FFAGシンクロトロンで100Hz運転に成功
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高エネルギー加速器研究機構
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高エネルギー加速器研究機構(KEK)で開発研究を進めていたFFAG(Fixed Field Alternating Gradient:固定磁場強収束交番勾配型)シンクロトロン(図1、2)において、ビームエネルギー100MeV(1億電子ボルト)、繰り返し周波数100Hzでの陽子ビーム加速とビーム取り出しに成功(図3)した。この繰り返し周波数での陽子ビーム加速は従来のシンクロトロンでは困難であり、FFAGシンクロトロンが速い繰り返しの陽子加速器として利用できることを実証した。
FFAGシンクロトロンは、サイクロトロンと従来のシンクロトロンそれぞれの長所(※1)を兼ね備えており、従来のシンクロトロンを上回る速い繰り返しを可能にしていることにより、大電流が必要な幅広い分野にわたる応用が期待されている加速器である。1950年代、大電流のビームを加速できる加速器の必要性から、速い繰り返し加速でビーム強度を増す加速器として、その原理が考案されたものであるが、速い繰り返しの高周波加速が当時としては技術的に困難であったために実現には至らなかった。
2000年度KEKにおいて、新しい磁気材料を利用した高周波加速空胴の開発により世界で初めてFFAGシンクロトロンの原理実証機(500keV:50万電子ボルト)による陽子加速に成功した。この原理実証機の開発成功を踏まえ、2001年度からは実用を目指したプロトタイプの研究開発を進めてきた。ビーム振動数を測定しながら磁場分布を局所的に変えるなど工夫をこらすことによって、2005年度にはビームエネルギー100MeV、繰り返し周波数100Hzでのビーム加速とビーム取り出しに成功した。
今回の成果は、原子核・素粒子実験用として大強度の中性子発生装置や短寿命粒子の加速装置として、また、医療用としてはスポットスキャン照射法(※2)を用いた粒子線治療への応用が期待される。
本研究は、主に科学研究費補助金(学術創成研究費)「汎用FFAG加速器の応用と開発」(研究代表者:森義治加速器研究施設客員教授)によって進められたものであり、本実験の成功によりFFAGシンクロトロンの汎用加速器としての有効性が示されたものである。
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(※1) |
サイクロトロンは、磁場の強さが一定なので粒子を入射してから最大加速までの時間が極めて短いという特徴を持っている。(その反面、粒子のエネルギーが高くなるにつれて粒子の軌道半径が大きくなり、らせん状の軌道になるので巨大な磁石が必要となる。)また、従来のシンクロトロンは、凸レンズと凹レンズの役割をする電磁石をうまく組み合わせることによる強収束の技術で粒子の軌道を安定化させるという特徴を持っている。(その反面、加速される粒子のエネルギーに同期して磁場を変えていくことから、最高エネルギーに到達するまでに数秒の時間が必要となる。) |
(※2) |
ビームの大きさをがんの患部より小さく収束して、ビーム位置をスキャンして患部を照射する方法。ビーム密度が大きいので照射時間が短くでき、患部の部分部分で照射量を変化させたり、患部以外には照射をしないようにする等の色々なメリットがある。この為にはビーム加速、取り出しの繰り返しを早くすることが必要である。 |