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図1 実験の原理の概略 |
(上段) |
加速器から取り出した陽子を、標的の原子核に照射すると、ある一定の確率でファイ中間子が原子核内に生成される。 |
(中段) |
生成されたファイ中間子は原子核内を飛行していく。 |
(下段) |
寿命がくると、ファイ中間子は崩壊する。ファイ中間子は様々な娘粒子に崩壊するが、本実験では電子・陽電子ペアに崩壊したファイ中間子を検出する。電子・陽電子ペアの運動量を測定することにより、親粒子であるファイ中間子の質量を測定することができる。 |
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図2 観測が期待される質量分布のシミュレーション結果 |
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本実験の目的は、原子核内で崩壊したファイ中間子の質量分布(図上左の緑のライン)を測定することである。ファイ中間子は寿命が来て崩壊するまで飛行するが、ファイ中間子の中には崩壊時点までに原子核の外に出てしまうものが一定の割合で存在する。原子核の外へ出ると質量は既知の真空中の分布に戻ってしまう(図上右の青のライン)ため、実際に観測されるのは既知の真空中の分布(青)に原子核内で変形した分布(緑)が重ねあわされた、赤いラインで表された分布となる(図下)。 |
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図3 本研究の実験装置の概要 |
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原子核標的で生成された電子・陽電子を識別し運動量を測定するための構成になっている。緑または青で示されているのが、電子・陽電子識別装置である。陽子ビームを原子核標的に照射すると大量のパイ中間子が生成される。その中から、ファイ中間子の崩壊によって生成する数少ない電子・陽電子ペアを精度よく識別するために、電子・陽電子識別装置を2段または3段構えに配置して、パイ中間子を除去する能力を高めている。
黄色で示されているのは、運動量測定装置である。電子・陽電子の運動量を測定することにより、ファイ中間子の質量を求めることができる。測定装置には上下方向に磁場(約0.71テスラ)がかけられており、電荷をもつ電子・陽電子は磁場中を曲がりながら飛行していく。運動量が大きければ曲がりが小さく、逆に運動量が小さければ大きく曲がることを利用して、電子・陽電子の運動量を測定する。
赤色で示されているのは、主にK中間子測定用の検出器であり、今回の解析には用いていない。
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図4 実際に観測された質量分布 |
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横軸が質量を表している。赤い点が観測点を、青い線が既知の真空中でのファイ中間子の質量ピークを表す。青い点線は、ファイ中間子からではない電子・陽電子でつくられるバックグラウンド分布を表している。 |
(図左) |
標的原子核として大きい原子核(銅)を使用した場合の測定データ。 |
(図右) |
標的原子核として小さい原子核(炭素)を使用した場合の測定データ。銅原子核を使用した場合にのみ、既知の分布では説明できない超過部分がファイ中間子のピークの左側、つまり低質量側に観測された。炭素原子核を使用した場合には、測定データは既知の分布で説明される。標的原子核が大きければ大きいほど、原子核内で崩壊するファイ中間子の割合が増えるため、観測された超過部分はファイ中間子の原子核内崩壊によって形成されていると考えられる。 |