでは30mm×40mmの視野を用いて指関節を、SPring-8では80mm×80mm大きさの視野を用いて股関節および肩関節を撮影した。
 
(X線光学)
「X線暗視野法」とは、物体を通過するX線のうち、特定厚さのシリコン製角度分析板を用いることにより、屈折するX線のみを分離することができるので、これを用いて画像化する方法である。「X線暗視野法」に用いるX線光学系はKEKの安藤正海教授によって考案された(資料1:X線光学原理図)。
 
臨床に近い撮影はPF30mビームラインBL14CおよびSPring-8 200mビームラインBL20B2を用いて行われた。ビームをモノクロ・コリメーターにすれすれ入射させ、30mm×40mmおよび80mm×80mmの視野をもつ平行性の高い単色ビームが取り出されるので、これを試料に照射し、その後ろに置いた角度分析板を抜け出る直進のX線を用いて撮影する(資料2:SPring-8 BL20B2の風景)。
 
(試料と撮影)
被写体として、
(1) 手術時に採取した大腿骨頭壊死症の大腿骨頭を用いた。生体内と同じ条件とする目的で、大腿骨頭を水で満たしたビニールバッグ内に入れて撮影した。
(2) 次に、皮膚や筋肉などの軟部組織が付着したより生体に近い状態で撮影するため、御遺体より摘出した肩関節を撮影した。
撮影時間は原子核乾板Ilford社製114mm角、乳剤厚さ50ミクロンL4を用いて20分である。
 
(撮影結果)
今回開発された「X線暗視野法」では、水内でも軟骨がきれいに描出された(資料3(a):大腿骨頭壊死症患者から摘出した大腿骨頭のX線暗視野像)。日常用いるX線像(吸収コントラスト法)では、空気とのコントラスト(切除骨頭をそのまま撮影する)では軟骨がある程度描出されるが、軟骨とほぼ同じX線吸収率をもつ水内での撮影では、軟骨は描出不可能であった(資料3(b):大腿骨頭壊死症患者から摘出した大腿骨頭のレントゲン写真)。 また、軟部組織が付着した肩関節でも、撮影法を工夫することにより上腕骨頭の軟骨の一部を描出することができた(資料4:御遺体より摘出した肩関節のX線暗視野像)。
 
(見通し)
開発された「X線暗視野法」という新しい撮影手法によって、従来のX線像では描出不可能であった関節軟骨の描出が可能となった。今回用いた放射光は、被爆量は通常用いられているX線と同等あるいはそれ以下である。また、「X線暗視野法」はいわゆるレントゲン撮影と同じであるため、MRIと比べ、将来的に簡便に行える検査法となり得る。「X線暗視野法」を用いて、さらに臨床応用を視野に入れた実験を行う予定である。研究グループとしては、この研究の成功により、世界に先駆けた関節軟骨に関する臨床応用も視野に入ってきたと考えている。
 
 
 [共同研究者]
高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・放射光科学研究施設
総合研究大学院大学・高エネルギー加速器科学研究科・物質構造科学専攻
  安 藤 正 海 教授(専門:X線光学)
  兵 藤 一 行 助手(専門:物理医学)
高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・放射光科学研究施設
総合研究大学院大学・先導科学研究科・光科学専攻
  杉 山   弘 助手(専門:X線光学)
総合研究大学院大学・高エネルギー加速器科学研究科・物質構造科学専攻
  島 雄 大 介 大学院博士課程後期2年生 (専門:放射線診断学)
岡山大学学部附属病院・整形外科
  国 定 俊 之 助手(専門:整形外科学) MD
岡山大学大学院医歯学総合研究科 機能再生・再建科学専攻
  橋 詰 博 行 助教授(専門:整形外科学) MD
  武 田   健 大学院博士課程3年生(専門:整形外科学) MD
岡山大学理事
  井 上   一 副学長(専門:整形外科学) MD
 
 
 (本件問い合わせ先)
〇高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
  教   授  安 藤 正 海
    TEL:029-864-5703
    電子メール:masami.ando@kek.jp
〇岡山大学医学部・歯学部附属病院 整形外科
  助   手  国 定 俊 之
    TEL:086-235-7273
    電子メール:toshi-kunisada@umin.ac.jp
〇岡山大学
  副学長兼理事 井 上   一
    TEL :086-235-7270
    電子メール:hinoue@md.okayama-uac.jp
 
 

 

 
 
 
[資料1][資料2]
X線光学原理図SPring-8 BL20B2の風景

 
 
[資料3a]
大腿骨頭壊死症患者から摘出した大腿骨頭のX線暗視野像
 
[資料3b][資料4]
従来のX線(レントゲン)による大腿骨頭の写真御遺体より摘出した肩関節のX線暗視野像
 

copyright(c) 2004, HIGH ENERGY ACCELERATOR RESEARCH ORGANIZATION, KEK
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