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last update:05/10/07  
  プレス・リリース 〜 05-08 〜 For immediate release:2005年10月07日
 
 
超伝導加速空洞で52MV/mの高電界を達成
〜 加速空洞設計の新手法の有効性を実証 〜

 
高エネルギー加速器研究機構 
 
 
高エネルギー加速器研究機構(KEK)の齋藤健治助教授をリーダーとする加速器研究開発グループは、ニオブ※1)の超伝導材料で作られた超伝導加速空洞※2)においてメートルあたり5,230万ボルト(V/m)の加速電界を達成することに成功した。これは1.5Vの乾電池を約3,500万個直列にした時の電圧に匹敵するものである。
 
高電界を達成する超伝導空洞の開発は、加速器の性能向上や省エネルギー・省スペース化を図るうえで大変重要である。次世代の高エネルギー物理学研究を行うために世界中の研究者が協力して進めている国際リニアコライダー(ILC)の概念設計作業においても最重要課題の一つとなっている。
 
従来、ドイツのDESY研究所などが中心になって設計した超伝導空洞(TESLA形状)では、メートルあたり4,100万ボルトの加速電界が限界であった。今回、研究グループは、新しい高電界限界理論に基づき空洞形状を設計・製作することで、超伝導空洞における世界最高記録を達成した。また、超伝導加速空洞が放電を起こさずに高電界を達成するためには、欠陥の無い滑らかで超清浄な空洞内表面を造る技術が不可欠であり、この面でもKEKはBファクトリー加速器の前身であるトリスタン加速器で開発した電解研磨技術を基礎とする優れた表面処理技術を活かし、高電界達成に大きく寄与した。
 
今回、高電界を達成した単一セル型超伝導空洞(図1)は、ハッサン・パダムジー教授が率いる米国コーネル大学のチームが設計・製作した空洞(リエントラント形状:RE)にKEKが開発した表面処理技術を適用したものと、KEKと米国ジェファーソン研究所、ドイツDESY研究所が共同で形状設計し、KEKの機械工学センターが製作した空洞(低損失形状:LL)の二種類である。絶対温度2度の環境において、RE形状はメートルあたり5,230万ボルト(Qo※3)=0.97×1010)、LL形状はメートルあたり4,730万ボルト(Qo=1.13×1010)の加速電界を達成した(図2)。この値はこれまでの記録を大幅に更新するものであり、超伝導加速器の専門家の間では現在の技術における理論的限界値として捉えられている。
 
ILCの高電界超伝導空洞試験開発のアジアグループリーダーでもある齋藤助教授は、「この成功は、ILC高電界空洞の概念設計方針上、決定的に重要である。従来のTESLA形状では過去10年間、メートルあたり4,100万ボルトに電界が制限されて来た(図3)。その原因について専門家の間では、製作技術の問題と理論的限界説の2つに議論が分かれていた。我々はこれまでのデータを解析し、理論的限界説を2001年に提唱し、その制限の中でより高電界を得るためには最大表面磁場と加速電界の比が小さい新しい空洞形状しかないと指摘していた。今回の結果は、この指摘を裏付けるものである。」
と述べた。
 
KEKではこの成果をもとに、LL形状の9セル型超伝導加速空洞の開発を進めており、世界の加速器研究者から注目が集まっている。また、超伝導加速空洞設計の基本思想の変更が有効であったことを実証した今回の成果は、ILCが目指す加速電界の達成に十分な根拠を与えたばかりでなく、従来と比較し小型で省エネルギーの加速器が実現可能となることにより、幅広い分野での応用の道を拓くものと期待が寄せられている。
 
※1) ニオブ:超伝導臨界温度絶対温度9.25度の単一金属。加工性に優れ空洞製作に適する。
※2) 超伝導加速空洞:加速空洞とは高周波をその中に供給し、それが作る電場で荷電粒子を加速する装置(加速管ともいう)である。超伝導加速空洞は、加速管を超伝導材料で製作したものである。超伝導特性から空洞内の高周波損失を著しく低減でき、省エネルギー性が向上する。
※3) Qo:空洞内での電力損失の逆数に比例し、この値が大きいほど空洞内表面での電力損失が小さい。省エネルギー性の目安。
 
 
 【関連サイト】 国際リニアコライダーのwebページ
ILC-Asiaグループのwebページ
リニアコライダー計画推進室のwebページ

【本件問合わせ先】 高エネルギー加速器研究機構
  加速器研究施設 助教授
   齋 藤 健 治
    TEL:029-864-5235
  高エネルギー加速器研究機構
  広報室 主管
   森 田 洋 平
    TEL:029-879-6047
 

fig1
図1 :高電界を達成した単一セル型超伝導空洞。
左側がリエントラント単セル空洞(RE)。右側が低損失型単セル空洞(LL)。これらの空洞の特徴は、どちらも空洞内表面での表面最大磁場に対してビームパイプ中心軸上の加速電界が、TESLA形状よりも15%高くできる設計となっている。
 
fig2
図2 :最近KEKが達成した世界最高空洞性能(1300MHz, ニオブ単セル空洞)
横軸はメートル当たりの加速電界、縦軸はQ値。各加速電界でのQ値を測定した結果である。空洞性能としては、より高い加速電界で高いQ値が得られるものが望ましい。空洞は、高周波による表面欠陥での発熱や、理想的な表面でも高周波磁場の作る磁場によって超伝導状態の破壊がおき、性能が制限される。
 
fig3
図3 :1300MHzニオブ超伝導空洞高電界達成の歴史。
'02年までは全てTESLA形状単一セル空洞での性能(世界の主だった研究所での歴史)。2回加速電界のブレークスルーが起こっている。'94年のものは高圧超純水洗浄技術(HPR)の発明により清浄表面が作れるようになったことによる。'05は新しい空洞形状によるものである(青丸がリエントラント形状、赤四角が低損失形状を示す)。
 
 

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