J-PARC
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       プレス・リリース 〜 07-09 〜 For immediate release:2007年11月01日
   
 
J-PARC中性子源の水銀連続供給試験に成功
− 液体金属用小型電磁ポンプを新開発 −
   
J-PARCセンター 
   
● ポイント
大強度陽子加速器施設(J-PARC)1)の中性子発生用水銀循環設備2)に、新たに開発した永久磁石回転式電磁ポンプ3)を設置し、大容量の水銀(総量約20トン)を安定してターゲット容器に供給することに成功しました。
 
新開発の電磁ポンプでは、世界最高クラスの磁場強度を持つ永久磁石の周囲に水銀流路を設置することで、小型化と十分な流量の確保という特長を両立していることから、溶融金属の駆動用ポンプとして一般産業(例:アルミ合金等の鋳造用のポンプとして自動車のエンジン製造等)への利用も期待されています。
 
● 概要
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡崎俊雄 以下「原子力機構」という)と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(機構長 鈴木厚人)の共同運営組織であるJ-PARCセンター(センター長 永宮正治)では、大強度陽子加速器施設(J-PARC)の建設及び運営を進めています。J-PARCでは、従来の約6倍以上の強度を持つ中性子ビーム4)を発生させて、多岐にわたる中性子利用実験を実施する予定です。そのため、原子力機構では中性子源の高度化に係る技術開発を進めています。
 
J-PARCの中性子源装置では光速近くに加速した大強度の陽子をターゲット5)に衝突させ、核破砕6)によって中性子ビームを発生させます。このときに発生する熱によってターゲットが破損するおそれがあるためターゲットを冷却する必要があります。従来の中性子源装置では、水で重金属固体ターゲット材を冷却する方式を採用していましたが、この方式ではJ-PARCで目指すような高出力ターゲットにおいては、冷却のための水の量を多くする必要があり、相対的にターゲット材の割合が減少して中性子の発生効率が悪くなります。そこで、J-PARCではターゲット材自身が冷却材として機能する液体重金属の水銀をターゲット材として用いる方式を採用しました。
 
この方式では循環設備によって水銀をターゲット容器に供給する必要がありますが、それに用いるポンプとして機械式ポンプを利用した場合は、小型である反面、循環設備の外部からの動力を伝える部分から放射化した水銀が漏洩する懸念がありました。一方、電磁ポンプは水銀と外部との接点がないため水銀の漏洩の懸念は低いものの、効率が悪く、ターゲットの冷却に十分な流量を確保することが困難でした。
 
そこで、今回、原子力機構は助川電気工業(株)と共同で、小型高効率の永久磁石回転式電磁ポンプを開発しました。新開発の電磁ポンプでは、世界最高クラスの磁場強度を持つ実用永久磁石を用い、水銀流路の寸法と形状を最適化することで、小型化と十分な流量の確保の両立を可能にしました。
 
 
  【関連サイト】 J-PARC webページ
日本原子力研究開発機構
 
  【本件に関する問い合わせ先】
  (技術的内容について)
 J-PARCセンター
   粉川 広行
    TEL:029-282-5074
(報道担当)
 独立行政法人日本原子力研究開発機構
  広報部次長 花井 祐
    TEL:03-3592-2346
 
 大学共同利用機関法人
 高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 森田 洋平
    TEL:029-879-6047
 

[用語解説]
 
1)大強度陽子加速器施設(J-PARC)
日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で茨城県東海村に建設中の陽子加速器施設と利用施設群の総称。
加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの最先端研究及び産業利用が行われる予定。
 
2)水銀循環設備(→補足資料1
水銀ターゲットに水銀を循環・供給するための設備で、水銀ターゲットの陽子ビーム進行方向後ろ側に設置される。主な構成機器は、ポンプ、熱交換器、及びサージタンクで、これらの機器が、直径150mmの配管でつながれ、放射化水銀を封じ込めた状態で循環させる。
 
3)永久磁石回転式電磁ポンプ(→補足資料2
永久磁石回転式電磁ポンプは、円筒状のマグネットローターと呼ばれる機器の周囲に水銀流路を設置する。マグネットローターの表面には永久磁石のN極とS極を交互に配置し、マグネットローターの回転により発生するローレンツ力(電磁力)によって水銀を流動させる。
電磁ポンプではポンプ効率が悪いため、高効率化が重要な課題である。流路構造材に関しては、板厚を厚くすると電磁発熱によるエネルギー損失が大きくなりポンプ効率が低下し、薄くすると構造強度が不十分となる。
原子力機構と助川電気工業(株)では、試作機を製作し、ポンプ特性を評価するとともに数値解析を実施して、最適な磁場分布、水銀流路構造材の板厚などのポンプ形状について検討を行ってきた。
 
