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last update:05/07/07  
  プレス・リリース 〜 05-05 〜 For immediate release:2005年7月7日
 
 
電子軌道の強的秩序状態を発見
 
高エネルギー加速器研究機構 
(財)高輝度光科学研究センター 
京都大学 
 
 
高温超伝導銅酸化物や巨大磁気抵抗マンガン酸化物で代表される、遷移金属や希土類元素を主体とする酸化物エレクトロニクス材料は、今後のエレクトロニクスの発展のブレイクスルーを生み出す舞台を兼ね備えています。久保田正人(高エネルギー加速器研究機構)、村上洋一(東北大学、日本原子力研究所)、水牧仁一朗、大隅寛幸、池田直(高輝度光科学研究センター)、中辻知、深澤英人(京都大学理学研究科)、前野悦輝(京都大学国際融合創造センター)らは、「共鳴X線散乱干渉法*」という新たな測定手法を開拓することにより、ルテニウム元素のK-吸収端近傍(E=22.1keV)の入射エネルギーを持つSPring-8の高輝度X線を用いた、4d 遷移金属酸化物(京都大学で開発・育成された金属・絶縁体転移系ルテニウム酸化物の単結晶)での4d 電子の強的軌道秩序状態*(結晶全体に渡り電子雲が一つの対称性を持つ状態)の直接的観測に世界で初めて成功しました。この手法により、電子の軌道(電子雲の対称性)が無秩序、あるいは、強的秩序状態にあるのかを区別することが出来るようになり、軌道状態が金属・絶縁体という物質の伝導性のみならず、磁性とも密接に関係していることが明らかになりました。このように電子軌道の秩序状態の詳細な情報を得ることによって、従来の電荷による半導体エレクトロニクスや、スピン(電子の磁性)によるスピントロニクスに加え、軌道の自由度を制御することで例えば光と結合する性質を持つような第3の新たな電子デバイスの開発の方向性が示された事になり、これまでにない新しい概念の電子デバイス材料の創生に結びつくと期待されます。
 
本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金、文部科学省21世紀COE“物理学の多様性と普遍性の探求拠点”の支援を受け実施されました。本研究成果は、American Physical SocietyのPhysical Review Letters7月8日号に掲載される予定です。
(論文)
“Ferro-type Orbital State in the Mott Transition System Ca2-xSrxRuO4 Studied by the Resonant X-ray Scattering Interference Technique”
Masato Kubota, Youichi Murakami, Masaichiro Mizumaki, Hiroyuki Ohsumi, Naoshi Ikeda, Satoru Nakatsuji, Hideto Fukazawa, and Yoshiteru Maeno
現代社会を支えている電子機器は、物質を形成する電子集団の様々な特性を理解し,制御することで実用化されています。このような多数の電子の挙動は量子力学によって理解されます。量子力学によると固体中の原子の電子状態を決定する自由度には、電荷、スピン(電子の磁性)、軌道(電荷分布の対称性)と呼ばれるものがあります。近年、遷移金属酸化物において、電荷分布が結晶の中で規則的に並ぶ、「軌道秩序」と呼ばれる新しい電子の存在形態が明らかになりつつあります。この研究では日本の放射光研究者が主導し、「放射光共鳴X線散乱*」という手法を用い、物質の中で”軌道”の秩序が直接観測され、”軌道”の実体が理解されるようになりました。しかしながらこの手法では、電子軌道が結晶中で市松模様のように並んだ「反強的軌道秩序状態*」しか観測することができませんでした。
 
今回、久保田正人(高エネルギー加速器研究機構)、村上洋一(東北大学、日本原子力研究所)、水牧仁一朗、大隅寛幸、池田直(高輝度光科学研究センター)、中辻知、深澤英人(京都大学理学研究科)、前野悦輝(京都大学国際融合創造センター)らで構成される研究グループが、「共鳴X線散乱干渉法*」という新たな測定手法を開拓することにより、4d 遷移金属酸化物(京都大学で開発・育成された金属・絶縁体転移系ルテニウム酸化物Ca2-xSrxRuO4 の単結晶)において、各ルテニウムの4d 電子の電子雲が、結晶全体に渡り自発的に同じ対称性を持つ状態(強的軌道秩序状態)を世界に先駆けて見いだしました。(図1:Ca2-xSrxRuO4 の結晶構造、図2:ルテニウムの4d 電子が組んでいる強的軌道秩序状態の概念図、通常は上図のように軌道は無秩序状態をとっています。)
 
