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last update:08/08/22  
  プレス・リリース 〜 08-16 〜 For immediate release:2008年08月05日
 
 
Belle実験の最新の結果について
− 3種類の新しい中間子を発見 −

 
大学共同利用機関法人 
高エネルギー加速器研究機構 
 
発表の骨子
高エネルギー加速器研究機構の電子陽電子衝突型加速器を用いた実験では、これまでも従来の中間子の描像にあてはまらない新種の中間子を発見してきたが、さらに今回、これまで知られていない新しい中間子を3種類発見した。これらの発見により、クォークの強い相互作用による物質形成の研究に拍車がかかると期待される。
 
概 要
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)の電子陽電子衝突型加速器(KEK Bファクトリー:KEKB)を使って実験を行っているBelle実験グループ※1は、新種の中間子を発見した。同実験では、従来の中間子の描像にあてはまらない粒子(エキゾチック粒子※2)の発見が相次いでいるが、今回さらに新しい3種類の中間子を発見した。これらの発見によりクォーク※3強い相互作用※4による物質形成の研究に拍車がかかると期待される。この成果は、7月30日から米国フィラデルフィアで開催の高エネルギー物理国際会議(ICHEP08)において発表された。
 
中間子は、1個のクォークと1個の反クォークが強い力で結合した状態として説明されている。Belle実験では、これまでに従来の中間子の描像にはあてはまらないX(3872)、Y(4260)、X(3940)、Y(3940)と呼ばれる新粒子を発見している。これらの新粒子は、陽子※5のおよそ4倍から4.5倍の質量をもち、チャームクォークと反チャームクォークが結合した「チャーモニウム中間子」と1個または2個のパイ(π)中間子に崩壊するのが特徴で、測定された質量を使って、Z(4430)〔質量4,430メガ電子ボルト(MeV)という意味〕などの記号で表されるが、その奇妙さからエキゾチック粒子と呼ばれ、4個のクォークでできた粒子である可能性が指摘されていた(図1)。
 
今回、Belle実験グループの研究者らは、カイ−c1(χc1)と呼ばれるチャーモニウム中間子の仲間に注目し、カイ−c1粒子と1個のパイ中間子に崩壊する新粒子を2種類発見した※6。新粒子は、KEKB加速器で生成されたB中間子の崩壊の中に発見され、測定された質量は4,051MeV及び4,248MeVである(図2)。これらの新粒子は、昨年発見されたZ(4430)と同様、電荷を持つ点が特徴である。このような電荷をもつ粒子は、チャームクォークと反チャームクォークに加えて、少なくともあと2個のクォーク(例えば、アップクォークと反ダウンクォークなど)とあわせて合計4個のクォークで構成されることが必要となる。
 
さらに、同実験グループは、ボトムクォークと反ボトムクォークが結合した「ボトモニウム中間子」の仲間であるウプシロン(Υ※7と呼ばれる中間子にも着目し、KEKB加速器による電子と陽電子の衝突エネルギーを変化させながら、ウプシロン粒子とパイ中間子2個が生成される反応率を測定した※8。その結果、この反応率が衝突エネルギー10,890MeV付近で急激に増加することを見出した(図3)。反応率のこのような急激な増加は共鳴現象と呼ばれ、このエネルギーに対応した質量(陽子の約11.6倍)を持ち、ウプシロン粒子とπ中間子2個に崩壊する粒子が生成されたことを示唆している。その解釈には色々あるが、Belle実験グループでは、ボトムクォークと反ボトムクォークを含んだエキゾチック粒子の存在を示唆する結果として注目している。
 
Belle実験は、1999年の実験開始以来、「CP対称性の破れ」と呼ばれる粒子と反粒子に働く物理法則の違いに関する研究で多くの成果をあげてきたが、エキゾチック粒子の相次ぐ発見は、クォークに働く強い力によって形成される物質の新しい形態を示す成果としても注目されている。今回の発見によって、4個のクォークでできた粒子の存在がより確実となり、エキゾチックな粒子が、チャームクォークだけではなく、さらにボトムクォークを含んだ粒子系にも拡がっている可能性が示された。Belle実験では、こうしたエキゾチック粒子の全貌についても今後解明していく。
 
 
 
 【関連サイト】 Belleグループwebページ
【本件問合わせ先】 高エネルギー加速器研究機構
 素粒子原子核研究所
  教授 山 内 正 則 (Belle実験共同代表)
   TEL:029-864-5352
  名古屋大学
 大学院理学研究科
  准教授 飯 嶋  徹 (Belle実験共同代表)
   TEL:052-789-2893
  高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 森 田 洋 平
   TEL:029-879-6047
 

