for pulic for researcher English
topics
home news event library kids scientist site map search
>ホーム >ニュース >プレス >この記事
last update:07/03/02  
  プレス・リリース 〜 07-02 〜 For immediate release:2007年03月02日
 
 
Belle実験が 中間子の「量子もつれ」を観測
 
高エネルギー加速器研究機構 
 
 
   【ポイント】
   100億電子ボルトというエネルギー領域でも「量子もつれ※1」が起こることを 中間子を用いて観測した。

 
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構で進められている「Belle実験※2」において、同実験グループがこれまでに収集したデータを解析した結果、初めて100億電子ボルトという非常に高いエネルギー領域において「量子もつれ」を観測しました。
 
歴史的には1935年にアインシュタインがポドルスキー、ローゼンとともに発表した「もつれた状態」に関する論文(以下、EPR論文)が物理法則の基礎に関する大きな論議を呼び起こし、20世紀の物理学論文の中で頻繁に引用されてきました。粒子が「もつれた状態」とは2個の粒子が、それぞれが独立に存在するのとは違った状態で存在するというもので、同論文発表までの常識では考えられない量子力学に特有な概念です。この論文によると、粒子は離れたところにある別の粒子のことを瞬時にして「知る」ことができることになり、一見、相対論や我々の直感とは矛盾する現象に見えます。
 
この一見奇妙な現象を理解するために、EPR論文発表以来約70年に渡り様々な実験が試みられ、可視光、分子、K 中間子などでは確かに「量子もつれ」が起こることが確認されています。今回、Belle実験グループは、これでまで収集したデータに基づいて、B 中間子における「もつれ」を確認しました。これは、100億電子ボルトという高いエネルギー領域(小さなサイズ)にまでこのもつれが起こることを示す観測結果です。
 
Belle実験グループが行った解析は次のとおりです。Bファクトリーでは電子・陽電子の衝突によってB 中間子と反B 中間子の対が生成されます。これらの粒子は1兆分の1秒という短い時間で崩壊しますが、この壊れた「かけら」はBelle測定器によって詳細に観測され、B 中間子が生成されてからどのくらいの時間でどのように壊れたかが測定されます。この様子を詳細に調べることによって、B 中間子が壊れるときに相手の反B 中間子のことを「知っていた」かどうか、すなわちB 中間子と反B 中間子が「もつれていたかどうか」を判定することができるのです。今回の解析で、B 中間子と反B 中間子が十分離れているにも関わらず、量子力学が予言するとおり、お互いのことを「知っている」という「もつれ」を示すことが証明されました。
 
この解析の結果、量子力学の不思議な性質である「もつれ」は1電子ボルト(可視光の実験)から100億電子ボルトという非常に幅広いエネルギー範囲(あるいは大きさのスケール)で起こるものであることが確かめられました。
 
量子力学は現代物理学の基礎となっており、半導体、レーザー、超伝導、化学、医療など幅広い分野の技術的発展を導きました。その一方で、「もつれ」のような不思議な現象があることは、我々の興味をそそります。また「もつれ」は、将来技術として期待される量子計算※3の基礎であり、その理解は21世紀の科学技術の発展に非常に重要であると考えられています。
 
この結果は3月10日からイタリアのラ・テュイールで開催される素粒子物理学分野の国際会議「Rencontres de Moriond 2007」で発表されます。
 
 
  【関連サイト】 Belleグループwebページ
【本件問合わせ先】 高エネルギー加速器研究機構
  素粒子原子核研究所 教授
   山 内 正 則 (Belle実験共同代表)
    TEL:029-864-5352
  名古屋大学大学院理学研究科 助教授
   飯 嶋   徹 (Belle実験共同代表)
    TEL:052-789-2893
  高エネルギー加速器研究機構
  広報室長
   森 田 洋 平
    TEL:029-879-6047


