J-PARC
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       プレス・リリース 〜 08-10 〜 For immediate release:2008年05月30日
   
 
J-PARCで最初の中性子発生に成功
   
J-PARCセンター 
   
茨城県東海村に建設中の世界最高性能の大強度陽子加速器施設、J-PARC※1では、光速近くまで加速された陽子ビームを、物質・生命科学実験施設に設置した核破砕中性子源※2に入射する試験を行い、平成20年5月30日、14時25分、核破砕反応※3による中性子発生に成功しました。平成13年から建設を開始したJ-PARCは、約7年の歳月をかけて完成に大きく近づきました。今後、試運転を継続しながら徐々に出力を上げ、本格的な利用運転(平成20年12月予定)を開始し、中性子を利用した物質や生命科学等の最先端の研究や材料、薬剤等の創成を狙った産業利用が展開される予定です。
 
● 概 要
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡崎俊雄)と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(機構長 鈴木厚人)の共同運営組織であるJ-PARCセンター(センター長 永宮正治)では、光速近くまで加速した高エネルギー陽子により生み出される大強度量子ビーム※4を基礎研究や産業利用に供する施設の建設を進めています。
 
J-PARCの建設は平成13年に開始され、物質・生命科学実験施設の中性子源は、その翌年の平成14年度から建設を開始、平成19年に建家が竣工、並行して機器据付けと調整を進めてきました。平成20年5月30日、14時25分、第1段加速器リニアック及び第2段加速器3GeVシンクロトロンで光速の約97%の速度にまで加速した数兆個の高エネルギー陽子の塊を初めて物質・生命科学実験施設に導入し、中性子源中心部において実際に標的である水銀の原子核をバラバラにする核破砕反応を起こしました。そして中性子源中心から14m離れた実験室において1cm2あたり数万個の中性子を観測し、初の中性子発生に成功したことを確認しました(補足資料2)。この中性子数は事前の推計値とほぼ等しく、設計どおりの性能を有することが実証されました。今後、試運転調整を行ないながら徐々に出力を上昇させ、平成20年12月には各実験装置に中性子ビーム※5を供給し、本格的な利用運転を開始する予定です。
 
J-PARCはこれまで高エネルギー陽子を生み出す加速器の調整試験を進めてきましたが、いよいよ中性子を利用した試験・実験をはじめとする実験研究施設の試験運転が開始されることになります。J-PARCは核破砕反応により強力な中性子を生み出す我が国では唯一の施設であり、瞬間的な中性子強度で世界最高性能が期待されています。今後、中性子の特徴を生かした物質科学や生命科学等の最先端の研究や、材料、薬剤等の創成を狙った産業利用への展開が行われる予定です。
 
 
  【関連サイト】 J-PARC webページ
日本原子力研究開発機構
  【問合わせ先】  
  J-PARCプロジェクトについて
 J-PARCセンター
  副センター長 大山 幸夫
    TEL:029-282-6809
(報道担当)
 独立行政法人 日本原子力研究開発機構
  広報部次長 花井 祐
    TEL:03-3592-2346
  技術的内容について
 J-PARCセンター
  中性子源セクション 前川 藤夫
    TEL:029-282-6217
 高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 森田 洋平
    TEL:029-879-6047
 

 【用語解説】
 
※1 大強度陽子加速器施設(J-PARC)
  日本原子力研究開発機構(JAEA)と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同で茨城県東海村に建設中の陽子加速器施設と利用施設群の総称。
加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの最先端研究及び産業利用が行われる予定。
 
※2 核破砕中性子源(→補足資料1
  加速器で生成した高エネルギーの陽子ビームがある原子核に入射すると、その原子核がバラバラになり、多量の中性子などが放出される(この核反応を核破砕反応と言う)。核破砕中性子源で生じる核破砕反応により生成した高エネルギー中性子(温度換算で数百億℃)を-250℃程度の実験に適した温度にまで冷やし、多様な中性子実験装置に中性子ビームとして供給する。実験装置では中性子ビームを利用した様々な実験が行なわれ、ライフサイエンス、工学、情報・電子、医療など、広範な分野の研究展開が期待されている。
 
※3 核破砕反応
  約1億電子ボルト以上の高エネルギーに加速された陽子を水銀、鉛ビスマス、鉛、タングステン、タンタル、ウラン等の標的に入射することにより、標的の原子核がバラバラになり、陽子及び中性子などの多数の二次粒子を放出する反応を指す。
 
※4 量子ビーム
  高エネルギー陽子を標的に衝突させると、二次粒子として中性子、パイ中間子、K中間子、ミュオン、ニュートリノなどが発生する。J-PARCの実験施設では、これら「量子」と総称される粒子をビームとして利用する。
 
※5 中性子ビーム
  核破砕中性子源において高エネルギー陽子を標的に入射させると、中性子等が放射状に発生する。この中性子を最適なエネルギーに減速し、ある一定方向に取り出したものを中性子ビームという。この中性子ビームは、物質の構造や動きを研究するための中性子散乱等の実験に用いられる。
 

 【補足資料1】
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核破砕中性子源(J-PARCの例)
中性子源全体は、直径10m、高さ9mの鉄鋼製容器(アウターライナー)に収納されています。そのほぼ中心に水銀ターゲットが設置されており、これに1MWの陽子ビームを打ち込み、水銀の原子核を核破砕反応でバラバラにして毎秒1017個の中性子を発生させます。
 
水銀ターゲットの上下には、約20K(-253℃)の極低温水素を循環させたモデレータと呼ばれる機器が設置され、このモデレータによりターゲットで発生した高エネルギー中性子(温度換算で数百億℃)を-250℃程度まで冷やします。
 
こうして実験に最適化された中性子は、中性子源から放射状に23本のビームラインへ取り出され、各ビームラインに設置された様々な実験装置へ供給されます。中性子ビームシャッターを上下駆動させることにより、実験者が中性子ビームの供給と停止を選択できます。
 
また、中性子源のその他の空間は、余分な中性子が外部へ到達するのを防ぐための遮蔽体で満たされています。
 

 【補足資料2 初中性子の時間スペクトルの図】
 
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 【補足資料3 J-PARC写真】
 
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拡大図(61KB)
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拡大図(78KB)
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拡大図(87KB)
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拡大図(73KB)
 

 【補足資料4 J-PARC工程表】
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