 
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図1 : 従来知られていた中間子は、1個のクォークと1個の反クォークが強い力で結合した状態として説明されている。この描像で説明できないものを「エキゾチック」と総称し、4個のクォークで構成された状態などが考えられる
※赤字の部分について誤りがありましたので、お詫びして訂正します。
 

 
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図2 : パイ中間子とカイ−c1粒子の組み合わせが持つ質量の分布。4,050MeV(メガ電子ボルト)及び4,250MeV付近のピークが今回発見された粒子に対応する。新粒子はB中間子の崩壊反応;B中間子→K中間子+新粒子で生成され、パイ中間子+カイ−c1粒子に崩壊したと考えられる。
 

 
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図3 : 電子・陽電子衝突でウプシロン粒子とπ中間子2個が生成される反応率の測定結果。横軸は電子と陽電子の衝突エネルギー。結果は3種類のウプシロン粒子〔Υ(1S)−青、Υ(2S)−赤、Υ(3S)−緑〕それぞれを示している。どの測定においても反応率が衝突エネルギー10,890MeV付近で増加している。縦点線はΥ(5S)と呼ばれる既知の粒子の質量値で、見つかった共鳴状態はそれよりも大きな質量を持っている。
 

【用語解説】
 
※1 Belle実験グループ
  世界14の国と地域、59研究機関からの約360人の研究者からなる国際共同チームである。
※赤字の部分について誤りがありましたので、お詫びして訂正します。
 
※2 エキゾチック粒子
  クォークは自然界に単独で存在せず、クォーク3個からなる重粒子(バリオン)、またはクォーク1個と反クォーク1個の組からなる中間子(メソン)として物質を構成する。この組み合わせ以外のクォークの集まりからなる粒子を総称してエキゾチック粒子と呼ぶ。
 
※3 クォーク
  物質を構成する最も基本的な粒子で6種類が存在する。3つの階層に分類され、それぞれ[アップ, ダウン]、[チャーム, ストレンジ]、[トップ, ボトム]と名付けられている。このうち、アップ、チャーム、トップは電荷+2/3を、ダウン、ストレンジ、ボトムは電荷−1/3を持つ。また、各クォークには反対符号の電荷を持つ反粒子(反クォーク)が存在する。
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(反粒子は上に横線を付して表記するのが慣例である)  
 
※4 強い相互作用
  自然界に存在する4種類の力のうちの一つ。原子核内では陽子や中性子が離れないように結びつけている。陽子や中性子の内部ではクォークやグルーオンがこの力を媒介にして結びついている。
 
※5 陽子
  原子核を構成する粒子の一つで、アップクォーク2個とダウンクォーク1個からなるハドロン粒子の一種。質量は938MeV。
 
※6 ジェイ/プサイ粒子(J/Ψ)、プサイプライム粒子(Ψ')、カイ−c1粒子(χc1)、チャーモニウム中間子
  中間子は、クォークと反クォークが強い力で結合した粒子である。例えばπ中間子はアップクォークと反ダウンクォーク、K中間子はアップクォークと反ストレンジクォークが結合した粒子である。色々なクォークと反クォークの組み合わせが考えられるが、このうち、チャームクォークと反チャームクォークが結合したものを特に「チャーモニウム中間子」と呼ぶ。ジェイ/プサイ粒子(J/Ψ)、プサイプライム粒子(Ψ') カイ−c1粒子(χc1)はチャーモニウム中間子の一種で、それぞれの質量は、3,097MeV、3,686MeV、3,511MeVである。
 
※7 ウプシロン粒子(Υ)、ボトモニウム中間子
  ボトムクォークと反ボトムクォークが結合したものを「ボトモニウム中間子」と呼ぶ。ウプシロン粒子(Υ)はボトモニウム中間子の1種で、Υ(1S)、Υ(2S)、Υ(3S)、Υ(4S)、Υ(5S)などの複数の励起状態が知られており、それぞれの質量は、9,460MeV、10,023MeV、10,355MeV、10,860MeV、である。
 
※8 Bファクトリー実験では、通常は加速器エネルギーを10,580MeVに設定して、大量のB中間子と反B中間子を生成し、粒子−反粒子対称性の破れを中心テーマとする研究を行っている。今回の成果は、KEKB加速器の衝突輝度(ルミノシティー)の高さを活かして、短期間のうちに衝突エネルギーを変えたデータを取ることで可能となった。今後のBelle実験では、こういった加速器エネルギーを変えた測定による成果も期待される。
 

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