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last update:05/04/18  
 プレス・リリース 〜 05-03 〜 For immediate release:2005年4月18日
 
 
RHICにおける「完全な」液体の発見
− 予想以上に特徴的だった新しい物質状態 −

 
 
巨大な「原子破砕機」である RHIC (相対論的重イオン衝突型加速器、米国ブルックヘブン国立研究所)では4つの実験グループが研究を推進している。日本からは大型国際共同実験PHENIXに、文部科学省日米科学技術協力事業(高エネルギー物理学分野)の一環として筑波大学、東京大学、広島大学を中心に高エネルギー加速器研究機構、筑波技術短期大学、早稲田大学、長崎総合科学大学を含めた7機関が、また、理化学研究所とブルックヘブン国立研究所の共同研究の一環として、東京工業大学、京都大学を含めた3機関が参加している。

ブルックヘブン国立研究所は、2005年4月18日午前9時(米国東部時間)フロリダ州タンパで開催中のアメリカ物理学会において、RHICを用いた実験成果に関して

「RHICにおける「完全な」液体の発見−予想以上に特徴的だった新しい物質状態」

と題する報道発表を行った。

今回の実験成果は、原子核を構成する基本粒子であるクォークとグルーオンから作り出された高温高密度の新たな物質状態が、従来の予想を大きく越えて特徴的なものであったことを示している。RHICにおける最初の3年間の発見をまとめた論文によれば、RHICの重イオン衝突により作られた物質は、クォークとグルーオンの自由な気体のように振舞うという予想に反して、むしろ「液体」のように見える。

RHICにおける4実験(BRAHMS, PHENIX, PHOBOS, STAR)が各々1年近くを掛けて取り組んでいるこの論文は、学術誌 Nuclear Physics A に同時掲載される予定である。RHICにおける観測結果のいくつかは、ビッグバンの百万分の数秒後に存在したとされる物質状態クォーク・グルーオン・プラズマ(以下QGP)に関する理論的予想に合致しており、実際、多くの理論家は、既にRHICでQGPの生成が示されたと結論している。

しかし4つの実験グループは、実験データとQGP生成の簡単な模型に基づく初期の理論予想との間には食い違いがあると指摘している。
ブルックヘブン国立研究所のサム・アロンソン高エネルギー・原子核物理学担当副所長は、RHICの科学者たちはQGPの生成に必要と予想される太陽の中心の15万倍にも及ぶ温度とエネルギー密度(単位体積あたりのエネルギー)に到達した、と信じている。

一方で、2000年6月のRHIC運転開始から2003年までの物理実験データ解析によって、RHICにおける金原子核同士の正面衝突により作られる物質は気体よりもむしろ液体のようであることが明らかになった。

その証拠とされるのは、1回1回の衝突で作られる数千個もの粒子の飛跡に予想されなかったパターンが観測されたことである。これは、原子核衝突反応が起こる体積中の圧力が一様でないために、衝突により作られた粒子が集団として運動することを示唆している。この現象は、流体運動の性質に準えて、「流れ」と名付けられた。

しかし、各分子が乱雑に運動する通常の液体とは異なり、RHICで作られた高温物質は粒子同士が高度に統率されて動くように見える- 環境の変化に対して一体として反応する魚の群れのように。これは流体力学の方程式で説明される、ほぼ「完全な」流体運動である。

流体力学の方程式は、非常に低粘度で粒子間の相互作用により急速に熱平衡状態に達し得る理論的に「完全な」流体を記述するために編み出された。RHICでは粘度は直接には測定できないが、「流れ」の様子から推定される粘度は非常に低く量子力学で許される極限に近いようである。これらの事実を総合すると、RHICで生成されている物質は、高度に集団的な相互作用、急速な熱平衡化、非常な低粘度を示す、これまでに観測された最も完全に近い液体と考えられる。

以前に報告されたRHICにおける他の観測により、高エネルギーのクォークやグルーオンから作られる「ジェット」が衝突により作られた高温の火の玉を横切る間に大きく減速されることが示されている。この「ジェット抑制」は、この新しい物質状態のエネルギー密度が通常の原子核物質から成る媒質では説明できないほど高いことを示している。

多くの科学者は、今回発見された新しい物質状態は、これまで理論的に考えられてきたものとは異なっているが、QGPの一つの形態であると考えており、この点を明らかにするための詳細な測定がRHICで進められている。この予測されなかった発見は、これまで実験室で実現不可能であった極限温度や密度における物質の性質に関する新たな科学的発見の機会を大きく広げるものでもある。

RHICの4実験は、さらに大量の新しいデータの収集と解析を進めている。より興味深く重要な発見が遠からず続くと期待される。


(注) 高エネルギー加速器研究機構を中心機関として実施している日米科学技術協力事業(高エネルギー物理学分野)では、RHICを用いた高エネルギー重イオン実験の一つであるPHENIXに1994年から参加している。PHENIX実験は、RHICにおける四つの実験のうちの一つで、世界13カ国、62研究機関、400名あまりが参加する大型実験である。日米科学技術協力事業(高エネルギー物理学分野)の枠組みでの日本側参加機関は、筑波大学物理学系、東京大学大学院理学系研究科、広島大学大学院理学研究科を中心に、高エネルギー加速器研究機構、筑波技術短期大学、早稲田大学理工総合研究センター、長崎総合科学大学工学部である。
 
 
  【関 連 サ イ ト】 ブルックヘブン国立研究所のプレスリリースのページ

【本件問合わせ先】 日米科学技術協力事業「RHICにおける重イオン衝突実験」日本側研究代表者
東京大学大学院理学系研究科・附属原子核科学研究センター
助教授  浜 垣 秀 樹
    TEL:048-464-4048
  高エネルギー加速器研究機構
大強度陽子加速器計画推進部長
教 授  永 宮 正 治
    TEL:029-864-5678
  高エネルギー加速器研究機構
大強度陽子加速器計画推進部
助 手  澤 田 真 也
    TEL:029-864-5680
  高エネルギー加速器研究機構
  広報室
主 管  森 田 洋 平
    TEL:029-879-6047
 
 

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