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last update:05/10/17  
  プレス・リリース 〜 05-09 〜 For immediate release:2005年10月17日
 
 
乳ガン早期診断をめざす2次元、3次元X線屈折画像化技術の開発
 
高エネルギー加速器研究機構 
神戸大学 
国立がんセンター 
 
 
高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、神戸大学、国立がんセンターと共同で、KEKのフォトンファクトリー(PF)と高輝度光科学研究センターのSPring-8の放射光を用いて乳ガンを2次元および3次元描画する技術開発に成功した。
 
KEK物質構造科学研究所の安藤正海教授を代表とする研究グループは、安藤教授らが開発したX線暗視野法を乳頭腺管ガン試料に応用し、90mm×90mm視野、空間解像度20μmで乳ガン巣を描画することに成功した(写真1)。これに対応するX線吸収画像(レントゲン写真ともいう。ガンによるX線の影絵)を写真2に示す。X線エネルギーはいずれも35keVである。
 
X線吸収画像は、大きな乳ガンを除けば描画が難しい。これを補う手法としてMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)、超音波などがあるが、解像度があまり高くないために早期診断には使えない。
 
これらの問題を解決する手段としてX線屈折画像(X線が組織境界で角度100分の数秒の屈折を受ける。これを用いて画像化したもの)が考えられ、世界的に盛んに開発が行われている。病院のレントゲン写真の中にX線屈折画像は含まれているが撮影に用いられるX線の発散が大きすぎて、X線屈折画像を取り出すことができない。
 
これに対して平行度の高いX線を対象物に照射することによって、わずかに屈折したX線をとらえやすくなる。放射光は指向性が高いので有用である。放射光を用いたX線屈折画像を得る次の2つが世界的に開発中である。(1) 単色化した放射光X線を対象物に照射する。対象物のうしろにはX線光学系は置かず、対象物から数m〜十m離した位置で観察するとX線屈折画像が強調されることを利用する。(2) 2結晶平行配置にする。結晶材料はシリコンである。この2つの結晶の間に対象物を置く。(2-1) 対象物からのX線を2つ目の結晶(角度分析板)で反射させるとX線明視野像が得られる。この手法はDEI(diffraction enhanced imaging:回折強調法)と呼ばれる。(2-2) 透過させるとX線暗視野像が得られる。得られた「X線明視野像」から数学手続きにより屈折画像を抽出することができる。「X線暗視野像」は角度分析板の厚みを2.124mmとすることにより数学処理なしに屈折画像が直接に得られることを特色とし、この手法を開発した安藤教授によってX線暗視野法(X-ray dark-field imaging)と名づけられた。
 
昨年、安藤教授らの研究グループはX線暗視野法を用いて従来のX線像では描出不可能であった関節軟骨を描出した。(2004年6月30日プレス発表)。X線暗視野法は広い視野が得られることが特徴である。X線エネルギーが高いので、軟組織に対して透過率が高く、マンモグラフィに応用すれば乳房に痛さを感じないで診断できる可能性がある。
 
また、研究グループはX線暗視野法が臨床診断のみならず、病理診断にも使える可能性を探るために透過型角度分析板の厚みを125μmとしたところ、視野角10mm×10mm、空間解像度10μmを得て、乳ガン細胞と間質(写真3)を見ることができた。写真4はこれに相当する染色図である。染色図は患部組織の病名を同定するための病理方法である。処理に長時間かかるとされる。
 
また、研究グループは三次元画像化システムの開発研究も進めており、X線屈折画像をCT化するための新たなアルゴリズムを開発した。データ収集用のX線光学系には回折強調法を用いた。これは反射型角度分析板であることを特色とする。乳管ガンに適用し、乳管中の石灰、石灰化した乳管壁の様子が初めて3次元的に捉えられた。写真5は900枚のデータの1枚、写真6はこれらを新たに開発したアルゴリズムにより合成されたものである。
 
今回の研究では、KEKの安藤研究室はX線画像の技術開発を担当、神戸大学の山崎客員教授のグループは2004年暮れから医学知識、試料および染色組織を提供、さらに画像評価を担当、国立がんセンター江角センター長を中心とする国立がんセンターのグループは2005年5月からは細胞知識と試料を提供し、画像評価を担当した。
 
上の成果と今後の見通しをまとめるとつぎのようである。
 
 
  表1 2次元および3次元X線屈折画像の開発
    (1) (2) 数学手法
2次元:2D X線光学系 臨床診断用
X線暗視野法
病理診断用
X線暗視野法
不  要
視野の大きさ 90 mm×90 mm 10 mm×10 mm
X線エネルギー
X線波長
35 keV
0.035 nm
17.5keV
0.071 nm
角度分析板
タイプ
透過
2.124mm
透過
125μm
空間解像度 20μm 10μm
見えたもの 乳ガン巣、 乳ガン細胞、間質
        ※ 被曝線量は病院のX線と同程度である。
 
