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last update:06/06/12  
  プレス・リリース 〜 06-12 〜 For immediate release:2006年06月12日
 
 
千倍高感度なX線CTにより疾患モデル動物のがんやアルツハイマー脳の観察に成功
 
筑波大学 
(株) 日立製作所 
アステラス製薬 (株) 
高エネルギー加速器研究機構 
 
 
[ポイント]
 
1)造影剤なしで生体軟部組織病変部の高感度・高空間分解能な三次元可視化に成功。
2)定量的画像解析手法を用いた病理観察、疾病メカニズムの解明、創薬への応用。
 
[概要]
 
国立大学法人 筑波大学[学長:岩崎洋一](以下「筑波大」という)人間総合科学研究科 武田徹講師の研究グループは、株式会社 日立製作所[(執行役社長:古川一夫)、基礎研究所](以下「日立」という)、アステラス製薬株式会社[代表取締役社長:竹中登一](以下「アステラス製薬」という)、大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構[機構長:鈴木厚人](以下「KEK」という)と共同で、疾患モデル動物のがんやアルツハイマー脳を無造影で三次元観察することに成功しました。観察にはKEKのウィグラー放射光を用い、従来のX線撮影法より千倍高感度なX線CT技術を適用しました。
 
本X線CT技術は、1997年から日立、KEKと共同で開発してきた「結晶分離型・位相コントラストX線撮像技術」と呼ばれています。この技術を用いて今回、生きたマウスの表在がんに対し、抗がん剤を投与しがんの壊死状態を経時的に三次元観察したり、アルツハイマー病モデルマウスの脳標本内に斑点状に蓄積したアミロイド斑の分布を、高い空間分解能をもって三次元観察することが可能となりました。これにより、病理観察や疾病メカニズムの解明、将来的には新薬創生への貢献が期待されています。
 
なお、本開発の一部は、文部科学省科学技術振興調整費「X線位相情報による画像形成とその医療応用に関する研究」の一環として行われたものです。
 
[研究の背景及び目的]
 
がん、脳疾患などの難治性疾患のメカニズム解明や治療のための新薬開発の分野では、マウスなどの疾患モデル動物を用いた病理観察や薬剤効果観察が不可欠です。このような動物実験用の三次元観察装置として、動物用MRIやPET等が現在用いられつつありますが、病変箇所やそれに対する薬剤効果などの定量的・経時的な解析において、必ずしも十分な空間分解能と感度を有す装置ではありません。
 
これらの問題を解決するために、筑波大、日立、KEKは共同で、従来のX線より約千倍高い密度分解能(1mgr/cm3以下)、観察視野60mm×30mm、空間分解能50μmを実現する「結晶分離型・位相コントラストX線撮像技術」を世界に先駆けて開発しました。本撮影技術を、アステラス製薬とも共同で疾患モデル動物に適用し、これまで造影物質を用いなければ不可能であった生体試料の三次元画像化が、本法により実現できることを実験的に検証しました。
 
[成果・応用]
 
(1)ヌードマウスの表在がんに対する薬剤投与効果の経時的観察
生きたヌードマウスの表皮に大腸がん(体積1cm3)を成長させ、抗がん剤投与後の組織内の壊死領域を三次元観察することに成功しました(図1)。4日間の観察において、がんの大きさはほとんど変化しませんでしたが、がんの中心部分で壊死による低密度領域が広がっていく様子を観察することができました。
 
(2)アルツハイマー病モデルマウス脳のアミロイド斑分布観察
アルツハイマー病モデルマウスの脳標本内に斑点状に蓄積したアミロイド斑を、三次元的に観察することに成功しました(図2)。このアミロイド斑は、Aβ40という特定のアミロイド蛋白質と分布が一致していました。このことは、造影物質などを使わずに個々のアミロイド斑を高い空間分解能で可視化できることを意味します。
 
また、個々のアミロイド斑の体積と密度の定量的な解析にも成功し、詳細な病的加齢変化を捉えられるようになりました。
 
今後、がんやアルツハイマー病の組織レベルでの病理観察や医薬品開発等に向けての応用が期待されます。
 
[技術説明]
 
(1)位相コントラストX線CT
物質をX線が透過する際に生じるX線の波が進み、位相の変化(位相シフト)をコントラストとして三次元画像を取得するイメージング技術。これに対し、従来の医療用、産業用などの目的で普及している吸収コントラスト原理によるX線CTでは、X線が物質を透過する際の透過率(吸収率)の変化をコントラストとして三次元画像を構成する。位相差X線CTは、軽元素(水素、炭素、窒素、酸素等)で構成される生体試料に対して、従来法に比べて約千倍高感度な三次元可視化を可能とします。
 
(2)結晶分離型X線干渉計を用いた位相コントラストX線撮像技術(図3)
X線の波の位相を計測して画像を形成するためには、従来はシリコン単結晶インゴットから切り出した一体型X線干渉計を用いますが、観察視野は20mm角レベルです。そこで、X線干渉計を2つに分離して光学系を構成し、かつ分離した2つの部分を相互に超高精度で角度合わせする技術を開発することにより(角度精度〜10-9度)、観察視野60mm×30mm、空間分解能50μmを実現しました。
 
また、試料と干渉計を30cm程度離すことができるため、マウス等の体温(摂氏37度)の影響でシリコン結晶が歪み、位相計測に生じる誤差を押さえることが可能となりました。
 
(3)三次元画像の定量解析技術
本計測で得られる測定物理量は密度です。そして、1mgr/cm3以下という極めて高い密度分解能で試料内部の三次元的な密度分布が無造影で得られます。このことにより、造影剤やプローブ物質の偏在などの影響を考慮する必要がなく、病変による変化や薬剤投与による密度・体積変化を定量的に求めることが可能となりました。また、経時的な変化の追跡も可能です。
 
 【関連サイト】 筑波大学ホームページ
【本件問合わせ先】
 国立大学法人筑波大学
 大学院人間総合科学研究科 先端応用医学専攻
  応用放射線医学分野 講師
   武田  徹
    〒305-8575 茨城県つくば市天王台1-1-1
    TEL:029-853-3887、3774  FAX:029-853-3658
    E-mail:ttakedamd.tsukuba.ac.jp
 株式会社日立製作所中央研究所
  企画室 花輪、木下
   TEL:042-327-7777(ダイヤルイン)
 アステラス製薬株式会社 広報部
    〒103-8411 東京都中央区日本橋本町2-3-11
    TEL:03-3244-3201
 大学共同利用機関法人
 高エネルギー加速器研究機構
  広報室長
   森田 洋平
    TEL:029-879-6047
【プレス発表・取材に関する窓口】
国立大学法人筑波大学 総務・企画部広報課広報・報道
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図1:ヌードマウスの表在がん(Jpn J Appl Phys 2006:45;1864-8)
 

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Scale bar=1mm  
A)アルツハイマー病マウス B)正常マウス
図2:βアミロイド斑の分布画像(Neuroscience 2006:138;1205-13 の図改変)
 

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図3:結晶分離型干渉計・位相コントラストX線CTシステム図
 
 
 

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