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last update:06/03/23  
  プレス・リリース 〜 06-06 〜 For immediate release:2006年03月22日
 
 
超高性能の小型電子放出素子の連続運転に成功
− カーボンナノチューブで300kA/m2

 
高エネルギー加速器研究機構  
 
 
(概 要)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)では電子加速器の大電流化と連続運転に耐えることのできる高性能電子放出素子の研究開発を進めているが、このたびKEK加速器研究施設の加藤茂樹助教授を代表とするKEK、総合研究大学院大学、株式会社化研の研究グループは、多層カーボンナノチューブを使用した電子放出素子より、300kA/m2以上の電流密度で連続的に電界電子を引き出すことに成功した。また、50kA/m2の電流密度を維持しながら連続放射を続けたところ、1ヶ月間で2.5%の電界上昇に留まり、10年間の連続運転でも実用に耐え得ることを示した。この成果は、武蔵工業大学で開催される第53回応用物理学関係連合講演会において3月23日発表される。
 
(背 景)
多層カーボンナノチューブは、フィールドエミッションディスプレイ(FED)への応用に代表されるように、近年、電子放出素子材料として注目を集め、既に製造工程まで含めた研究開発が進められている。1本のカーボンナノチューブからの電流密度としては数100GA/m2が得られているが、その用途は電子顕微鏡などに限られている。しかし、実際に最も利用分野が多いと予想される数10平方ミクロンから数10平方ミリメータの大きさでは、数万本から数百億本という非常に多数の(バルキーな)カーボンナノチューブを集団として実用的に機能させ、高い電流密度を得る必要がある。このため、現実の開発には種々の制約が生じ、改善すべき課題が数多く顕在化している。特に、省電力対策に重要な高効率化のためには、可能な限り低電界強度を維持しながらも長期間、大きな電流密度を安定に得ることが望ましいが、これらの条件を同時に満たすことには種々の困難を伴い、実現が難しかった。
 
(成果の内容)
研究グループは、2年前、多層カーボンナノチューブ表面に二酸化ルテニウムを付加し、大きな電流密度を低電界で得られることを実証した。その後、カーボンナノチューブからさらに大きな電流を取り出そうとすると、主に2つの問題が障害となることを見出し、今回それらに対する改善策を講じた。
 
1つは、クーロン力と熱負荷が原因で、カーボンナノチューブそのものが電子放出素子基板から消失してしまうことであった。この問題の解決のため、カーボンナノチューブと基板の接合に焦点を当て、新しい手法により大電流と長寿命の両立を目指した。新しく開発した方法は、遷移金属薄膜を基板に形成し、カーボンナノチューブと基板との低温熱接合処理を行うものであり、カーボンナノチューブが基板に強固に根を張るという意味で、「根付け処理」(ルーティング処理)と呼んでいる。図1の写真は、基板に束状になった多層カーボンナノチューブが「根付いている」ことを示す電子顕微鏡写真である。このルーティング処理によりカーボンナノチューブと金属基板の接合部における熱伝導、電気伝導、機械強度が著しく改善されたと考えられる。
 
もう一つは、連続大電流運転の場合、陽極への熱負荷が大きくなるため、陽極とその周辺材料の温度上昇が顕著となり、材料からの大きな気体放出が問題になることである。真空中に放出された気体は電子放出素子からの電子ビームにより正イオン化されるため、素子表面を攻撃し、素子の劣化を進めるだけでなく、放電を誘発し易くなる。同研究グループでは、この対策として、試験装置内に極高真空環境を作り、また、陽極とその周辺材料の適正な選択を行うことによって、大電流試験中であっても問題となる気体放出を大幅に減少させた。
 
この2点を解決した結果、得られた電界電子放出特性は、8MV/m以下の電界でも300kA/m2以上の電流密度であり、2年前の記録を2桁更新するものである。また、閾値(しきいち)電界※)は、従来、数〜5MV/mであったが、今回の研究では1.5 MV/mまで低減することができた。さらに注目すべき点は、一連の試験では連続的に電界電子を引き出していて、最も過酷な電子放出条件であることである。したがって、ガス放出が少なく、放電も成長しにくいパルス運転による電子放出であれば、連続運転電流の数百倍に当たる数10MA/m2の電流密度に達する可能性がある。図2に寿命試験の結果を示す。50kA/m2の電流密度を維持しながら1ヶ月間の連続運転を行ったが、その間の電界上昇は2.5%に留まり、10年間の連続運転でもその電界上昇は5%程度に抑制できることが予測される。図3は試験装置の内部の写真で、連続運転中に大電流電子放出により陽極が加熱され、輝いている様子を示している。
 
※)閾値電界: threshold field。いかに低電界で実用的な電子放出をし易いかを判断する基準であり、
100A/m2が得られる電界強度のこと。
 
(波及効果と今後の展開)
この技術は、加速器の分野においては、高ピーク電流、低エミッタンス、そして、長寿命が要求されるエネルギー回収型加速器(ERL)や自由電子レーザー(FEL)等の電子源への応用が期待される。また、汎用・民生用としては、低電界・長寿命が必要となるフィールドエミッションディスプレイ用や人口衛星等の電子源、大電流・長寿命が必要となる医療用X線発生装置、高温環境下での動作も要求されるプラズマ装置の電子源や高周波発生用の電子源としても好適な技術と考えられる。今後は単層カーボンナノチューブの応用、接合用薄膜の最適化、基板におけるカーボンナノチューブの数密度制御によりさらなる特性改善が進むと期待される。
 
 
 【本件問合わせ先】 高エネルギー加速器研究機構
  加速器研究施設 助教授
   加 藤 茂 樹
    TEL:029-864-5250
  高エネルギー加速器研究機構
  広報室 主管
   森 田 洋 平
    TEL:029-879-6047
 

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図1 :金属基板に対して、多層カーボンナノチューブが1本の束になった状態で「根付いている」ことを示す電子顕微鏡写真。倍率は3万倍。右下のバーが100ナノメータの長さを示す。
 

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図2 : 寿命試験の結果。縦軸にはこの電子放出素子から電子を引き出すための電界強度をMV/mの単位で、横軸には試験時間をhourの単位で表示してあり、105(10万)時間で約11年となる。50kA/m2の電流密度を維持しながら800時間(約1ヶ月間)の連続運転を行った。電子放出素子上の一部のカーボンナノチューブの劣化により、一定電流を維持する電界強度は僅かに上昇するが、その上昇分は2.5%に留まった。上昇率がこのまま続くと仮定すると10年間の連続運転でも5%程度の増加に留まることが予測される。
 

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図3 : 電子放出試験中の装置内部を示す写真。台形に見えるのが電子放出素子ホルダーであり、その上に素子が固定されている。輝いているのは素子の真上にある陽極であり、連続運転で放出される電子ビームによって加熱されている。陽極は摂氏1000度以上の温度になっているが、この状態でも試験装置内は10-8Paの超高真空に維持されている。
 
 
 

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