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last update:05/09/07  
  プレス・リリース 〜 05-07 〜 For immediate release:2005年9月7日
 
 
超イオン伝導体中リチウムイオンの高速拡散挙動の直接測定に成功
− 短寿命放射性核種ビームを利用する新たな物性研究手法の開拓 −

 
日本原子力研究所 
高エネルギー加速器研究機構 
 
 
日本原子力研究所(原研、理事長 岡崎俊雄)と高エネルギー加速器研究機構(KEK、機構長 戸塚洋二)は、リチウムの短寿命核種(8Li、質量数8,半減期0.8秒)イオンのビームを利用し、LiGa(リチウムガリウム)等の超イオン伝導体中におけるリチウムイオンの拡散挙動を直接測定することに成功した。超イオン伝導体は、電池材料などに応用が進み、電極材料中のリチウムイオンの拡散の速さが電池の特性向上につながるため、同イオンの高速拡散挙動の解明が求められている。今まで利用できなかった短寿命の放射性核種を固体中を移動する拡散トレーサーとして用いる本手法は世界初であり、固体中の毎秒1μm程度の比較的速いイオンの動きを検知できるので、超イオン伝導体の拡散現象解明の有力な新手法として期待できる。
 
今回の実験では、原研の保有するタンデム加速器を用いて、質量数7の安定なリチウム(7Li)のイオンビームをベリリウムターゲットに照射することにより核反応で生成した短寿命核種である8Liを質量分離器で分離してLiGa試料に打ち込んだ(参考図1)。打ち込まれた8Liが試料中を移動するうちに核壊変して放出するアルファ線を検出し、アルファ線の検出頻度の時間変化を求めることにより、8Liの単位時間当たりの拡散の度合い、すなわち拡散係数を正確に決定した。さらに摂氏120度から−60度まで試料の温度を変えた場合の拡散係数の変化(参考図2)から、−30度以下においてリチウムの拡散が室温における値の千分の1以下に急激に遅くなる現象を直接観察することに成功した。なお、今回の実験に当たっては、青森大学工学部電子システム工学科矢萩正人教授に試料の提供及び取得データの解釈について助言をいただいた。
 
原研とKEKの共同研究グループではさらに、多種類の短寿命の放射性核種をトレーサーなどに利用するため、タンデム加速器にKEKが設置した線形加速器を組み合わせた放射性核種ビームの加速実験装置(TRIAC)を開発しており、今後はこれを用いて、拡散現象の全容解明に向けた研究を展開する。
 

[補足説明]
[用語の説明]

  【資   料】 参考資料(PDF 62KB)
【本件問合わせ先】 日本原子力研究所 東海研究所 物質科学研究部
  材料照射解析研究グループ
   左 高 正 雄
    Tel:029-282-6090  Fax:029-282-5922
  高エネルギー加速器研究機構
  素粒子原子核研究所 物理第4研究系
   鄭  淳 讃
    TEL:029-282-5468  Fax:029-282-5831
 

[補足説明]

実験の概要
原研東海研究所のタンデム加速器で加速された7Liをベリリウム標的に照射し、核反応で生成した8Liを質量分離器で分離し、LiGa金属間化合物に打ち込んだ(参考図1)。打ち込み深さを調整するため薄膜で8Liのビームエネルギーを減衰させ、打ち込まれた8Liが金属間化合物中を移動しながら崩壊するときに放出されるアルファ線量の時間変化を測定することにより拡散係数を求めた。Li含有量44%のLiGa試料を使用し、摂氏120度から−60度までの温度範囲で測定した。その結果、リチウムの拡散係数がLiGa金属間化合物中のリチウム原子空孔の秩序−無秩序転移により−30度付近から急激に減衰することを直接観察することに成功した。超イオン伝導体のLiAl(リチウムアルミニウム)についても同様の測定が行われた。
 
image1 参考図:1
実験のセットアップ。核反応で生成された8Liはビームシャッターにより、1.5秒間LiGa試料へ打ち込み(ビームオン状態)、その後の4.5秒間シャッターを閉じて(ビームオフ状態)アルファ線の計測を行う。エネルギー減衰板を設置し、8Liの打ち込みエネルギーを変えてLiGa中での8Liの埋め込み深さを調節する。8LiがLiGa中を移動中に核変換して放出されるアルファ線をアルファ線検出器で計測する。
 
image2 参考図:2
LiGa中での8Li拡散係数の温度変化を示したもの。試料中のリチウムの割合を変化させると拡散係数の値と拡散係数の温度変化が変る。参考図はリチウムとガリウムの割合がそれぞれ44%、56%の試料についての測定結果を示す。拡散係数が精度よく決定された。また、温度−30度で拡散係数の急激な変化が観測された。
 
 
 
本手法の特徴
拡散現象の研究に用いられて来た従来の手法では、寿命の長い(数時間から数日のもの)放射性核種を試料表面に塗布し、試料中に拡散させる。拡散の様子を調べるため試料を切りだして、切り出した試料片の放射線強度の測定から拡散係数を求める方法が使われてきた。この手法では早い拡散現象の測定は困難であった。また、放射性核種のトレーサーを使用しない電気化学的測定などで求められていた拡散係数の値は間接的測定のため相互にばらつき(最大4桁程度異なっていた)があった。
 