image
図1:B 中間子は、生成された後にそれぞれの反粒子である反B 中間子(Bbar)に変化、その逆も起きる。つまりB 中間子または反B 中間子として検出される「確率」は振り子のように時間的に振動する。これを「BBbar(ビー・ビーバー)振動」と呼ぶ。
 

image
図2の1:BファクトリーではB 中間子と反B 中間子が同時に生成される。生成されたB 中間子と反B 中間子はそれぞれがBBbar振動し、各時刻でどちらとして検出されるかは量子力学の確率によってのみ決まる。このとき、ある時刻で一方がB 中間子として検出された場合に「相手がB 中間子であるか反B 中間子であるかは確率的に決まる(相手のBBbar振動は独立である)」とする立場と、「必ず反B 中間子となる(相手のことがわかる)」とする立場の2つがあり得る。
image
図2の2:量子力学ではこの場合、「必ず反B 中間子となる(相手のことがわかる)」とする立場を取る。これを「量子もつれ」と呼ぶ。2個の粒子が十分離れていてもこの立場を取るために、光の速度を超えて相手の粒子の状態がわかるというのは一見、相対性理論と矛盾しているように見える。
image
図2の3:実験ではB 中間子のある崩壊様式を検出する。この時、終状態の子供粒子の電荷情報から崩壊時点でのB 中間子か反B 中間子かを判別することができる。例えば子供粒子に陽電子がある場合の親はB 中間子、電子がある場合の親は反B 中間子と判別される。崩壊点の精密測定からそれぞれのB 中間子または反B 中間子の崩壊の時間差(Δt)を決定することができる。電子の代わりにミュー粒子(μ)に崩壊する場合も同様に測定される。
 

image
図3:量子力学にもとづく予想では、最初のB または反B 中間子(B 1)を検出した瞬間(Δt=0)、その相手(B 2)はすべて(100%)がB 1の反粒子である。その後、B 2は時間が経つにつれ、量子力学にもとづく遷移確率(cosΔmΔt)によってBBbar振動をする。
 

image
図4:Belle実験による測定結果は量子力学の予想と完全に一致し、量子力学とは異なる立場を取るモデルを棄却した。
 

【用語解説】
 
Belle実験
  高エネルギー加速器研究機構に建設されたKEKB加速器で電子と陽電子を衝突させることにより、B 中間子と反B 中間子の対を大量に発生させ、衝突点に設置したBelle測定器でその粒子崩壊過程を詳しく調べることによって物質と反物質の僅かな性質の違いを究明するもので、世界の約50の大学と研究機関に属する約400名の研究者によって構成されている国際共同実験である。
 
量子もつれ
  量子力学では、粒子などの物理状態は複数の可能な状態が同時に重ね合わさっているものとして取り扱われる。観測を行った瞬間に、このうちの1つの可能性が実現され、その状態に対応する物理量が観測されることになる。2つ以上の粒子の量子状態の場合には、この重ね合わせ状態は、個々の粒子の状態が「もつれ合っている」と理解され、1つの粒子の物理量を観測しただけで、残りの粒子の物理量が判明する場合がある。この相関現象は粒子の間の距離に依らず、また相関の性質を観測者が規定できるなど、古典物理学の下での相関と本質的に異なるもので、「量子もつれ」(量子エンタングルメント)と呼ばれている。KEK BファクトリーではB 中間子と反B 中間子がそれぞれ0.1ミリ程度飛行した後に崩壊し、量子もつれが観測される。この距離は原子や分子の大きさよりもはるかに大きい。
 
量子計算
  複数の可能性をもつ量子状態を何個か相互作用させることによって、それぞれの可能性について相互作用を時間発展させることができる。人間が観測した瞬間に、それぞれの可能性のいずれか1つが実現されるが、時間発展は同時並行的に行われるので、原理的には超並列計算を行うことが可能とされる。この原理を量子計算または量子コンピューティングと呼ぶ。
 
 

copyright(c) 2007, HIGH ENERGY ACCELERATOR RESEARCH ORGANIZATION, KEK
〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1
proffice@kek.jpリンク・著作権お問合せ