J-PARC
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       プレス・リリース 〜 08-08 〜 For immediate release:2008年05月21日
   
 
J-PARC中性子源で世界最大級の極低温水素循環システムが完成
−世界最高性能の大強度中性子ビームの安定な供給に期待−
   
J-PARCセンター 
   
大強度陽子加速器施設(J-PARC)※1において、大流量・超臨界圧状態の極低温水素(圧力1.5MPa、温度20K(-253℃))を強制循環する世界最大級の極低温水素循環システム※2を国内で初めて製作・設置し、この度、世界最大となる流量(約8m3/h)の極低温水素を安定して循環させることに成功しました。
 
本システムによって中性子を冷却する(エネルギーを下げる)ことで、J-PARCでの多様な実験に適応したエネルギーの大強度中性子ビームを供給することが可能となります。
 
●概 要
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡崎俊雄 以下「原子力機構」という)と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(機構長 鈴木厚人)の共同運営組織であるJ-PARCセンター(センター長 永宮正治)は、J-PARCの建設及び運営を進めています。
 
高エネルギー陽子が原子核に衝突すると、原子核がバラバラになり中性子などの二次粒子を多量に発生する核破砕反応※3が起こります。核破砕中性子源※4ではこの核破砕反応により生じる高エネルギーの中性子(温度換算で数百億度)を、モデレータと呼ばれる水筒のような容器中の極低温水素の中に通過させることによって、約20Kまで冷やしてエネルギーを下げることで、多様な中性子実験装置に適した中性子ビームを供給します。特に、J-PARCの中性子源では、大強度なため、従来の冷却システムでは安定な中性子ビームを供給できないという課題がありました。このほど製作したJ-PARCの極低温水素循環システムは、世界初となる水素気体軸受けの極低温水素循環ポンプ※5を採用し、20K、1.5MPaの超臨界状態の水素をモデレータに世界最大の約8m3/hの流量で供給循環します。その結果、大強度の中性子エネルギーを吸収しても、水素の密度がほとんど変化せず、大強度で安定に低エネルギー中性子を実験に供給できることになり、上記課題を克服したものです。この度、この極低温水素循環システムの試運転を行い、安定した動作を確認しました。ここに、世界最高の中性子性能が期待できる中性子冷却システムとして、国内初であり、世界最大級の設備が完成しました※6
 
今回開発した水素冷凍システムの技術は、今後、水素エネルギー社会が展開して行く際、大量の水素輸送が不可欠となり、この水素を液体水素や超臨界水素等の高密度状態にして運ぶ輸送技術にも応用できることが期待されます。
 
 
  【関連サイト】 J-PARC webページ
日本原子力研究開発機構
  【問合わせ先】  
  J-PARCプロジェクトについて
 J-PARCセンター
  副センター長 大山 幸夫
    TEL:029-282-6809
(報道担当)
 独立行政法人 日本原子力研究開発機構
  広報部次長 花井 祐
    TEL:03-3592-2346
  技術的内容について
 J-PARCセンター
  中性子源セクション 麻生 智一
    TEL:029-284-3743
 高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 森田 洋平
    TEL:029-879-6047
 

【用語解説】
 
※1 大強度陽子加速器施設(J-PARC)
  日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で茨城県東海村に建設中の陽子加速器施設と利用施設群の総称で、光速近くまで加速した高エネルギー陽子により生み出される大強度量子ビーム(中性子、パイ中間子、K中間子、ミュオン、ニュートリノなど)を基礎研究や産業利用に供する施設。
 
※2 極低温水素循環システム(→補足資料-1
  J-PARCの核破砕中性子源において、-253℃(20K)、15気圧(1.5MPa)の超臨界水素を生成し、中性子源中心まで循環させて、モデレータに極低温水素を供給するシステム。モデレータ内では、この水素により中性子が実験に適した温度にまで冷やされる。モデレータ内の水素は核反応に伴う発熱により約3.8kWの熱負荷を受けるが、約8 m3/hの大流量・超臨界圧状態の極低温水素を供給することにより、水素の密度変化がほとんどなく、熱負荷に伴う温度上昇を3度以内に抑えることにより、安定した大強度の低エネルギー中性子ビームを供給することができる。
 
※3 核破砕反応
  約1億電子ボルト以上の高エネルギーに加速された陽子を水銀、鉛ビスマス、鉛、タングステン、タンタル、ウラン等の標的に入射することにより、標的の原子核がバラバラになり、陽子及び中性子などの多数の二次粒子を放出する反応を指す。
 
※4 核破砕中性子源
  加速器で生成した高エネルギーの陽子ビームが原子核に入射すると、原子核がバラバラになり、多量の中性子などが放出される(この核反応を核破砕反応と言う)。核破砕中性子源で生じる核破砕反応により生成した高エネルギー中性子(温度換算で数百億℃)を-250℃程度の実験に適した温度にまで冷やし、多様な中性子実験装置に冷中性子ビームとして供給する。実験装置では冷中性子ビームを利用した様々な実験が行なわれ、ライフサイエンス、工学、情報・電子、医療など、広範な分野の研究展開が期待されている。
 