今回開発した手法では、今までトレーサーとして利用できなかった短寿命の放射性核種を加速器を使って生成すると同時に試料に打込み、直後の放射線強度の時間変化をその場測定することが特徴である(世界初)。そのため、リチウムイオン電池の電極材中でのリチウムイオンのように毎秒1ミクロン程度という高速で移動する場合の拡散係数を正確に求めることができる。
 
本手法の長所は
1)試料は非破壊で使用できる。
2)打ち込まれた放射性核種は測定後には減衰しており、放射化のおそれがない。
3)イオンの局所的移動ではなくマクロな動きを観察できる。
4)打ち込む放射性核種の量は1秒間で千個程度でも測定可能であり、打ち込みによる試料への不純物などの影響は無視できる。
5)短寿命核種からの放射線は短時間で放射線を出すので微量の打ち込みでも測定感度が高い、放射線は一つずつ計数出来る。
などである。
 
電池の特性向上について
リチウム電池の電極材料中ではリチウムイオンが高速に移動しており、この移動速度が電流量に直接関係しているため、電極材料中のリチウムの拡散挙動を調べることは高性能電池の開発にとって重要である。このため、リチウム濃度による拡散挙動の変化や拡散係数の温度依存性、電極材料界面での拡散などに関する高精度のデータが求められている。
 
TRIAC(Tokai Radioactive Ion Accelerator Complexの略)
原研とKEKとの共同研究により原研東海研のタンデム加速器施設に整備された放射性核種ビーム供給のための装置(参考図3)。原研のタンデム加速器(参考図4)とオンライン同位体分離器、KEKの電荷増倍器と2台の線形加速器を組み合わせた大型装置で、8Liを始めとする放射性核種ビームの加速を開始している。タンデム加速器からの高エネルギービームで核反応を起こさせた放射性核種を、オンライン質量分析器で質量分離とイオン化を行い、必要に応じ電荷増倍器でイオンの価数を上げた上で線形加速器で核子あたり最大1.1MeVまで再加速する。これまでに8Liやウラン標的からの核分裂片などの放射性核種の加速を行っている。
 
TRIACを使用することによって、多種類の放射性核種が利用できる、試料への打ち込み深さをミクロン単位で決めることが出来る、などの特徴があり、拡散現象の高精度な測定が可能になる。
 
image3image4
参考図:3  TRIAC加速器
短寿命の放射性核種ビームの加速を行う初段の線形加速器
参考図:4  タンデム加速器
多種類の重イオンビームを加速する世界最大級のタンデム加速器。TRIAC加速器はタンデム加速器に連結されている。
 

[用語の説明]

核種
原子核の種類を表す用語で、同じ元素内の同位体を区別するため、元素記号と原子核の質量数(左肩の数字)を明記して以下のように表す。
例えば、1H、2H, 7Li, 8Liなど。
 
短寿命核種
 寿命の短い放射性核種で、ここでは秒以下から数時間の寿命の核種を指す。8Liはベータ(β)崩壊した後、2個のアルファ粒子に核壊変する。
 
東海研タンデム加速器
 原研東海研にある世界最大級の静電加速器。イオン源から一価の負イオンを正に帯電した高電圧ターミナルに向けて加速し、高電圧ターミナルに設置した荷電変換装置でイオンの電子をはぎ取り、多価の正イオンにする。高電圧ターミナル内に設置した電磁石でイオンの方向を180度変えて、もと来た方向に再加速することで高エネルギー加速を可能にしている。多種類の加速イオンが得られること、加速イオンのエネルギー精度が高いことなどが特徴である。
 
超イオン伝導体
 固体では通常、イオンや原子が骨格を形成し、電気伝導は通常、電子や正孔が担っている。固体中のイオンが骨格の原子などに比べて高速に動く(水溶液中のイオンに匹敵する様な速さ。例えば1ミクロン/秒)物質を超イオン伝導体と呼ぶ。燃料電池やセンサー、光デバイスなどに利用されている。
 
金属間化合物
 金属元素から構成される化合物。LiGaでの元素間の結合は金属結合だけはではなく、共有結合とイオン結合が混在している。この意味で金属とは呼ばれない。概して、機能性を持つ材料が多い。
 
リチウムイオン電池電極材
リチウム電池では充電時には正極からリチウムイオンが抜かれ、負極ではリチウムイオンが吸蔵される。放電時には逆に負極から正極へリチウムイオンが移動する反応が起こる。電極材料はリチウムイオンを吸蔵、放出する機能を有する必要があり、この吸蔵、放出機能の速度が充放電特性等の電池特性に大きな影響を与える。
 
原子空孔
結晶はさまざまな構造を持っており、通常その格子点には原子が配置されている。原子空孔とはその格子点にあるべき原子が空位となっているものを指す。
 
秩序−無秩序転移
 原子、分子、スピンなどが規則的である相(秩序相)と不規則である相(無秩序相)との間で起こる物質構造の転移のこと。今の場合は、原子空孔の秩序相と無秩序相の間の転移である。低温で出現する規則相ではリチウムの拡散が遅くなる。
 
 
 

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