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last update:07/08/13 
 プレス・リリース 〜 07-06 〜 For immediate release:2007年08月13日
 
 
Belle実験の最新の結果について
−D中間子の粒子・反粒子混合現象を発見−

 
高エネルギー加速器研究機構 
 
 
発表の骨子
小林・益川理論で説明される粒子・反粒子の混合現象*1については従来、中性の中間子*2のうちダウン型(電荷−1/3*3)のクォークを含むK中間子とB中間子のみで確認されていた。今回、高エネルギー加速器研究機構のKEK Bファクトリーを用いた実験により、アップ型(電荷+2/3)のクォークを含むD中間子の混合現象を世界で初めて捉えることができた。この発見により、標準理論を超える新しい理論に対する実験的知見が得られることが期待される。
 
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)の電子陽電子衝突型加速器(KEK Bファクトリー)を使って実験を行っているBelle実験グループ*4は、これまでに収集したデータを解析し、中性のD中間子がその反粒子*5に変化する混合現象を世界で初めて観測しました。この結果は、8月13日から韓国テグ市で開催されるレプトン−フォトン国際会議(Lepton-Photon 2007)において報告されます。
 
粒子が反粒子に移り変わる混合現象は、電気的に中性の中間子に特有の現象であり、これまでに中性のK中間子とB中間子で確認されていました。ところが、中性の中間子で唯一残ったD中間子については、1976年に発見されて以来、電子・陽電子あるいは陽子・反陽子加速器による衝突実験や、固定標的を使った多くの実験で検出が試みられてきましたが、発見されていませんでした。
 
中間子に混合現象があると、その崩壊寿命が終状態によって僅かに変化します。今回のBelle実験の解析では、中性のD中間子がK中間子とπ(パイ)中間子に崩壊する場合と、2個のK中間子又は2個のπ中間子に崩壊する場合のそれぞれの寿命を精密に比較し、統計的に有意な差があることを確認しました。この測定結果は、崩壊モードによる寿命の違いがあることを示しています。標準理論*6に基づく中性のD中間子とその反粒子の混合率には不定性があり、理論的にはまだ予想の域を出ていません。今回のD中間子の混合率の測定結果は、理論に先立って実験的にこの混合率を決定したことになります。また、今回の測定結果は理論で予想される範囲の上限近くにあります。
 
混合現象の頻度を精密に測定すると、未知の新粒子の存在を探ることができます。歴史的には、K中間子の混合率の測定からチャームクォークの存在や質量が、B中間子の混合率の測定からトップクォークの存在や質量が、まだチャームクオークやトップクオークが未発見であったときに予言されていました。今回の測定結果が理論的研究に新たな知見を与えることが期待されます。
 
今回の測定結果について、素粒子理論の研究者からは、「これまでに見つかっていたクォークの混合現象は『ダウン型』(荷電−1/3)によるものでした。今回の発見は『アップ型』(荷電+2/3)のクォークによる混合現象の初めての発見です。今回の測定結果により標準理論を超える新しい理論のいくつかに対し、厳しい制限が与えられます。」(KEK素粒子原子核研究所 教授 岡田安弘)との理論的意義が示されています。
 
 この成果は、既にフィジカル・レビュー・レターズ紙に掲載されており、米国スタンフォード線形加速器センター(SLAC)のBファクトリー実験であるBaBar実験においても、Belle実験とは異なる手法によってD中間子の混合現象が発見され、Belle実験の結果と矛盾しない混合率が得られています。D中間子の崩壊・反応現象の研究においても、両実験グループの激しい研究競争が続いており、今後さらに実験データを蓄積して精度の高い測定を行う予定です。
 
 
 
 【関連サイト】 Belleグループwebページ
【本件問合わせ先】 高エネルギー加速器研究機構
  素粒子原子核研究所
    教授 山 内 正 則(Belle実験共同代表)
    TEL:029-864-5352
  名古屋大学 大学院理学研究科
   准教授 飯 嶋   徹(Belle実験共同代表)
    TEL:052-789-2893
  高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 森 田 洋 平
    TEL:029-879-6047
 

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       (図A)
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       (図B)
図1 : 図AはD中間子がK中間子とπ中間子に崩壊する場合の崩壊時間の分布と、D中間子が2個のK中間子あるいは2個のπ中間子に崩壊する場合の崩壊時間の分布。
図Bは両者の比を示す。この比の傾きがゼロでないことが、D中間子の崩壊様式による寿命の違い、すなわちD中間子の混合現象の存在を意味する。
 

【用語解説】
 
1)粒子・反粒子の混合現象
  小林・益川理論では、3世代6種類のクォークが弱い相互作用によって軽いクォークに変化し、その割合が小林・益川行列で記述される。この理論に基づくと、中間子の状態に時間とともにその反粒子成分が混合し、確率的に粒子が反粒子に変化する現象がおきる。
 
2)中間子
  中間子はクォークと反クォークの束縛状態。クォークは6種類;アップ(u)、ダウン(d)、ストレンジ(s)、チャーム(c)、ボトム(b)、トップ(t)があり、K中間子は、ストレンジクォークを、B中間子は、ボトムクォークを、D中間子は、チャームクォークをそれぞれ含んでいる。構成するクォークと反クォークを置き換えると反中間子となる。
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3)電荷
  は電荷素量。素粒子物理学で素粒子の電荷を表すために使われる電気量の最小単位。陽子の電荷は+1、電子は−1 となる。
 
4)Belle実験グループ
  世界14の国と地域、55研究機関からの約400人の研究者からなる国際研究チームである。
 
5)反粒子
  すべての粒子には、質量が同じで電荷やその他の性質が反対の反粒子が存在する。中間子の場合の反粒子は、中間子を構成しているクォークと反クォークの組をそれぞれ反クォークとクォークで置き換えたものとなる。
 
6)標準理論
  物質を構成する基本粒子は3世代12種類あり、それらは4種類の力によって結びついている。このうち、重力以外の3つの力(強い力、電磁力、弱い力)を説明するのが「標準理論」で、実験により高い精度で検証されてきた。また、これまでの実験で標準理論を超える実験結果は、まだ得られていない。
 
 

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