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KEKの陽子加速器でニュートリノを人工的に作り出し、250km離れたスーパーカミオカンデに打ち込んで、ニュートリノが飛行中に別の種類のニュートリノに変わる「ニュートリノ振動」という現象を調べるK2K実験は、1999年6月から2004年11月まで実験が行われた。
この実験では高エネルギーに加速した陽子を電磁ホーンとよばれるアルミニウム製の装置に当てて人工的にニュートリノを作り出している。電磁ホーンは、使用を続けると放射化による劣化が避けられず、適宜交換してきた。昨年11月6日に第一電磁ホーンが故障し、検討の結果、K2K実験のデータ収集を終了することとした。
(注1):これまではおよそ1年毎に交換したが、今回はJ-PARCへの移行作業を優先し、1年を越えて使用。
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図 :K2K実験用電磁ホーンの概要 |
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これまでの交換と同様に放射線レベルの低下後、予備品と交換し、実験を行うことも可能であったが、陽子加速器のシャットダウンの予定や大強度陽子加速器施設(J-PARC)への機器の搬入時期を考慮し、また、それまでに得られたデータでK2K実験で計画された成果の見通しがたったことから、実験は終了し、今後データ解析をするとともに、J-PARCでのニュートリノ実験(T2K実験)をより効果的、効率的に進めるための準備をすることが有意義と判断した。
なお、昨年6月の発表以降の実験および解析の向上により、ニュートリノ振動が99.997%の確率で確証された。
(注2) | 陽子加速器を用いて、K2K実験の他にハドロン実験、中性子散乱実験、ミュオン実験を行っているが、これらの実験は現在建設中のJ-PARCに移行する予定である。このため陽子加速器は平成17年度で運転停止し、ここで使われている電磁石等をJ-PARCに移設する予定である |
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故障原因の特定ができていないのは、この装置は通常人が近寄らないトンネル内部で厚いコンクリートの中に設置されており、また、前述のことから、あえて高い放射線レベルの中で作業をし、無用の放射線被ばくをする必要性はないとの考えによる。なお、電源、トランスの健全性は確認されており、電磁ホーンの導通回路が断線していることが推測されている。
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電磁ホーンの故障が原因でK2K実験を終了したことと故障の経緯については学会や研究者向けのウェブで公開してきた。しかし故障した装置が高度に専門的な部品であることと故障の原因の特定が完了していなかったため、一般向けの情報公開が充分でなかった。この点についてはお詫びしたい。
・KEKの一般向けHPの本年8月25日付けの「つくばから東海村へ〜次世代ニュートリノ振動実験に向けて〜」のニュースで、「K2K実験は2004年11月まで行われ」たこと、「K2K実験は予定されていたプログラムを終了し」た旨記述。
・昨年12月1日、ニュートリノ関係のニュースをまとめて月刊で世界中の関係者に向けて発信している電子メールニュースに、KEKからのステートメントとして「最近のK2Kデータ収集中、明らかなホーンの故障を検知した」旨が配信。
・本年2月、イタリアで開かれた物理の国際会議で11月にホーンが壊れたこと、放射化レベルが高いので修理のためにアクセスできないこと等スライドで説明。
・本年7月に米国で開催された国際ワークショップで、この故障も含めて5年間のホーンの運転の経過を非常に詳しく述べている。
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なお、陽子加速器を用いて本ニュートリノ実験の他に素粒子・原子核実験や中性子散乱実験、ミュオン実験を行っている。原子核・素粒子関連の実験としては、昨年11月以降は、J-PARCのニュートリノ実験に使用する陽子ビームモニタの開発研究を間歇的に実施するほか、K中間子などの実験を行ってきた。
【本件問合わせ先】 |
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K2K実験、海外での公表状況などについて |
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高エネルギー加速器研究機構
素粒子原子核研究所物理第三研究系主幹
中 村 健 蔵
TEL:029-864-5435 |
○ |
その他について |
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高エネルギー加速器研究機構
管理局長
竹 内 大 二
TEL:029-864-5105 |
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