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last update:07/11/09 
 プレス・リリース 〜 07-10 〜 For immediate release:2007年11月09日
 
 
Belle実験で新種の中間子を発見
 
大学共同利用機関法人 
高エネルギー加速器研究機構 
 
発表の骨子
高エネルギー加速器研究機構のKEK Bファクトリーを用いた実験では、電荷を持った新しい中間子を発見した。この新粒子は、従来から知られている1個のクォークと1個の反クォークでできた中間子の描像にあてはまらないものであり、この発見により、量子色力学が引き起こす現象の理解がより一層進展することが期待される。
 
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)の電子陽電子衝突型加速器(KEK Bファクトリー:KEKB)を使って実験を行っているBelle実験グループ*1は、新粒子を発見した。Z(4430)(注)と名づけられたこの粒子は電荷を持っており、4個のクォーク*2が結合してできた新しい複合粒子である可能性がある。
 
(注)Z(4430)
  素粒子物理の慣例では、粒子を識別するのにローマ字やギリシャ文字が使用される。今回発見された新粒子は、これまで発見された粒子(XやYなど)とは別の種類の粒子という意味で「Z」と暫定的に名付けられた。なお、カッコ内の数字は粒子の質量をMeV(メガ電子ボルト)で表している。Z(4430) は4,430MeV(4.4GeV)の質量を持つ謎の粒子。
 
Belle実験グループの研究者らは、KEKBで生成された約6億6千万個のB中間子−反B中間子対の崩壊を詳細に解析した中に、B中間子がK中間子と新粒子に崩壊し、さらに新粒子がパイ中間子(π)とプサイプライム粒子(ψ')*3と呼ばれる中間子に崩壊したと考えられる事象を約120例見つけた。(図1)解析の結果、この新粒子は、Z(4430) と名づけられ、陽子*4の約4.7倍の質量を持つ荷電粒子であることが判った。
 
これまでにも、Belle実験では、X(3872)、Y(4260)、X(3940)、Y(3940) と呼ばれる新粒子を発見しているが、これらの新粒子は、陽子のおよそ4倍から4.5倍の質量をもつ電荷がゼロの中性粒子でその多くはジェイ/プサイ粒子(J/ψ)*3もしくはプサイプライム粒子(ψ')と複数のパイ中間子に崩壊するものだった。これらの新粒子は、チャームクォークと反チャームクォークとさらに他の2個のクォーク(例えばアップクォークと反アップクォーク)が結合してできた複合粒子ではないかと考えられている*5が、電荷がゼロであることから、チャーモニウム中間子*3の一種である可能性も否定できなかった。
 
これに対して、今回発見された Z(4430) は電荷を持つ点が特徴である。チャーモニウム中間子の電荷はゼロであるので、Z(4430) がチャーモニウム中間子の一種であるとは考えられない。つまり少なくともあと2種類のクォーク、例えばアップクォークと反ダウンクォークとあわせて合計4個のクォークを持つと考えられる。X(3872)、Y(4260)、X(3940)、Y(3940) などの粒子の発見以前に知られている数百種類におよぶ中間子はすべて、1個のクォークと1個の反クォークが強い力*6で結合した状態として説明されてきたが、Z(4430) はこの従来から知られている1個のクォークと1個の反クォークでできた中間子の描像にあてはまらないことが明確となった新しい粒子として注目される。(図2図3図4
 
クォークは強い力によって、単独では存在せずに、中間子などの複合粒子の中に閉じ込められてしまう。強い力を記述する理論は量子色力学として知られており、今回の発見によって、この量子色力学が引き起こす現象の理解がより一層進展することが期待される。なお、この成果は10月22日にフィジカルレビューレターズ誌に投稿した。
 
 
 
 【関連サイト】 Belleグループwebページ
【本件問合わせ先】 高エネルギー加速器研究機構
  素粒子原子核研究所
    教授 山 内 正 則(Belle実験共同代表)
    TEL:029-864-5352
  名古屋大学 大学院理学研究科
   准教授 飯 嶋   徹(Belle実験共同代表)
    TEL:052-789-2893
  高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 森 田 洋 平
    TEL:029-879-6047
 

 
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図1 : 新粒子が生成された様子。新粒子はK中間子とともにB中間子の崩壊から生成され、すぐにプサイプライム中間子とパイ中間子に崩壊する。解析した結果、新粒子は Z(4430) と名付けられた。
 

 
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図2 : 中間子は、クォークと反クォークが強い力で結合した粒子である。このうち、チャームクォークと反チャームクォークが結合したものを特に「チャーモニウム中間子」と呼ぶ。
 

 
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図3 : 中性粒子である X(3872) は単なるチャーモニウム中間子の一種と異なっているとはっきり判断できないが、今回発見された Z(4430) は荷電粒子であり、単なるチャーモニウム中間子とは考えられない。
 

 
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図4 : パイ中間子とプサイプライム中間子の組み合わせが持つ質量の分布。4,430MeV(4.4GeV)付近のピークが今回発見された Z(4430) 粒子。
 

【用語解説】
 
1)Belle実験グループ
  世界14の国と地域、55研究機関からの約400人の研究者からなる国際共同チームである。
 
2)クォーク
  物質を構成する最も基本的な粒子で6種類が存在する。3つの階層に分類され、それぞれ[アップ,ダウン]、[チャーム,ストレンジ]、[トップ,ボトム]と名付けられている。このうち、アップ、チャーム、トップは電荷+2/3を、ダウン、ストレンジ、ボトムは電荷‐1/3を持つ。また、各クォークには反対符号の電荷を持つ反粒子(反クォーク)が存在する。
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(反粒子は上に横線を付して表記するのが慣例である)  
 
3)プサイプライム粒子(ψ')、ジェイ/プサイ粒子(J/ψ)、チャーモニウム中間子
  中間子は、クォークと反クォークが強い力で結合した粒子である。例えばπ中間子はアップクォークと反ダウンクォーク、K中間子はアップクォークと反ストレンジクォークが結合した粒子である。色々なクォークと反クォークの組み合わせが考えられるが、このうち、チャームクォークと反チャームクォークが結合したものを特に「チャーモニウム中間子」と呼ぶ。ジェイ/プサイ粒子(J/ψ)やプサイプライム粒子(ψ')はチャーモニウム中間子の一種で、ジェイ/プサイ粒子の質量は3,097MeV、プサイプライム粒子(ψ')はジェイ/プサイ粒子(J/ψ)の励起状態で、その質量は3,686MeVである。
 
4)陽子
  原子核を構成する粒子の一つで、アップクォーク2個とダウンクォーク1個からなるハドロン粒子の一種。質量は938MeV。
 
5)チャームクォークを含む粒子として、チャームクォークと反アップクォーク(又は反ダウンクォーク)が結合したD中間子がある。X(3872) などの新粒子の質量は、既知のD中間子質量の2倍に近いため、チャームクォークと反チャームクォーク、さらに、アップクォークと反アップクォークの4つのクォークからなる複合粒子である可能性が指摘されている。しかし、これを単なるチャーモニウム中間子の励起状態とはっきり識別できる実験データはなく、結論はまだ得られていない。
 
6)強い力
  自然界に存在する4種類の力のうちの一つ。原子核内では陽子や中性子が離れないように結びつけている。陽子や中性子の内部ではクォークやグルーオンがこの力を媒介にして結びついている。
 

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