電子の同じ規則がそのまま並ぶ「強的秩序」状態では、一つの電子が持つ性質が結晶全体に現れます。このように量子状態が結晶全体に現れる例には、電子のスピンによる「強磁性」や電気分極が並ぶ「強誘電性」があり、どちらも高密度記憶材料の実現に大切な役割を持っています。
 
最近では、新たな電子デバイス材料開発において多くの研究者が物質中の電子の電荷やスピンだけでなく(電子同士の相互作用を支配している)電子の軌道をも制御することに挑戦しています。今回、観測に成功した強的軌道秩序状態は、すべての原子サイトの軌道状態がそろっているので、電子の動きを制御する上で有利な電子状態です。共鳴X線散乱干渉法により、強的軌道秩序状態の物性を理解することは、軌道の自由度をうまく利用した酸化物エレクトロニクス新機能性材料の開発・物質設計において今後ますます重要になってくるでしょう。

 
 
 【関連サイト】 Spring-8
京都大学
京都大学国際融合創造センター
 
 【本件問合わせ先】
(研究関連事項)
      大学共同利用機関法人
      高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
      助手 久保田 正人
      E-mail: masato.kubota@kek.jp
      Tel: 029-864-5661
      Tel: 029-864-5200 ext. 4419
      Fax: 029-864-2801

      (財) 高輝度光科学研究センター
      副主幹研究員 水牧 仁一朗
      E-mail: mizumaki@spring8.or.jp
      Tel: 0791-58-0832 / Fax:0791-58-0830
(高エネルギー加速器研究機構に関する事項)
      大学共同利用機関法人
      高エネルギー加速器研究機構
      広報室  森 田 洋 平
      E-mail:proffice@kek.jp
      Tel:029-879-6047 / Fax:029-879-6049

(SPring-8に関する事項)
      (財)高輝度光科学研究センター
      広報室  原 雅弘
      E-mail: hara@spring8.or.jp
      Tel:0791-58-2785 / Fax:0791-58-2786
 

Ferrotype4d_1   Ferrotype4d_2
図1:Ca2-xSrxRuO4 の結晶構造。 図2:ルテニウムの4d 電子が組んでいる強的軌道秩序状態の概念図、通常は上図のように軌道は無秩序状態をとっています。
 

 
【用語解説】
 
  強的軌道秩序:
 結晶の中で各原子位置での電子分布が同じ形状をとり、結晶全体に規則的に並んだ状態。初めに強磁性という言葉が使われた。強磁性は結晶の中で電子スピンが同じ向きを持って並ぶ現象であり、それ以来電子の同じ秩序状態が結晶全体に並ぶ現象を強的秩序という言い方で表す場合が多い。結晶のなかの電気分極が同じ方位を持って並ぶ現象は強誘電性と呼ばれている。
 
  反強的軌道秩序:
 結晶の中の電子の秩序が、交互に反対向きになりながら、結晶全体に配列する状態を反強的秩序と呼ぶ。磁性体ではスピンが交互に反対向きに並んだ状態を,反強磁性と呼ぶ。模式的に言えば白黒の市松模様の様な配列も反強的秩序の例となる。
 
  電子の軌道秩序:
 各原子に局在した電子の異方的な分布が、結晶全体に規則を持って配列する状態。電子の異方的な分布はそのまま電子軌道の形(対称性)を意味している。
 
  放射光共鳴X線散乱:
 放射光X線による回折実験の手法の一つ。原子が持つ固有の共鳴状態に一致するエネルギーを持つX線を入射し、原子を励起状態に保ちながら結晶方位に対する回折信号の強度分布を調べ、励起状態にある原子の対称性と電子軌道に関する情報を得ることができる。
 
  共鳴X線散乱干渉法:
 この研究により開拓された方法で、軌道秩序のシグナルを結晶構造のシグナルと干渉させ強度を増強させることにより、結晶構造の信号と分離して、本来微弱な軌道秩序のシグナルを捉える観測手法。
 
 

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