      (3) 数学手法
3次元:3D X線光学系 臨床診断用
未開発
病理診断用
DEI(回折強調法)
屈折アルゴリズム
視野の大きさ   7mm (直径)× 7mm (長さ)
X線エネルギー
X線波長
  11.7keV
0.106nm
角度分析板タイプ   反射
空間解像度   20μm
見えたもの   石灰、乳管壁
 
 
<開発した3種類のX線画像>
(1) :臨床診断用 2D暗視野像
装置
新しい点(観察)
 
:原理は2004年6月30日に発表
:乳頭腺管ガンのX線暗視野像
(2) :病理診断用 2D暗視野像
新しい点(装置)
新しい点(観察)
 
:高空間解像度を開発
:乳ガン細胞と間質のX線画像
(3) :病理診断用 3D像作成
屈折原理の3次元像
新しい点(数学)
新しい点(観察)
 
 
:X線屈折画像CT用アルゴリズムの開発
:乳管ガン3次元像
 
(1) : 透過型角度分析板厚さ :
空間解像度 :
視野 :
X線エネルギー :
X線波長 :
回折面 :
2.124 mm
20μm
90 mm×90 mm
35keV
0.035nmまたは0.35オングストローム
(440)原子面
(2) : 透過型角度分析板厚さ :
空間解像度 :
視野 :
X線エネルギー :
X線波長 :
回折面 :
0.125 mm
10μm
10 mm×10 mm
17.5keV
0.071nmまたは0.71オングストローム
(220)原子面
(3) : 反射型角度分析板厚さ :
空間解像度 :
視野 :
X線エネルギー :
X線波長 :
回折面 :
----
20μm
7 mm×7 mm
11.7keV
0.106nmまたは1.06オングストローム
(220)原子面
 
<技 術>
(1)、(2) : X線暗視野法における屈折X線は、角度分析板においてブラッグ回折条件を満たさないので透過する。すなわち直進する。被写体を通過するときに方向の変わらなかったX線はブラッグ回折条件を満足し、回折される。すなわち角度分析板を通過したあとに、この2つは空間的に分離される。透過方向にX線暗視野像を得る。
(3) : 屈折原理によるX線3次元画像化のためのアルゴリズムは吸収用アルゴリズムと異なる。今回、山形大湯浅哲也助教授の協力を得てKEKにおいて屈折コントラスト用アルゴリズムを開発した。乳ガン試料を0.2度刻みで180度連続回転し、X線に感度があるCCDカメラによって撮影された900枚のX線画像を用いて3次元像に復元した。
 
<成 果>
(1) : 乳頭腺管ガン中乳ガン巣が描画できた。
(2) : 乳ガン細胞と間質を10μm空間解像度でコントラスト高く描画できた。
(3) : 乳管ガン試料中の乳管中の石灰化、乳管壁の石灰化などがよく見える。
 
<今後の見通し>
(1) : X線エネルギーが高いので臨床に向いていると考えられ、今秋、ブロック状の試料を用いて臨床一歩手前の試験を行なう。描画が確かめられれば臨床試行に進むことができると思われる。
(2) : 種々の試料を用いて病理診断の能力を調べる。
(3) : 種々の試料を用いて病理診断の能力を調べる。
 
 
なお、本研究内容は、日本バイオイメージング学会発行の「Bioimages」誌に掲載される予定である。
 
 
  【関連サイト】 KEKのフォトンファクトリー(PF)のwebページ
【本件問合わせ先】 高エネルギー加速器研究機構
  物質構造科学研究所
   教授  安 藤 正 海
    TEL:029-864-5703
    E-mail:masami.ando@kek.jp
  神戸大学 大学院医学系研究科(放射光医学)
   客員教授  山 崎 克 人
    TEL:090-8885-7901
    E-mail:yamrad@hotmail.com
  国立がんセンター 東病院
 臨床開発センター長  江 角 浩 安
    TEL:04-7133-1111
  高エネルギー加速器研究機構 広報室
   主管  森 田 洋 平
    TEL:029-879-6047
 
 
fig1   fig2
写真1 2次元X線暗視野像
撮影方式: X線暗視野法:XDFI(X-ray dark-field imaging)
試   料: 乳頭腺管ガン
角度分析板: 厚さ2.124mm
空間解像度: 20μm
見えるもの: 乳ガン巣
写真2 レントゲン写真(X線吸収画像)
試  料: 写真1に同じもの(乳頭腺管ガン)
わずかなコントラストがついている
fig3 fig4
写真3 2次元X線暗視野像
試   料: 乳頭腺管ガン(写真1の白枠部分の画像)
角度分析板: 厚さ0.125mm
空間解像度: 10μm
見えるもの: 乳ガン細胞、間質
写真4 染色図
(組織を染色し、病名を決定するのに用いられる)
試   料: 乳頭腺管ガン(写真1の白枠部分の画像)
見えるもの: 乳ガン細胞、間質
fig5 fig6
写真5 2次元X線屈折像
(X線明視野像を加工。CT用画像データ)
試  料: 乳管ガン
大 き さ: 直径3.5mm、高さ4.5mm
撮影方式: 回折強調法:DEI (diffraction enhanced imaging)
写真6 3次元CT図
 
見えるもの:乳管中の石灰、乳管壁

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