※5 極低温水素循環ポンプ
  世界で初めて水素ガス中で動作する動圧式ガス軸受けを採用した遠心式ポンプ(ターボポンプ)。小型だが高回転(最大6万回転毎分)で動作するので、大流量を発生できる。本ポンプは、原子力機構が核融合開発で築いた超臨界ヘリウム循環ポンプのデータベースを利用して設計・製作された。
 
※6 補足資料-2
 

 
[補足資料-1]
 
image
 
極低温水素循環システムの構成
 
本システムは以下に示す工夫を行い、世界最大規模の大流量・超臨界圧状態の極低温水素を安定に循環することができた。
1) 近年多くの実績が得られているヘリウム冷凍システムと、可燃性ガスである水素の容量をできるだけ抑えた水素循環システムで構成された2元冷凍システムとした。
2) 実験利用に適した中性子ビーム(安定で低エネルギーの中性子)のためにはモデレータの温度を一定に保つことが重要である。国産初の大流量の超臨界水素を循環できる遠心式ポンプ(ターボポンプ)を採用することにより、3基のモデレータへの水素供給を並列流路として供給温度を一律に約18Kと一定にし、安定した中性子冷却を可能とした。
3) 一般に極低温流体の循環ループでは僅かな温度変動、密度変化によって大きな圧力変動が生じる。本水素ループではモデレータで約3.8kWの熱負荷を受けるため、このときの圧力変動を緩和する圧力調整システムを開発した。すなわち、加速器のON・OFFによる約3.8kWの熱負荷をヒータで補償し、不足分の補償や微少な変動をベローの伸縮によって容積制御を行うアキュムレータで吸収するハイブリッド圧力制御方式を採用した。
 

 
[補足資料-2]
極低温水素循環システムの比較
 
  ISIS(UK) SNS(USA) JSNS(J-PARC) JSNSの特徴
陽子ビーム出力 160kW 1.4MW 1MW  
水素モデレータ数 1基 3基 3基  
水素循環ループ数  
循環方式 超臨界水素強制
循環方式
超臨界水素強制
循環方式
超臨界水素強制
循環方式
実績を持つ信頼性の高い大流量超臨界ポンプを採用
水素循環流量 0.033kg/s
(1.7m3/h
0.129kg/s
(6.5m3/h
0.036kg/s
(1.8m3/h
0.032kg/s
(1.6m3/h
0.162kg/s
(8.2m3/h
水素循環ポンプ ボールベアリング式
遠心ポンプ2台
ボールベアリング式
遠心ポンプ3台
ガスベアリング式
遠心ポンプ2台
モデレータ部核発熱量 0.45kW 6kW 3.8kW  
モデレータ最大冷却圧力 1.5MPa 1.4MPa 1.5MPa 高密度で温度差の小さい均質な超臨界水素を供給するモデレータ冷却条件
モデレータ平均温度 20.0K 19.7〜20.0K 19.5K
モデレータ出入口温度差 2.5K 4.3〜5.0K 3.0K
オルソ・パラ水素変換器 高いパラ水素濃度(99%以上)を安定に供給し、高品質な冷中性子の生成
圧力変動制御機構 室温サージタンク 低温アキュムレータ ヒータ及び
低温アキュムレータ
ヒータとアキュムレータの併用によるハイブリッド圧力制御方式を採用
ヘリウム冷凍能力 0.63kW at 20K 7.5kW at 17K 6.0kW at 17K  
水素防爆構造 モデレータと水素輸送配管をヘリウムブランケット構造 モデレータと水素輸送配管をヘリウムブランケット構造 水素循環系全体をヘリウムブランケット構造 水素の外部漏洩に対し、より高い安全性を確保
 
 
現在、核破砕中性子源の中性子冷却用として超臨界水素の循環システムを有している施設は、英国のISIS、米国のSNS、そして日本のJ-PARCの中性子源(JSNS)である。
 
米国SNSの場合、1つの冷凍機で、3つの水素循環ループを持ち、1つのループに1基のモデレータ、1の循環ポンプで構成されている。一方J-PARCは、1つのループに3基のモデレータを装備し、冗長性を考えて2基の循環ポンプを持っている。したがって、(補足資料-1)の2)で説明したとおり、大流量の水素循環により3基のモデレータに並列で水素を供給することで供給温度を約18Kと一定にし、モデレータ出入口温度差を3K以内と小さくすることができた。これは、世界で初めて水素気体軸受けを採用した大流量に適した遠心式ポンプ(ターボポンプ)を開発したことによる。
 
 
 
 
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