4)中性子ビーム
陽子を核破砕ターゲットに入射させると中性子等が放射状に発生する。
この中性子を、最適なエネルギーに減速し、ある一定方向に取り出したものを中性子ビームという。
この中性子ビームは、中性子散乱等の実験に用いられる。J-PARCにおける中性子ビーム強度は、同種の中性子発生装置としては、これまで世界最高性能だった英国のISISと比較して約6倍以上の強度を持つ。
 
5)ターゲット
高い原子番号の原子核(重金属等)を入射標的にして中性子発生効率を高めた標的システムを(核破砕)ターゲットと呼ぶ。
従来の標的システムでは、タングステンやタンタルなどの重金属固体ターゲットを水で冷却しており、陽子ビームの最大出力は160kW(ISIS:英国)である。陽子ビームの出力が高くなると、冷却のための水の量を増やさなければならず、相対的に標的システム内での重金属固体ターゲットの割合が減り、中性子の発生効率が悪くなる。
 
6)核破砕
高いエネルギーの陽子ビームが原子核に入射すると、原子核がバラバラになり多量の中性子などが放出される。この核反応を核破砕反応と言う。また、この反応の際に熱の発生を伴う。
 

 
[補足資料1]

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中性子源の水銀循環設備
 
中性子源は、重金属ターゲットに陽子ビームを打ち込んで中性子を発生させる。ターゲット材に液体金属である水銀を用いるJ-PARCの中性子源では、水銀ターゲットの陽子ビーム進行方向後ろ側に水銀循環設備を設置し、水銀ターゲットに水銀を循環させる。水銀循環設備の主な構成機器は、ポンプ、熱交換器、及びサージタンクで、これらの機器は、直径150mmの配管でつながれ、ターゲットへ水銀を供給する。1.2m3(約20トン)の水銀をポンプで、ターゲットで発生した熱を除熱するために必要な流量41m3/hで流動させ、熱交換器で約500kWの熱を除去する。
また、これらの機器は、水銀が放射化するため、水銀を封じ込めた状態で循環させるとともに、構成機器の交換は遠隔で行う必要がある。構成機器は、長さ5.4m、幅2.6mの水銀設備台車上の狭い空間に設置し、この台車を遠隔交換位置まで移動し、機器の遠隔交換を行う。
 

 
[補足資料2]

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永久磁石回転式電磁ポンプ構造

従来の電磁ポンプは、直線状の流路周りにコイルを設置し、コイルに電流を流すことにより、流路に直交した磁界を、流路方向に進行させた際に発生する電磁力によって、流体を駆動させる。駆動力は、電磁力作用長さに比例するため、大きな駆動力を得るためには、ポンプの長さが長くなってしまう。
永久磁石回転式電磁ポンプは、円筒状のマグネットローターと呼ばれる機器の周囲に水銀流路を設置する。マグネットローターの表面には、永久磁石のN極とS極を交互に配置し、モーターによりマグネットローターを回転させ、そのときに電磁誘導によって発生する電流と回転移動する磁場による電磁力によって水銀を流動させる。
本ポンプでは、世界最高性能の実用永久磁石(磁束密度:0.65T、キューリー点:200℃)を用いて、最高性能の永久磁石回転式電磁ポンプの開発を目指した。一方、電磁ポンプでは、電磁力の損失により発熱するが、水銀循環設備の熱交換器の容量と、ターゲットでの発熱を考慮すると、ポンプでの発熱を100kW以下に抑える必要があるため、モーターの出力を90kWとした。また、水銀流路ダクトの必要な箇所に補強を加えた薄肉構造のΩ型として、十分な構造強度を有し、発熱による損失を抑制して十分なポンプ特性を得る構造とした。(特許出願中)。
その結果、水銀ターゲットの冷却に十分な流量の水銀を連続的に安定して供給することができた。また、電磁ポンプは、水銀流路との摺動部分が無いため、運転時の騒音、及び水銀流路の振動を極めて低くすることができた。
 
 
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