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last update:08/01/16  
  プレス・リリース 〜 08-01 〜 For immediate release:2008年1月16日
 
 
ブラックホールの内部構造、解明へ
− 超弦理論の予測をスパコンで検証 −

 
 
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 
独立行政法人理化学研究所 
 
 
発表の骨子

大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構と独立行政法人理化学研究所を中心とする研究チームは、素粒子の究極理論とされる超弦理論※1の計算機シミュレーションに成功し、ブラックホールの内部の様子を世界で初めて明らかにした。
 
【概要】
ブラックホールは、質量が極度に集中している天体で、重力があまりにも強いために周囲の時間と空間が歪み、光やすべての物質はブラックホールの内部に閉じ込められてしまう。これに対して、1974年、英国の物理学者であるホーキング博士は、ブラックホールが光などを放出しながら少しずつ小さくなるという、いわゆるホーキング輻射※2の存在を理論的に示し、ブラックホールには温度という概念が定義され、ブラックホールが持つエネルギーとの関係が導きだされた。しかし、この温度とエネルギーとの関係をブラックホールの内部構造から説明する試みはこれまで成功していなかった。
 
また、ブラックホールの中心付近では、時空の歪みの大きさがアインシュタインの一般相対性理論※3の適用限界を超えてしまうため、その内部構造の解明は困難であった。
 
今回、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)と独立行政法人理化学研究所を中心とする研究チーム(研究責任者KEK西村淳准教授)は、素粒子の究極理論とされる超弦理論に基づき、ブラックホール内部の状態をスーパーコンピュータによってシミュレーションすることに成功した。素粒子の究極理論とされる「超弦理論」においては、すべての素粒子を極めて小さな「弦」の様々な振動のしかたとして表すが、その中には重力を媒介する粒子も含まれ、一般相対性理論を素粒子のスケールまで自然に拡張することができる。このことから超弦理論を用いればブラックホールの内部構造を解明できると期待されていたが、弦の間に働く相互作用が強いため具体的な計算は難しく、超弦理論の予測を実証できるかどうかについて世界の理論物理学者の注目が集まっていた。
 
今回の研究成果により、ホーキング博士によって理論的に示されているブラックホールの性質が、超弦理論によって説明可能であることが実証されたことになる。
 
なお、本研究成果は、米国の科学誌『フィジカル・レビュー・レターズ』オンライン版に1月15日掲載された。
 
【研究内容】
本研究では、「弦」の振動を周波数に応じて効率的に数値計算する新しい手法を確立し、ブラックホールの中心付近に端を持つ多数の弦がランダムに揺らいでいる状態(弦の凝縮状態※4)のエネルギーを超弦理論に基づき計算した(図1)。その結果を温度に対してプロットしたものが図2であるが、温度が下がるにつれて、ホーキング博士の理論から導かれるブラックホールのエネルギーの振る舞いに一致することが示された。この結果により、超弦理論の予測するブラックホールの内部が、世界で初めて実証された。
 
今回の計算には主に、KEKのスーパーコンピュータ「日立 SR11000モデル K1」(図3)が用いられた。
 
【本研究の意義】
超弦理論が、一般相対性理論を素粒子のスケールまで拡張する究極理論として提唱されてから20年以上になるが、具体的な計算の難しさから、その実在性や有用性は明らかでなかった。本研究成果によりブラックホールの持つ性質が超弦理論によって理解できたことは、超弦理論の実在性を示すものである。また本研究により、コンピュータを用いた超弦理論の新しい解析手法が確立したことは、超弦理論を様々な問題に応用する可能性を切り開くものである。今後、ブラックホールの「蒸発」現象や、宇宙の起源、万物の創成などの解明において、超弦理論が重要な役割を果たすことが期待される。
 
【本件に関する問い合わせ】 高エネルギー加速器研究機構
      素粒子原子核研究所
        准教授 西 村  淳 
          TEL:029-864-5398

高エネルギー加速器研究機構
      広報室長 森 田 洋 平
          TEL:029-879-6047
 

 
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図1 : 超弦理論の予測するブラックホールの内部構造を表す概念図(弦の凝縮状態)。
 

 
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図2 : 「弦の凝縮状態」のエネルギーを温度に対してプロットした図。実線がホーキング博士の理論に基づいて計算されるブラックホールのエネルギーを表す。一般相対性理論に基づく計算が有効になる低温領域において、両者が近づいていく様子が確認された。
 

 
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図3 : 本研究に使用したスーパーコンピュータ「日立 SR11000 モデル K1」。理論演算性能 2.15テラフロップスを持つ。2006年3月からKEKで稼動している。
 

【用語解説】
 
※1 超弦理論
  素粒子の間に働く基本的な相互作用としては、電磁気力、弱い相互作用、強い相互作用、重力の4つが存在する。重力以外の3つの相互作用を記述する理論は存在するが、重力を含めた素粒子理論に関しては、現在も様々な研究が進められている。超弦理論では、すべての素粒子を、一次元的な拡がりを持ったもの(「弦」)の様々な振動モードと考えることによって、重力を含めた4つの相互作用を統一的に記述することが可能になる。
 
※2 ホーキング輻射
  ブラックホールが光などを放出しながら少しずつ小さくなる現象。素粒子理論によると、何も存在しないと考えられる真空中でも、粒子と反粒子が対になって生成しては消滅するという過程が絶えず起こっている。このような効果をブラックホールのまわりで考えることで、ホーキング輻射が導かれる。
 
※3 一般相対性理論
  1915年〜1916年にアインシュタインが考案した重力の理論。物体に質量があると、その周りの時空が歪み、重力はその歪みとして導かれる。時空の歪みが小さい範囲では、近似的にニュートンの万有引力の法則と一致する。一般相対性理論の正しさを裏付ける現象としては、水星の近日点移動や重力レンズ効果などが知られている。大きな質量が狭い領域に押し込められた状況では、まわりの時空が著しく歪み、ブラックホールが形成されることが導かれる。一般相対性理論の登場により、時空そのものが力学の対象となり、ビッグバン理論に基づく宇宙論へと発展した。
 
※4 弦の凝縮状態
  超弦理論において、素粒子を表す「弦」が凝縮してできる状態。1995年に発見されて以来、超弦理論の研究が大きく発展した。この様な状態の中には、遠方から見るとブラックホールに見えるものがあり、ブラックホールの内部構造を解明するために本研究でも用いられた。
 

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