for pulic for researcher English
topics
home news event library kids scientist site map search
>ホーム >ニュース >プレス >この記事
last update:06/04/12  
  プレス・リリース 〜 06-08 〜 For immediate release:2006年04月12日
 
 
大型国際共同実験CDFがBs中間子の粒子反粒子振動の初の観測に成功
− 小林益川理論の検証が新たな局面へ −

 
筑 波 大 学 
高エネルギー加速器研究機構 
 
 
このたび、米国フェルミ国立加速器研究所で大型国際共同実験CDF(シーディーエフ:高エネルギー陽子反陽子衝突実験)がBs(ビー・サブ・エス)中間子の粒子反粒子振動の初の観測に成功したので、米国でのフェルミ国立加速器研究所とともに、日本でも報道発表します。
 
CDF実験は日米科学技術協力事業の一つとして進められてきたもので、日本からは筑波大学物理学系を中心に9機関が参加している(注1)。
 
粒子反粒子振動は、これまでにK中間子とB中間子のみで観測されてきた。これらはそれぞれストレンジクォークとダウンクォーク、ボトムクォークとダウンクォークが結合した中間子である。ボトムクォークとストレンジクォークの結合でできたBs中間子では振動数が高く、観測が困難であることが小林益川理論(注2)で予言されていた(注3)。今回のBs中間子の粒子反粒子振動の角振動数(Δms)の測定結果は17.33毎ピコ秒(統計誤差+0.4/-0.2、系統誤差±0.07)(注4)であった(振動数約2.8兆ヘルツ)。これはこれまでの実験から得られた予測値と矛盾せず、はるかに測定精度が高い。今回の結果が振動がないときの観測に伴う統計的ゆらぎで得られる確率は0.5%である。言い換えると今回の結果からBs中間子の粒子反粒子振動を観測した確率は99.5%である。
 
Bs中間子の粒子反粒子振動の振動数の測定は小林益川行列(注5)のトップクォークとストレンジクォークの結合を高精度で決定するのに重要な役割を果たすものであり、今後の小林益川理論の検証には不可欠な測定である。
 
岩崎洋一(いわさきよういち)筑波大学学長は「筑波大学は27年前に近藤都登教授(当時)が日本側の実験代表者となって以来、陽子反陽子衝突実験で主導的な役割を果たしてきました。大規模な国際共同実験の一員として測定器の開発やトップクォークの発見でも極めて重要な貢献を続けてきましたが、今回、CDFグループが陽子反陽子衝突の特徴を最大限に活かして、粒子反粒子振動に関する新たな実験結果を得たことは大変すばらしい成果だと思います。」と述べた。
 
CDF実験の建設開始当時の日本側実験代表者であった近藤都登(こんどうくにたか)早稲田大学特命教授は「Bs中間子では2つの質量固有状態の質量差は非常に大きく、その振動現象は測定不可能というのがこれまでの常識でしたので、今回の測定結果には驚きました。CDF実験の当初の目的は、標準理論の検証と標準理論を超えた物理の探索でしたが、テバトロンによるCDFおよびDゼロ実験は、当初予想できなかったほどの成熟期に入り、トップクォークの質量の精密測定や新粒子・新現象の探索でも、今後新しい成果が得られるものと期待しています。」と述べた。
 
また、1973年に小林益川理論を発表したうちの1人、小林誠(こばやしまこと)高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所前所長は「Bs中間子の振動は長く結果が待たれていたものであり、すばらしい成果だと思います。Bファクトリーでの結果と併せて、CP対称性の破れの理解がさらに進むことを期待しています。」と述べた。
 
CDF実験では1995年にトップクォークを発見したが、その後、1996年からテバトロン加速器が改修され、より大強度の陽子・反陽子ビームを用いて2002年に実験を再開した。1995年当時と比較して約10倍のデータを収集して高統計の解析を行ったことが今回の観測につながった。テバトロン加速器とCDF実験は今後3年間でデータ量を8倍まで増加していく予定であり、測定精度をさらに向上させることによって、小林益川理論の検証を大いに進展させることが期待される。
 
