J-PARC
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       プレス・リリース 〜 08-15 〜 For immediate release:2008年07月17日
   
 
J-PARCの中性子回折実験装置が世界最高の分解能を達成
   
J-PARCセンター 
   
大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(機構長 鈴木厚人 以下「高エネ機構」)と独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡崎俊雄 以下「原子力機構」)の共同運営組織であるJ-PARCセンター(センター長 永宮正治)は、大強度陽子加速器施設J-PARC※1の今年12月の一部施設利用開始を目指して調整運転を進めています。
 
このうち、物質・生命科学実験施設(MLF)の「超高分解能粉末中性子回折装置SuperHRPD※2」が、機器調整過程の平成20年6月末、世界最高の分解能※3を達成したことを、データ検証の結果、確認いたしました。
 
今年12月に中性子利用実験を開始するJ-PARCは、SuperHRPDを初めとする高性能実験装置が幅広いユーザーに利用され、最先端研究の進展に大きく貢献することが期待されています。
 
●概要
J-PARCは、光速近くまで加速した高エネルギー陽子をターゲットに衝突させることにより生み出される大強度量子ビーム※4を利用して多様な実験を行う研究施設であり、このうちMLFは核破砕反応※5により強力なパルス状中性子を生み出す施設です。
 
SuperHRPDはMLFの中性子利用ビームライン、BL-08に設置された実験装置です。粉末にした物質に様々な角度からパルス状の中性子を照射し、通過する中性子線の強さを解析することにより物質中の原子の位置や並びなどを調べることができます。今回SuperHRPDが達成した世界最高の分解能となる0.037%という値は、英国ラザフォード・アップルトン研究所が持つ同種装置の分解能0.05%を上回る値で、SuperHRPDが世界有数の高性能な実験装置であることを意味します。今回の成果は、高エネ機構と原子力機構における高性能パルス中性子源の開発と、100メートルに及ぶ長尺ビームラインで中性子を輸送する技術、高性能計測技術等を結集して達成したものです。
 
本成果により、物質の原子レベルでの構造をより詳細に知ることが可能となります。SuperHRPDは世界最高性能の実験装置として、磁性や誘電性等を併せもつマルチフェロイック物質※6や強相関電子系物質※7などに関する、最先端の物質構造科学研究への貢献が期待されています。
 
 
  【関連サイト】 J-PARC webページ
日本原子力研究開発機構
  【問合わせ先】  
  J-PARCプロジェクトについて
 J-PARCセンター
  副センター長 大山 幸夫
    TEL:029-282-6809
報道担当
 高エネルギー加速器研究機構
  広報室長 森田 洋平
    TEL:029-879-6047
  技術的内容について
 高エネルギー加速器研究機構
  大強度陽子加速器計画推進部
   教授 神山 崇
    TEL:029-284-4080
 日本原子力研究開発機構
  広報部報道課長 西川 信一
    TEL:029-282-9421
 

 【用語解説】
 
※1 大強度陽子加速器施設(J-PARC)
  高エネ機構と原子力機構が共同で茨城県東海村に建設中の陽子加速器施設と利用施設群の総称。
加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの最先端学術研究及び産業利用が行われる予定。
平成20年5月30日には、物質・生命科学実験施設(MLF)においてJ-PARC初の中性子ビームの発生に成功。
 
※2 超高分解能粉末中性子回折装置(SuperHRPD)
  中性子を用いた最先端の物質構造科学研究を推進することを目的に開発が進められてきた実験装置で、MLFのビームライン、BL-08に設置されている。
核破砕により発生した中性子をMLFが開発した高分解能減速材で減速させ、「中性子導管(ガイド管)」と呼ばれるガラス製の管に誘導し、約100メートル先の装置に導いて回折実験を行う。中性子が走る距離が長いほど中性子の速度を精密に計測できるため、分解能が高い中性子回折実験を行うことが可能で、100メートルという長さから長尺ビームラインと呼ばれて開発が行われてきた。今年12月からの中性子利用実験開始を前に機器調整を行うとともに、さらなる高解像度達成を目指した開発研究が進められている。
 
※3 分解能
  見分けられる最小の距離や大きさなどで表される、測定・識別する能力。本稿では、物質を通過した中性子線が起こす回折現象を解析することによって、原子の位置をどの程度特定できるかを数値化したもの。回折を示すデータのピークがシャープなほど値が小さく、解像度が高いことを示す。(図3を参照)
 
※4 量子ビーム
  高エネルギー陽子を原子核標的に衝突させると、二次粒子として中性子、パイ中間子、K中間子、ミュオン、ニュートリノなどの「量子」と呼ばれる粒子が発生する。J-PARCの実験施設では、これらの量子をビームとして利用し、実験を行う。
 
※5 核破砕反応
  約1億電子ボルト以上の高エネルギーに加速された陽子を、水銀、鉛ビスマス、鉛、タングステン、タンタル、ウラン等の標的に入射することにより、標的の原子核がバラバラになり、陽子及び中性子などの多数の2次粒子を放出する反応を指す。
 
※6 マルチフェロイック物質
  誘電性や磁性などの性質をあわせもつ物質。電場をかけることによって物質の磁気的な性質を操作できることなどから、スイッチング素子等の開発に利用されている。現在、その性質の背後にある物理について、微視的レベルでの解明が求められている。
 
※7 強相関電子系物質
  金属にもなれば絶縁体にもなり、組成や条件によっては高温超伝導を示したり、また巨大磁気抵抗などの物理的性質をもつこともある物質。この特異な性質は、物質中の電子の間の相互作用が強いことに起因すると考えられているが、微視的レベルでのメカニズムはまだ十分に理解されていない。これらの理解は物理学上の重要なテーマである。
 
 

 
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図1 J-PARC全景
 

 
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図2 J-PARC MLFに建設中の中性子実験装置群
 

 
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図3 シリコンを用いた回折実験のデータ。高エネ機構にあった世界有数の回折装置Siriusのデータとの比較。ピークの形がシャープなほど分解能が高いことを示す。SuperHRPDは分解能1/3以下を達成しただけでなく、ブラック回折線に大きな裾がなくなり、1/10線幅では10倍以上改善された。
 

 
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図4 J-PARC MLF中性子源全体とモデレータの図。世界最高性能の時間分解能(時間のばらつきが小さい)の中性子ビームを発生した装置。
 

 
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