(注1) 日米科学技術協力事業の高エネルギー物理学分野は1979年に文部省高エネルギー物理学研究所(当時)と米国エネルギー省高エネルギー・原子核物理部(当時)を中心機関として始められた。米国フェルミ国立加速器研究所のテバトロン加速器に設置されたCDF測定器を用いた「陽子・反陽子衝突による重い粒子の検出」実験はその事業の一つであり、日米伊の国際共同実験として1979年に測定器建設が始められ、現在はアジア、米国、ヨーロッパから60の研究機関が参加する国際共同実験として実施されている。日本からは、筑波大学物理学系を中心に、大阪市立大学大学院理学研究科、岡山大学理学部、早稲田大学理工総合研究センター、高エネルギー加速器研究機構、京都教育大学理学部、近畿大学理工学部、長崎総合科学大学工学部、福井大学工学部が参加している。
(注2) 物質の基本となる素粒子を記述する理論の一つ。1973年の発表当時には基本粒子であるクォークは3種類のみが発見されていたが、粒子と反粒子の性質の違いをあらわす「CP(シーピー)対称性の破れ」という現象を説明するために6種類のクォークの存在を予言し、その後、1974年にチャームクォーク、1977年にボトムクォーク、1995年にトップクォークが発見された。
(注3) 電荷を持たない中性の粒子では、粒子と反粒子が生成される際の状態と崩壊する際の量子力学的な固有状態が異なることが知られている。この時、固有状態の質量に差があると、粒子反粒子振動が起きる。クォークでできたK中間子やB中間子などの生成と崩壊の間の関係は小林益川行列で記述される。
(注4) 1ピコ秒は1兆分の1秒。
(注5) 3世代6種類のクォークが電荷の変化を伴う弱い相互作用をする時、アップ、チャーム、トップがダウン、ストレンジ、ボトムと結合するが、この時、世代間の混合が起きる。この混合の様子を、それぞれのクォークが結合する3行3列の行列で表したものを小林益川行列という。
 
 
 
 【資    料】 
    参考資料 (PDF 1.0MB)
【関連サイト】 
    米国フェルミ国立加速器研究所(FNAL)プレスページ
    http://www.fnal.gov/pub/presspass/press_releases/CDF_04-11-06.html
    筑波大学素粒子実験室
    http://hep-www.px.tsukuba.ac.jp/
【本件問合わせ先】 
  筑波大学 物理学系 教授
   金  信 弘
    TEL:029-853-4270
  筑波大学 広報課 専門職員
   和 田 雅 裕
    TEL:029-853-2040
  高エネルギー加速器研究機構 広報室 主管
   森 田 洋 平
    TEL:029-879-6047
    

image  
小林益川理論によると、ボトムクォークからダウンクォークへ至る道筋はトップクォーク経由、チャームクォーク経由、アップクォーク経由の三通りがあり、それぞれの崩壊の強さの掛け算を辺の長さとした「ユニタリティ三角形」を描くことができる。Belle実験を始めとする世界各地の実験でこの頂点の角度と辺の長さが精密に測定され、小林益川理論の正確さが立証されてきた。図中の赤い楕円がこれまでの測定から得られたαの頂点の存在範囲(1標準偏差)。今回のBs中間子の粒子反粒子振動を精密に測定することで図のαとβの間の辺の長さをこれまでの予測値よりもはるかに高い精度で決定することができる。赤い楕円の左端はΔmsが16.8ps-1、右端は24.8ps-1(それぞれ1標準偏差)と予言されていた。

image
Bs中間子の粒子反粒子振動の測定結果
 

copyright(c) 2006, HIGH ENERGY ACCELERATOR RESEARCH ORGANIZATION, KEK
〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1
proffice@kek.jpリンク・著作権お問合せ